廃用症候群と起立性低血圧

廃用症候群と起立性低血圧


安静臥床から立位になると、血液が下肢に移動し貯留され、静脈還流量は減少します。

正常では高圧受容器に刺激が入力され、交感神経活動が亢進し、心拍数の増加と末梢の血管抵抗の増加を来たし血圧を維持する働きを示します。

収縮期血圧は若干減少し、拡張期血圧は末梢血管抵抗の増加と同じく若干の増加を示しますが、平均血圧は変化しない反応となります。

しかし、長期の臥床によりVasomotor controlの障害で交感神経活動の働きである下肢の末梢血管収縮反応が不十分となり、下肢に血液が貯留し、静脈環流量が減少します。一回拍出量が低下し、血圧が維持できなくなって、血圧の低下を示した後、脳血流量の低下へと繋がります。

起立性低血圧の症状は、立ちくらみ、顔面蒼白、ふらつき、めまい、頭痛、発汗、意識不鮮明、目のかすみを伴うことがあります。

廃用症候群と拘縮予防

廃用症候群と拘縮予防


予防が最も大切です。ベッド上で良肢位を保ち、1日2回以上、全可動域にわたり関節可動域訓練を行います。自動運動、他動運動のどちらでもよいです。動くことが可能な患者には、安静臥床をさせないで、早期離床、早期歩行に努めることが大切です。

拘縮に対しては、温熱と持続伸長を行います。
温熱を加えることで関節包、周辺組織が伸長されやすくなり、痛みの軽減効果もあります。そこで、持続的に伸長を行います。
疼痛の自制範囲内で行いますが、まずは徒手的に行い、長時間の効果を期待する際には、装具、自助具、キャスティングを使用します。
また、ブロック治療も併用すると効果が倍増します。
保存的治療で効果がない場合には関節受動術、観血的剥離術、腱延長術を検討します。

廃用症候群と関節可動域制限

廃用症候群と関節可動域制限


長期の安静臥床により関節の可動域制限をきたし、拘縮と強直に分けられます。拘縮とは、皮膚、筋肉や関節構成体である関節包や靭帯の変化により正常の関節の動きが制限された状態をいいいます。
さらに長期にわたる関節内の病変により、関節端や関節軟骨が骨性に癒着した状態が強直といいます。

筋肉、骨格系の可動性は結合織の状態で変化します。
結合織は、コラーゲン、レチクリン、エラスチンといった線維成分から成り立っており、可動性を持っています。
関節の動きが制限された時に内部組織の細胞浸潤とともにフィブリンの析出がおこり、さらに結合織の増殖がおこることで結合密度の高い状態となります。

関節固定を行うと、3日で顕微鏡レベル、7日で臨床的な拘縮が観察されるようになります。

また、関節の運動により軟骨は直接的に栄養をうけており、この作用がなくなると軟骨への栄養も障害され易い様態となります。

半側空間無視 重症度評価 CBS

半側空間無視 重症度評価 CBS


Catherine Bergego Scale(CBS)は、ADLでの無視症状で重症度を評価します。


  1.  整髪または髭剃りのとき左側を忘れる
  2. 左側の袖を通したり、上履きの左側を履くときに困難さを感じる
  3. 皿の左側の食べ物を食べ忘れる
  4. 食事の後、口の左側を拭くのを忘れる
  5. 左を向くのに困難さを感じる
  6. 左半身を忘れる(例、左腕を肘掛けにかけるのを忘れる。左足を車椅子のフットレストに置くのを忘れる。左上肢を使うのを忘れる)
  7. 左側からの音や左側にいる人に注意をすることが困難である
  8. 左側にいる人や物(ドアや家具)にぶつかる(歩行・車椅子駆動時)
  9. よく行く場所やリハビリ室で左に曲がるのが困難である
  10. 部屋や風呂場で左側にある所有物を見つけるのが困難である


各項目0~3点で評価(0~30点)

0:無視なし

1:軽度の無視(常に右の空間から先に探索し、左の空間に移るのはゆっくりで、躊躇しながらである。時々左側を見落とす)

2:中等度の無視(はっきりとした、恒常的な左側の見落としや左側への衝突が認められる)

3:重度の無視(左側をまったく探索できない)


上記項目のうち、麻痺などでその動作が不可能な場合は、試行可能な項目の平均点を割り当てます。

半側空間無視の重症度分類 (福井 1981)

半側空間無視の重症度分類 (福井 1981)


1 ときに片側空間の物体を認知しないこともあるが、ADLはほとんど支障なし

2 両側刺激による消去現象を認めるが、片側刺激は認知可能

3 片側刺激でも末梢部分を見落とす

4 片側のみの刺激でも全部見落とし、空間軸変位・崩壊現象を伴うことが多い

5 片側をまったく無視し、right neck rotation、空間軸変位・崩壊現象を伴う

廃用性骨萎縮の対策

廃用性骨萎縮の対策


廃用性骨萎縮の対策は、早期からのリハビリが大切です。臥床早期からの関節可動域訓練と筋収縮を行います。

可能であれば早期より体重負荷も行わせると良いです。

ベッド上でのギャッジアップ、端座位訓練、立位訓練と進めていく事が、骨萎縮の予防となります。

自力での起立が困難な時には、起立台を利用しての起立訓練を早期より行うのが有用です。

骨量が最大となる青年期において骨量を多くしておくことは、高齢者となってからの骨量を維持するために役に立ちます。

薬物療法は非常に有効な手段で、ビスフォスフォネート製剤、カルシトニン製剤、ビタミンKなどの処方が行われています。

長期臥床と骨萎縮

長期臥床と骨萎縮


長期臥床により骨萎縮が生じることはよく知られています。
高齢者には生理的に骨量が減少することも多く、長期臥床によりさらに骨萎縮が進行します。

そのため軽微な外力により骨折をきたす事があり、例えば、おむつ交換時にも大腿骨頚部骨折をきたす例もあります。

骨組織は骨基質を吸収する破骨細胞と骨形成を行う骨芽細胞のバランスで一定に保たれています。

荷重と筋活動の刺激により骨格構造が維持されていますが、臥床が続く影響で、骨形成が低下し、骨吸収が亢進し骨密度が低下することとなります。

中村らは廃用性の骨粗鬆症の原因は、骨組織の歪み感知機構が関与していると述べています。
荷重によって骨にかかる歪みは増大します。荷重が減少し骨にかかる歪みが減少すれば、感知機構も退化し、骨組織は吸収され、骨量が少なくなります。

骨量の減少は、骨のなかでも骨幹部から骨端部の海綿状骨の部分が大きいです。
海綿状骨は皮質骨に比較して廃用の影響を受けやすくなっています。
理由としては、両者の代謝回転の違いから生じていると考えられています。

臥床の実験でLcblancらは17週の長期安静をとらせて骨量を計測しまさたが、骨量は荷重部位で骨量が有意に減少していたと報告しています。
前腕骨では骨量に変化を示さず、上半身と下半身で異なった影響となりました。

麻痺のよる影響として脊髄損傷患者では、麻痺部の骨萎縮は知られています。受傷後6ヶ月で約7%の骨量減少を認めたと報告されています。

廃用性の筋力低下の予防

廃用性の筋力低下の予防

廃用性の筋力低下の予防は、早期から離床、荷重が重要です。
基本的には、早期にベッド上からのリハビリを施行していくことが重要となります。

座位が困難な状態では、チューブやセラバンド等を使用しベッド上での四肢筋力増強訓練を行います。

その際に筋力増強を目的とするならば、最低でも最大筋力の60%以上の強度で4〜10回繰り返します。

筋持久力を目的とすれば12〜20回程度繰り返す運動強度とします。

また、筋力がMMTで1〜2レベルでの筋力増強には、筋電図バイオフイードバックを利用し視覚的に筋収縮を会得させるようにします。

筋力がMMTで0〜1レベル時には、治療的電気刺激(TES:therapeutic electrical stimulation)を利用し筋肉の萎縮を予防します。

可能であれば起立性低血圧等に注意しながら離床を進めていきます。

また同時に荷重をかける(重力をかける)ことも重要となります。

廃用症候群 筋肉におよぼす影響

廃用症候群 筋肉におよぼす影響

筋力は運動不足により低下し、安静によりさらに筋力の低下、筋萎縮、筋耐久力の低下が生じます。

安静臥床を続けると1週間で10〜15%、3〜5週間で50%程度低下するとされています。

健常者に4〜6週間安静臥床を行わせた筋力の低下は、腓腹筋とヒラメ筋、前脛骨筋、肩甲周囲筋、上腕二頭筋の順に大きく低下しました。 手内筋には明らかな筋力の低下は認められませんでした。

Mullerは、筋力の35%を越える程度の負荷では筋力は増加し、20〜35%の負荷で維持でき、20%未満の負荷では筋力は維持できないと報告しています。

筋萎縮は筋線維数の減少ではなく、筋線維径の減少によるものです。 タイプⅠ線維とタイプⅡ線維のいずれも径が減少します。

廃用性筋萎縮では筋収縮がみられないためタンパク質の合成が低下しています。

低活動においてはタイプⅡ線維優位の筋萎縮がみられます。
タイプⅡ線維の筋線維の質的な変化もみられ、遅筋の速筋化がおこります。

開口訓練 (舌骨上筋群強化目的)

開口訓練 (舌骨上筋群強化目的)

意義
舌骨上筋の筋力トレーニングを行うことで舌骨の挙上や食道入口部開大を改善する。

主な対象者
脳血管疾患、高齢者全般等で舌骨挙上不全や食道入口部開大不全を呈した意思の疎通が可能な患者。

具体的な方法
座位もしくは臥位にかかわらず、体幹が安定した姿勢で行う。
最大限に開口を命じて舌骨上筋群が強く収縮していることを意識しながらその状態を10秒間保持させて10秒間休憩する。
これを5回で1セットとして1日2セット行う。
嚥下障害患者に対して4週間行わせたところ、舌骨上方挙上量、食塊の咽頭通過時間、食道入口部開大量が改善したとの報告がある。

注意点など
顎関節症や顎関節脱臼のある患者には注意して行う、もしくは適用を控えるのが望ましい。

http://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89.pdfより抜粋

線維筋痛症(fibromyalgia:FM)

線維筋痛症(fibromyalgia:FM)

線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は、長期間持続する全身の結合織(筋肉、靱帯、腱の疼痛と多彩な愁訴を呈する慢性疾痛のモデルともいえる病態です。

FMでは睡眠障害、慢性的な頭痛(多くは筋緊張性頭痛)、易疲労性、過敏性胃腸障害などの不定愁訴が多く、これらの心身症状は天候・温度・気圧・湿度などの環境変化、肉体負荷・労働・睡眠状態などの身体的なコンディション、社会的、対人交流上のトラブル・感情のもつれなどの精神的ストレスや性格的特性が問題になることもあり、心身症としての側面を濃厚に有している疾患です。

発症の背景には何らかの遺伝的、生理学的要因に加え、女性の内分泌的な内的環境の変化やライフサイクル上の多彩な心理社会的ストレス要因も大きく関係します。

ストレスの形成要因として、不規則な生活、過労、疲労の蓄積などにより引き起こされる肉体的疲弊状態、さらに心理的葛藤、フラストレーション、不適応状態、正当な評価が得られないための欲求不満状態や怒りなどが認められており、これらの心身の疲弊状態に筋肉の疼痛を生じさせる肉体的外傷体験などが加わって発症するプロセスが考えられています。

FMは長い経過の中で不安障害や気分障害を伴うことが多く、時に対応に苦慮することもあります。

急性疼痛と慢性疼痛

急性疼痛と慢性疼痛

急性疼痛は外傷、炎症、火傷など身体的に明らかに原因が認められます。 客観的に部位や程度の評価が容易で、一般的な鎮痛剤、麻薬、神経ブロックなどでコントロール可能です。

慢性疼痛は、“急性疾患の通常の経過あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み”と定義されているように、長期間にわたる頑固に繰り返される反復性の痛みとして表現されます。

局所の痛みが全身に拡大し、痛みの部位や明確な原因が特定しにくくなり、医学的な説明が困難なものがあります。慢性の痛みは自律神経、内分泌、免疫系のホメオスタシスに悪影響を及ぼし「痛みが痛みを呼ぶ」という悪循環がみられるようになります。

また痛みのみならず不眠、倦怠感、食欲不振、微熱など多彩な全身性の愁訴を伴うようになり、愁訴の多さからとらえどころのない痛みとなります。

長期にわたる対応困難な痛みは心身の健康を損ねる有害なストレス刺激となり、心身交互作用による「痛みととストレスの悪循環」が生じます。

精神医学的にとらえた疼痛

精神医学的にとらえた疼痛

ICD-10
F-45.4持続性身体表現性疼痛障害(persistent somatoform pain disorder)
頑固で激しく苦しい痛みで、生理的過程や、身体的障害によっては完全に説明できない情緒的葛藤や心理社会的問題に関連して生じる
(含)精神痛psychalgia
   心因性背部痛、頭痛
   身体表現性柊痛障害


DSM-IV
300-81身体化障害(somatization disorder)
少なくとも4つの異なった部位または機能に関連した疼痛の病歴 疼痛性障害(pain disorder)

307-80 心理的要因と関連した疼痛性障害

307-89 心理的要因と一般身体疾患の両方に関連した疼痛性障害
心理的要因と一般身体疾患の両方が疼痛の発症、重症度、悪化、持続に重要な役割

DSM-5
身体症状障害(somatic symptoms disorders)

慢性疼痛の病態と特徴

慢性疼痛の病態と特徴

①長期間にわたる、頑固に繰り返される反復性の痛み

②局所よりも全身的な不定愁訴を生みやすい

③疼痛のために、筋緊張・血管攣縮などによる血行動態の障害が、さらに痛みを増強させる悪循環

④自律神経、内分泌、免疫系のホメオスタシスに悪影響

⑤不眠、全身倦怠感、気分の日内変動、意欲や集中力の低下などの症状を伴う痛み

⑥社会的活動性が制限され、人生、生活の質が損なわれる

⑦不眠、全身倦怠感、気分の日内変動、意欲や集中力の低下などの症状を伴う

⑧鎮痛剤や筋弛緩剤などの薬物や、マッサージ、牽引、鍼灸などの理学療法でも改善しないことが多い

⑨慢性疼痛患者は他者から受容、共感されにくい

⑩良好な医師・患者関係が築きにくく、医療不信に陥る

心因性疼痛

心因性疼痛

痛みは経過が長いほど、精神的要素が強いほど、疲労やストレスが強いほど疼痛症状が悪化し、特に慢性の経過をとる神経因性疼痛は心因性疼痛と密接に関係します。
慢性疼痛患者はうつ病をはじめさまざまな精神医学的問題を有することが多いとされ、慢性疾痛もうつ病のcomorbidity(共存、併存する疾患)の一つとして考えられるようになりました。

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は末梢および中枢神経の損傷を基盤とし、受傷から時間を経て発生する激しい痛みです。

切断し失われたはずの四肢に痛みを覚える幻肢痛(phantom limb pain)、脳卒中後疼痛、視床痛、帯状庖疹後疼痛、腰痛症などは神経障害性疾痛であり、慢性疼痛の形をとりやすいです。 また、糖尿病性神経障害は動脈硬化から生じる侵害受容性疼痛も加わっています。

神経障害性疼痛は以下の症状があります。

知覚過敏(hyperalgesia):少し触れても飛び上がるほど痛い、などと表現され、軽微な痛み刺激でも激しい痛みとして感じてしまう症状です。

異常感覚(dysesthesia):不快な異常感覚を伴う自発痛。「しびれるよう」な、「灼けるよう」な、「ピリピリ」「じりじり」するような痛みとして表現される症状です。

アロディニア(allodynia、異痛症):シャワーを浴びても痛い、衣服が擦れても痛いなど、本来痛みを発生しない軽い触刺激でも痛みを引き起こす症状です。
他人には大げさでヒステリックな表現として受け取られやすく、時に詐病の汚名も着せられてしまいます。
アロディニアには、脊髄後角での痛覚神経線維であるAδ、C線維が頻回に刺激されることにより触覚の神経線維であるAβ線維の興奮が惹起され、そのうち痛み刺激が加わらなくとも痛みが生じるという中枢性感作が成立します。

侵害受容性疼痛

侵害受容性疼痛

侵害受容性疼痛とは、皮膚・筋組織・内臓器などの末梢の自由神経終末に存在する侵害受容器に対する切り傷や打撲などの外的刺激・損傷・炎症、火傷などの熱や圧迫などの機械刺激によって生じる痛みのことであり、内臓痛(腹痛など)と体性痛(筋骨格系や皮膚)に分けられます。

誤嚥性肺疾患の分類

誤嚥性肺疾患の分類

1.Aspiration pneumonitis
誤嚥性肺臓炎
 ・胃酸や食物残渣による化学的肺臓炎:Mendelson症候群

2.Aspiration pneumonia
誤嚥性肺炎
 ・顕性誤嚥
 ・不顕性誤嚥

3.Diffuse aspiration bronchiolitis
びまん性嚥下性細気管支炎

4.異物誤嚥による肺炎
 ・不活性液体(三水;海水,真水)
 ・油類(リポイド肺炎)
 ・固形異物(気道異物)

5.人工呼吸器関連肺炎
(Ventilator associated pneumonia:VAP)

誤嚥性肺炎の基礎疾患・リスク

誤嚥性肺炎の基礎疾患・リスク

・脳血管障害

・中枢神経系の変性疾患

・認知症

・咳漱反射や嚥下反射の低下

・意識レベルの低下(鎮静剤や麻酔の影響も含む)

・食道の通過障害

・胃・食道逆流(食道裂孔ヘルニア、口腔・咽頭癌術後、上部消化管術後、胃管挿入など)

・嘔吐

誤嚥性肺炎 抗菌薬

誤嚥性肺炎 抗菌薬

誤嚥性肺炎と診断され、重症度が判定されると、治療に入ります。
日本呼吸器学会のガイドラインでは、「高齢者の誤嚥性肺炎は、中等症以上と考えて治療する必要がある」としています。

起因菌は、同定が困難なことが多いことから、最初はエンピリックな治療(原因菌を推定して行う治療)を始めます。
誤嚥性肺炎では、嫌気性菌とグラム陰性桿菌の関与が高いことから、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬、クリンダマイシン、カルバペネム系抗菌薬などが推奨されています。
これらの初期治療で無効な時は、侵襲的な方法(経気管支吸引法や経皮的弓穿刺吸引法)を用いて起因菌を同定することを奨めています。
高齢者では、加齢によって薬物動態が変化するので、十分な配慮が必要です。特に、潜在性に腎機能が低下しているので、抗菌薬の尿中排泄率が低く、薬剤の血中半減期が延長します。
そのため注射薬では、1回投与量を成人投与量の50-70%にして投与間隔を腎機能に応じて延ばす必要があります。
抗菌薬の副作用の種類は、成人と変わりませんが、気づかれにくく、重症化しやすいです。

誤嚥性肺炎に対する一般療法

誤嚥性肺炎に対する一般療法

患者の全身状態を的確に把握し、感染防御に悪い影響を与える要因を改善することが大切です。
高齢者の肺炎では、全身管理(脱水の是正、栄養状態の改善、酸素療法、気道分泌物処理など)を必要とする場合が多くなります。

①安静、保温
安静を保って治療に専念する必要があります。寒冷、高温を避けるようにします。
ただし、病状が安定した後は安静を速やかに解除します。

②栄養管理
低栄養状態は感染防御低下の大きな原因です。経口摂取による栄養補給に努めるべきではありますが、摂食に伴う明らかな誤嚥のある時には一時的に禁食とし、静脈栄養、経腸栄養などを考慮します。
また嚥下障害を評価し、嚥下リハビリテーションを施行します。
③水、電解質管理
脱水の場合には、速やかに水分、電解質を輸液します。

④呼吸管理
低酸素血症が認められる時には、酸素を投与します。また、疲を喀出できるよう、吸入療法や肺理学療法などを行います。酸素を投与しても、低酸素血症が改善しない場合には、気管内挿管、人工呼吸管理を考慮することがあります。

肺炎の治療効果判定

肺炎の治療効果判定

「成人市中肺炎診療ガイドライン」によると、治療の効果判定には下記4つの指標を用います。 ( )内は、抗生物質投与終了の基準です。
感染防御能が正常と考えられる患者では、4項目中3項目以上を満たした場合に薬剤投与を終了します。
基礎疾患があり、感染防御能が低下していると考えられる患者では、4項目中3項目以上を満たしてから4日後に治療を終了します。

●解熱(目安:37℃以下) ●白血球数増加の改善(目安:正常化) ●CRPの改善(目安:最高値の30%以下の低下) ●胸部レントゲンの浸潤影の明らかな改善


効果判定
・3日後(重症例は2日後):初期抗菌薬の評価
・7日以内:有効性の評価や終了時期の決定・14日以内:終了時期や薬剤変更の決定

肺炎の起因菌同定のための検査

肺炎の起因菌同定のための検査

肺炎と診断したら、原因微生物を同定するための検査をします。
喀痰の検査(塗抹鏡検検査、培養)が施行されますが、誤嚥性肺炎の起因菌は嫌気性菌が多いので、通常の培養では菌の同定は困難です。
また、口腔内常在菌の混入を考慮する必要があります。
原因菌の同定には、経気管支吸引法や経皮的肺穿刺吸引法が優れており、「成人市中肺炎診療ガイドライン」では、「治療無効例や重症例では試みる価値がある」としています。

肺炎の検査

肺炎の検査

身体所見では、まず呼吸数、呼吸様式、チアノーゼを診ます。ただし高齢者は必ずしも呼吸困難を訴えないので、注意が必要です。
聴診では、呼吸音の性状、雑音の有無に注意します。肺胞呼吸音が聴こえるべき部位での気管支呼吸音の聴取(肺炎が疑われる)、呼吸音の減弱(無気肺が疑われる)の有無、断続性雑音(ラ音)の有無を聴診します。

肺炎の診断は、胸部単純レントゲン撮影で行われます。肺炎を起こしている部位には、浸潤影が認められます。浸潤影はair bronchogram(エアー・ブロンコグラム)といわれる気管支の透亮像(周囲に比べて黒く写る所見)を伴うことがあります。
単純レントゲン撮影で診断がはっきりしない時には、CTが用いられることもあります。

血液検査では、炎症所見(白血球増加、赤沈亢進、CRP陽性)が認められます。

肺でのガス交換の結果は、動脈血ガス分析で評価する。低酸素血症(PaO260 Torr以下)の有無、肺胞低換気(PaCO245Torr以上)の有無を評価します。

以上の検査から、肺炎の重症度を判定します。
重症度は日本呼吸器学会「成人市中肺炎診療ガイドライン」の重症度分類を参照してください。 肺炎患者の生命予後という点から、身体所見ならびに検査成績から重症度を分類しています。 目安として、軽症(0点)は外来治療を、中等症(1または2点)は外来治療または入院治療、重症(3点)は入院治療を、超重症はICU入院にて治療します。