バルーン法 嚥下障害

バルーン法 嚥下障害

本邦でかなり広く行われている輪状咽頭筋機能不全に対する訓練法である。
角谷らや北條らの報告があり、訓練として膀胱バルーンを用いて、主に食道入口部(輪状咽頭筋部)を繰り返し拡張する。
従来から知られている食道ブジー法(特別な食道拡張用のブジーカテーテルを使用、癌や食道の手術後狭窄に一期的に行うもの)とは異なる。

主な対象者
ワレンベルグ症候群、多発性筋炎、特発性輪状咽頭嚥下障害などで、機能的に上部食道括約筋(輪状咽頭筋、食道入口部、咽頭食道接合部)が開大せず、食道入口部の食塊通過(咽頭クリアランス)が悪い症例。

バルーン法の適応
バルーン法の適応はVFにて症例ごとに判断する。初回VFにて食道入口部の開大不全による咽頭通過障害が認められ、他の方法(体幹体位、頸部の回旋、突出などの手技)で通過が不十分な場合、バルーン法を試行し、患者が耐えられる(バルーン挿入時に咳反射やgagがないか、少なく苦痛の訴えがないこと)と判断された場合。

バルーンのタイプ
膀胱留置バルーン(以下球状バルーン)と食道ブジー用バルーン(以下筒状バルーン)の2種を使用。
16フレンチ等使用する。

5種類のバルーン手技
a.球状バルーンによる間欠的拡張法: 慣れないと一番狭い部分を拡張することが出来ない。頸部を外から観察して拡張する場面が観察可能。
b.球状バルーンによる嚥下同期引き抜き法: 患者自身が行う方法として最もよい。単純引き抜き法より喉頭挙上効果、嚥下と同期したUESの開大効果が期待できる。
c.球状バルーンによる単純引き抜き法: 最も簡便に施行できる。
d.球状バルーンによるバルーン嚥下法: 誤嚥の危険が全くなく嚥下訓練が出来る。口腔から行う場合は顎を固定せず舌を口蓋に強く押しつけるか口唇をとがらせるとよい。
e.筒状バルーンによる持続拡張法: 訓練で行うより鎮静下で処置として施行する場合が多い。効果はあるが、この方法を用いなければならない患者は手術になることが多い。

バルーン法のプログラム
上記aからbの各手技を組み合わせ、原則として1日3回、1回20分から30分実施する。球状バルーンに注入する空気の量は、開始時は4cc(直径約1.5cm)から始めて徐々に量を増やし最高10cc(直径約2.3cm)程度とする。筒状バルーンは大きさにより空気の注入量は異なるが、十分拡張する量を用いる。開始後1~2週間は医師、ST、ナースらが行うが、上肢機能が良好であれば早期から患者自身で行えるよう指導する。

バルーン法の効果・改善のメカニズム
 球麻痺の急性期においては神経の自然回復がある程度期待できる。しかし、回復までに時間がかかると、その間は輪状咽頭筋部を食塊が全く通過しないため、輪状咽頭筋が筋拘縮を起こす可能性がある。筆者はバルーン法が回復までの輪状咽頭筋の廃用を防止する効果があると考えている。慢性期において狭窄をきたした輪状咽頭筋に対してはコンプライアンスを上昇させ、結合組織に対しては直接的な拡張効果が期待できる。さらに球麻痺では咽頭収縮と輪状咽頭筋の弛緩のタイミングがずれていることがある(incordination)が、嚥下同期バルーン引き抜き法を行うことによりタイミングを再学習する効果があると考えられる。バルーン法訓練をいつまでどのくらいの頻度で継続すべきかは現在検討中である。球麻痺患者は一度良くなっても経過中に悪化する例がある。悪化時の対策として、バルーン法をいつでも再開できるように準備しておく方がよいと考えている。術後の訓練としてもバルーン法は瘢痕狭窄予防の効果がある。

注意点など
迷走神経反射、局所の損傷などが起こりうる危険を伴う手技である。
適応の確認、経験豊富な医師の判断と監視下にて十分な説明と同意、実施上の注意、リスク管理ができる体制で実施すべきである。

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
http://www.iuhw.ac.jp/gakubu/gengo/syouroku/fujijima.htm
より参照。