90%の児童が正しく構音できる時期について

小児の構音障害を診る時には,健常児の構音の発達を考慮しなければいけません。

下記の表は、単語レベルで90%の児童が正しく構音できる時期を示しています。

子音の構音では,特に[s](サ行),[ts](ツ),[dz](ザ,ズ,ゾ),[r](ラ行)の完成が、他の子音に比べて大きく遅れており、4歳代ではこれらが不完全であっても必ずしも異常とは言えません。したがってこのような児では他の音の誤りの有無や、構音発達の経過に留意しなければいけません。

90%の児童が正しく構音できる時期
40カ月~45カ月
wjhcpbmt
dnkgtʃ 
46カ月~411カ月
ʃ 
50カ月~55カ月
sts
56カ月~511カ月
dzr
60カ月~

中西靖子,他:構音検査とその結果に関する考察.東京学芸大学特殊教育研究施設報告1121頁,より改変.

筋強直性ジストロフィー(MD)と摂食・嚥下障害

筋強直性ジストロフィーの摂食・嚥下機能の病態

国立病院機構筋ジストロフィー病棟の2000年から2004年のMDの死因を5年間の累計でみると、呼吸不全が27.9%、次いで呼吸器感染症21.8%、呼吸不全と呼吸器感染症併記が5.5%と呼吸器系の関与が目立ちます。
呼吸器感染症には誤嚥性肺炎も多く含まれていると考えられ、摂食・嚥下障害が、この疾患の予後と強い関連をもっていることを示唆しています。

嚥下障害を引きおこす要因には、ミオパチーによる嚥下筋力の低下、ミオトニア、中枢神経障害があげられています。
ミオトニアについては、筋電図により顎下筋の放電を確認した報告があります、嚥下運動の中でどのように関与しているかについては明らかではありません。

MDでは、認知期・準備期の問題、口腔の形態的・機能的問題、咽頭期・食道期の問題がいずれも存在します。CTG三塩基反復数と嚥下機能重症度との関連は明らかでないといわれています。
MD患者のなかには、誤嚥を繰り返しながら経口摂取を続けているものが少なからず存在すると推察されますが、自覚症状やスクリーニング検査で発見することは困難と言われています。

摂食・嚥下運動の各プロセスにおける障害


認知期


認知障害による摂食行動異常(次々に大きな食塊を口に詰め込むなどの行動)や病識の甘さなどがみられます。嚥下障害の自覚症状として、のみ込みにくさを45%、むせを33%が訴えているとの報告もありますが、一般に自覚の乏しい場合が多く、誤嚥のリスク管理上十分な観察が必要です。摂食・嚥下障害の自覚に乏しく、自食患者の誤嚥のリスクはかなり高いと言われています。この点を踏まえた、見守りと管理体制が必要となります。


準備期


不正咬合は35%にみられ、前歯と小臼歯部の歯が噛み合わない開咬があります。咀嚼力低下は不正咬合と咀嚼筋(咬筋と内側翼突筋)筋力低下の両者によってもたらされます。咬合力は健常者の1/10程度ですが、咀嚼障害について病識が少なく、不十分な咀嚼でのみ込む行動がみられます。不正咬合に対し、口腔外科的矯正手術が有効との報告があります。

口腔期


鼻咽腔閉鎖不全、軟口蓋挙上の遅れ、咽頭への送り込み障害が認められます。

咽頭期


咽頭蠕動の低下による食物の咽頭残留、喉頭蓋閉鎖不全や嚥下反射遅延による誤嚥があげられます。とくに誤嚥については自覚のない不顕性誤嚥が少なくありません。嚥下造影(VF)所見として、咽頭への送り込み障害、咽頭期における下咽頭での残留、誤嚥などがあげられます。また液体の誤嚥リスクが高く、自覚症状との関連は認められません。健常人に比して、食塊通過時間は長く、舌骨の動き始めが遅く、食道入口部の開大開始が遅いが、食塊の動きとの関係でみると、むしろ早いなどの報告があります。また、クエン酸吸入による咳誘発試験では、MDで咳嗽反射閾値が高いとの報告もあり、むせない誤嚥が多いこととの関連が示唆されます。

食道期


胃食道逆流、食道蠕動の欠如や弛緩があります。VF所見では、食道上部の内腔拡張を認め、食後も食道内に造影剤が高率に残留しています。食道内分圧測定では正常者で認めるべき胃に対しての静止内分圧の陰圧が減少しています。上部・下部食道括約筋圧の低下、食道収縮の振幅低下があり、これらは、本疾患の重症度や塩基配列の長さにかかわらず、著明に低下しています。病理学的検討では、食道の平滑筋病変・横紋筋病変が同程度に認められています。

摂食障害


上肢筋力の低下や食器把持によるミオトニア現象があります。

姿勢


頸部の筋力低下があり、首下がりや後屈位が摂食・嚥下障害を増強させることがあります。

呼吸障害


呼吸筋の筋力低下による拘束性換気障害と呼吸調節機能の障害があります。食事中にSpO2低下を認める患者がありますが、DMDと同様の機序と思われるものと、誤嚥を疑うものがあります。

その他


歯科治療上の問題点として、筋力低下などによるブラッシング能力の低下と劣悪な口腔衛生などがあり、齲蝕や歯周疾患が多く、ブラッシング指導や電動歯ブラシが有効です。明らかな誤嚥のない患者に対しては、嚥下前の含嗽が有効との報告があります。誤嚥性肺炎の予防としても重要となります。

気管切開後の管理


MD患者では、気管切開後において、VF上多量の誤嚥があり、経口摂取は不可能との報告があります。気管カニューレは喉頭挙上を妨げるため、もともと咽頭期障害があり誤嚥のリスクが高い本疾患では、気管切開により誤嚥が顕性化されることがあります。
気管切開後のケアは、気切孔からの吸引に重点が置かれがちです。しかし、梨状窩への食物や唾液の貯留を同程度に吸引し、カフの周囲をつたっての誤嚥を防止するとともに、口腔ケアに留意しなければ、誤嚥性肺炎の予防はむずかしいことがあります。