吃音の病因について

遺伝子異常

双生児研究から、発達性吃音の原因の7割以上が遺伝子異常によると考えられます。しかし遺伝形式や浸透率は明らかではなく、また、家族歴がある者は半数程度です。連鎖解析等から、発症には複数の因子が関与すると考えられています。

脳領域間の接続異常

MRIの拡散テンソル画像法(DTI)で、左腹側運動野(発話関連の器官の領野)の深部において、左弓状束ないし大脳基底核との接続神経線維の減少が生じます。これによって、発話関連運動野と、ブローカ野や大脳基底核との接続が不良になり、円滑な連続発話が困難になると考えられます。ほかに、小脳脚や脳梁等の白質の異常も報告され、予後との関連が指摘されています。

 通説の否定

「周囲が吃音だと考えることで吃音になる」という吃音診断起因説が日本では永らく流布しており、親は児の吃音を気がついていないかのように振る舞うということがよく行われます。しかし、「モンスター研究」という孤児院での人権無視の実験の結果、この説は否定されています。親が児の吃音を無視する態度を取ると、児は吃音がタブーであると思い込み、話したり相談したりできなくなります。家庭では、吃音についてオープンに話すことができる雰囲気を作り、児を心理的に孤立させないことが重要です。

小児保健研究  第77巻 第1号,2018 より参照

吃音の検査と鑑別診断、合併症について

吃音検査について

検査は通常は言語聴覚士が担当し、「吃音検査法」を用います。この検査は幼児版、学童版、中学生以上版があり、年齢(発達年齢)に合わせて使用します。幼児版の検査は音読が含まれません。

吃音の有無の判定では中核症状の生起頻度を見ますが、重症度の判断では各症状の持続時間や緊張度(力が入っているかどうか、もがいている様子があるか)の所見も考慮します。幼児期は緊張のない症状が多いですが、緊張が入ったり持続時間が長くなると、重症化したと判断します。

鑑別診断と合併症について

鑑別疾患として、構音障害(器質的、機能的)、言語発達遅滞、外傷等の後天性脳損傷、薬剤副作用(ドパミンD2受容体刺激薬等)、早口言語症(cluttering、クラタリング)、チック、場面緘黙症などがあります。

青年期以降は痙攣性発声障害や機能性発声障害も鑑別が必要になることがあります。

吃音の阻止は言葉を知っているが言うことができない状態であるが、表面的には緘黙と区別がつきにくいため、斉読で吃らない、家庭でも吃音症状が出ることがあるなどで鑑別します。

随伴運動はチックとは異なり、発話ないし発話企図に同期して生じます。

クラタリングは、自分の構音能力や文章構成能力を超えて早口になるために、音韻の省略や融合によって発話が不明瞭になり、吃音の中核症状ではない非流暢が多くみられます。発話速度が上がる10歳前後以降から思春期に発症することが多いです。

緊張すると症状が出にくいので、初診ではわからないのが普通です。クラタリングは吃音の2割程度に合併し、合併症例の多くでは、吃音よりクラタリングの治療を優先する必要があります。

吃音には、特に幼児期は、構音障害や言語発達遅滞もしばしば合併し、それぞれの評価に応じて治療の優先順位を決めていきます。

吃音を生じやすい症候群として、ダウン症候群やトゥレット症候群等があります。

吃音中核症状は通常は語頭で生じやすいですが、自閉症スペクトラム障害(ASD)やPrader-Willi症候群では、語末や文節末に繰り返しが出ることがあります。

吃音の症状について言語聴覚士が解説

吃音は原則として発話・発声器官に器質的な問題がなく(耳鼻咽喉科医が確認)、これらを協調して動かすことが困難となる疾患です。診断のためには器質的な問題を除外し、吃音に特有な発話症状(中核症状)があることを確認します。

中核症状について

下記の3つが吃音の中核症状であり、これらの合計が100文節中に3以上あり、かつその症状がある程度継続的に認められる(目安として半年以上)ことで診断します。

①音あるいは語の一部の繰り返し
②音の引き伸ばし
③発話の阻止

これらはそれぞれ、①連発、②伸発、③難発ないしブロックとも呼ばれます。また、これらは、吃音症のタイプ分類ではなく、症状の分類であり、同一の患者に複数の症状が出ることがあります。

「音」は基本的には音節か音韻ですが、発音が崩れて特定の音韻と同定できない場合も含みます。

連発は単語の一部となる2音節以上の連続音を繰り返す場合も含みます。
ただし、単語全体を繰り返すことは中核症状に含めません。

繰り返しの回数は3回以上であれば確実に吃音の中核症状です。

阻止は音(ことば)が出ないことで、青年期以降はこれが中核症状の中で最も高頻度になります。重症では数分以上も言えないままになることがあります。

中核症状は、ほとんどが語頭で生じますが、稀に語中や語尾・分節末で生じることもあります。

非中核症状について

 吃音に特徴的だとは言えない発話の非流暢を正常範囲の非流暢と言います。吃音では中核症状以外にも、以下のような多彩な症状が出現します。

①単語や文節の繰り返し
②発話の工夫
③発話の回避
④随伴運動
⑤情緒性反応
⑥状況依存性

日常会話ではこれらが中核症状より目立つこともあります。

発話の工夫としては、力を入れる、延期する(間投詞等の挿入、単語の順序を変える、直前の単語や句を繰り返す)等があります。

発話の回避は、苦手と思っている音で始まる単語等を言わないようにする場合と、発話機会そのものを避けることがあります。前者は、言い換えや説明的表現(迂言)になることがあります。後者では、発表や朗読が当たる日には登校しないこともあります。

随伴運動は、発話に際して顔面に力を入れたり(渋面を作る、口唇に力が入るなど)、手足、首、身体を動かす、もがくような動作をする、視線を逸らすなどすることを言い、運動を自覚していない場合もあります。

吃音があると、小児期にそのせいで笑われたりからかわれたりする者は半数を超えてしまいます。

不登校になる場合は、教師の無理解・配慮不足や、他の障害の併存の可能性にも注意が必要です。

口蓋ミオクローヌスについて

口蓋ミオクローヌス(palatal myoclonus)は、23Hzの持続性の規則正しい律動性を口蓋や咽頭の筋群に認める不随意運動です。最初、ミオクローヌスは軟口蓋に出現し、後に両側性に広がり喉頭、声帯に及ぶこともあります。多くは小脳や脳幹の脳血管障害が原因で、小脳歯状核一赤核一下オリーブ核で形成されるGuillainMollaretの三角とよばれる神経回路が障害されるときに生じます。臨床症状としては機能障害をきたさないことが多いですが、耳鳴りや、ときに嚥下障害を生じることもあります。発症時期としてはその原因となった急性障害後数週間~数カ月であり、その後症状は一生涯永続するといわれています。

発達性吃音の疫学

発達性吃音はありふれた疾患です。

幼児期の罹患率は約5%とされていましたが、近年の調査では8%程度あるいはそれ以上とされています。

吃音の発症(発吃)は3語文の発話が始まる頃に多く,満3歳までに約半数,満5歳までに9割程度が発症します。

幼児期には過半数が自然回復するので、医師の多くには対応が必要な疾患だと思われていない可能性がありますが、罹患率が高いため,学齢期で1〜2%、成人で全人口の1%弱に吃音が残ると推測され、他の発達障害に匹敵する患者がいることになります。

男女比は、幼児期の発症時にはほぼ1:1から1.4:1程度と報告され、ほぼ男女差はありませんが、女児の方が回復しやすく、青年期以降は4:1で男性が多くなります。

医療的ケア児とその家族へのケアについて

医療的ケア児の増加とその影響

新生児・小児集中治療の進歩により救命率が上昇する一方、気管切開、人工呼吸、経管栄養などの医療的ケアを必要とする重症心身障害児が増加しています。特に介護負担が大きい児は超重症児、準超重症児として認識され、長期入院や頻回入院のため新生児集中治療室(NICU)や一般小児科病棟の負担となっています。

在宅療養という選択肢

重症心身障害児施設は回転率が低く、入所者は高齢化しています。新たな施設や療養病床を増やすことは根本的な解決にはつながらず、医療的ケア児の受け入れ先として在宅は重要な選択肢です。医療的ケア児が在宅で家族と安心して過ごせることは、本人のQOL向上、家族の精神的・社会的な安定に対して有効な作用をもたらします。

移行期医療の問題

成人期を迎える医療的ケア児に対し、成人医療への移行が検討される場合があります。また、介護する家族の高齢化も大きな問題であり、介護体制の再構築、両親への医療・介護の介入が新たに必要な場合があります。

医療的ケア児の在宅療養の実際


医療的ケア児の特徴

医療的ケア児は先天性疾患や周産期の病態に起因する疾患が多く、「医療的ケアを必要としながら長期的な療養が見込まれる疾患」、「進行性の難病や予後が限られている疾患」、「新生児期・幼児期を支えることで成長・発達が望める疾患」の3群に大きく分けられます。

特徴として、①予備力が少なく病態が変化しやすい、②平時のバイタルサイン、身体所見が正常範囲から逸脱している、③本人からの説明が期待できず、理解・協力が得られにくい、④病状の把握、病態説明、介護支援の点から保護者への対応が重要、などが挙げられます。

在宅療養中も各種検査や外科的介入の必要性、医療デバイスの追加などに関連して病院小児科への継続受診が必要なケースが多くなります。

在宅医療がはたすべき役割

在宅療養支援診療所は、定期的な訪問診療を行うことで普段の病状を把握し、平時の在宅療養に関するサポートを行います。
各種医療管理、医療材料の提供を行い、気管切開、胃瘻などの交換も在宅で実施可能です。
状態変化時には電話相談や臨時往診で対応します。
在宅でも採血、輸液療法、注射薬の使用などが可能であり、必要に応じて病院受診や入院を判断します。

訪問看護、訪問リハビリテーションの重要性

訪問看護は病状の観察、医療的ケアの支援のみならず、育児支援、成長・発達の評価・促進、生活の安定化、精神的サポートなど、多岐にわたる支援を提供します。
リハビリテーションの必要性も高く、緊張の緩和、関節の拘縮や変形の予防、関節可動域の維持、ポジショニング、呼吸リハビリテーション、摂食・嚥下障害に対するアプローチなどに加え、補装具・日常生活用具の相談、住環境の評価と住宅改修の調整、自助具作製、介護指導と幅広いアプローチが求められます。

障害者総合支援法による在宅サービス

障害者総合支援法に基づき相談支援専門員が総合的なマネジメントを行い、訪問ヘルパーや訪問入浴サービス、デイケア、ショートステイなどの在宅サービスが提供されます。
長期療養においては介護負担軽減のためレスパイトケアサービスが重要です。
就学前・学童期には保育・教育との連携も必要であり、現場での医療的ケアが課題となります。
多職種での情報共有を意識し、退院前カンファレンスや個別支援会議への出席などを通して顔の見える関係を構築することを心がけます。

倫理的課題、意思決定支援


医療的ケア児は多くの場合で病状が進行し、新たな医療デバイスの追加が検討される時期が来きます。経管栄養法の導入、気管切開や人工呼吸管理の適応などの積極的・侵襲的な治療をどこまで行うか、緩和ケアの導入、看取りについて、など重要な意思決定に関与し、倫理的問題について家族とともに考えることが要請されます。

参考文献

日本小児科学会倫理委員会:超重症心身障害児の医療的ケアの現状と問題点―全国8府県のアンケート調査―。2008田村正徳:重症の慢性疾患児の在宅での療養・療育環境の拡充に関する総合研究。平成24年度成育疾患克服等次世代育成基盤研究、2012江草安彦(監):重症心身障害療育マニュアル。医歯薬出版、1998

学齢期の吃音の対応方法や治療について

学齢初期は発達の状況に差が大きく、本人のモチベーションによっても治療の成否が変わってきます。
吃音への意識や困り感が少ない症例は治療に乗りにくいですが、低学年では幼児期と同様にリッカムプログラムが有効な場合があります。
8歳頃以降になると第2相の吃音に移行し、心理的悪循環が加わって自然治癒が少なくなります。
小学校の通級教室は地域差が大きく、教師に対して吃音についての研修の機会が与えられていない地域では、医療との連携が必要になります。

環境調整といじめ・からかいへの対応

吃ってもせかさずに最後まで聞き、吃るかどうかより、発話内容を重視するなどの態度を周囲が示す必要があります。朗読が苦手な場合は、授業では複数人で斉読するなどで困難が軽減されることがあります。順番に当てるよりランダム順に当てる方が言いやすい場合もあります。ランダム順に当てていると、抜かされても目立たないので、調子の悪い日は当てないという対応もしやすいです。何れにせよ、吃音のことをクラスに言いたいか、隠したいかなども含めて、あらゆる側面で、本人の希望を優先していきます。いじめやからかいが生じやすく、それらがあっても恥ずかしいために誰にも相談しないことも多いため、ことばの教室など、話を聞いてもらえる場を提供することが重要です。いじめやからかいが起きている場合は担任教師に断固とした対応を依頼します。低学年の場合、クラスメートにはわざと吃っているのではないという説明も有用です。

流暢性形成法

流暢性形成法は、柔らかくゆっくり言うことで、吃らないという目標を達成するための方法ですが、幼児期と異なり発話を意識的に修正しようとすることになり、ワーキングメモリが小さい学童では、日常的に使えるようになるのは難しいです。学童後期でワーキングメモリが大きい生徒は流暢性形成法が使えるようになることもあります。落ち着いて」「ゆっくりなどのアドバイスは、当人がすでに意識的に類似の努力を最大限しており、無効です。

吃音緩和法

吃音緩和法は力の入った吃音を楽な吃音にして、辛さを減らす方法です。わざと吃ることで吃音症状に慣れ、あるいは吃っても大丈夫だとわかり、過敏な情緒反応が減って、コミュニケーションが楽にできるようになります。遊び場面から導入することが多いです。手技としては流暢性形成法より容易であり、発話の不安を減らす効果があります。欧米では学童には、吃音緩和法を中心として、流暢性形成法を組み合わせて治療することが多いようです。

斉読、シャドーイング等

斉読やシャドーイングを行うと自動的に流暢な発話ができるので、繰り返すことで自然な発話能力があることを理解し、発話への自信が生まれます。斉読では指導者は徐々に声を小さくして(フェードアウト)、一人でも読めるようにします。シャドーイングは、適切な話速で行うと、吃らないように頑張る余裕がなくなり、結果的にそれをしなくても吃らないという体験ができます。素材としてはニュースなどが使えますが、速度調整ができるものが望ましいです。構音を意識しないで発話できるような他の二重課題によっても、自然な発話を誘導することができます。想定練習(ロールプレイ)も有用です。構音を意識させる単語の復唱練習や単なる朗読では悪化しやすいです。遅延聴覚フィードバック(DAF)は自分の発話を数十msから200ms程度遅らせて聴取するものであり、対症療法ではありますが、吃音がある者の半数近くはDAFを使うと吃音症状が抑制されるとの報告があります。これが有効であれば、発表や朗読等で使って授業への参加を改善することも選択肢になります(低学年には推奨しない)。

自己効力感の維持・増強

吃音のある方は、発話困難によって、自己効力感が低下していることが多いと言われています。学齢期には有症率が1〜2%になるため、他の吃音がある児に会うことは稀で、孤立感を深める一因になるので、行事などで他の吃音児と交流する機会を作ることが望ましいです。自助団体が主催するキャンプなども利用できます。学齢中期以降、個別対応としては、得意分野を伸ばすなどで自己効力感を高めさせることも重要となります。自己イメージを改善したり、吃音への見方を変えるなどを目的として、認知行動療法が用いられます。

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記憶障害へのアプローチ方法

環境調整


記憶障害者をとりまく周囲の環境に手を加えて生活や仕事をしやすくすることはすべての患者に必要な支援です。具体的には、物理的環境、生活全般、コミュニケーションの3側面において記憶への負担が少ない環境を作ります。

物理的環境に対する支援として、次に何をすべきかが思い出せず、ADLについても指示が必要だった重度記憶障害例に対して、戸棚などの収納内容をラベルにして貼る、行動の順序をチェックリストにして貼る、行動できたらカレンダーにシールを貼ってフィードバックする、という訓練を系統的に行った結果、自立が可能になり自宅復帰できたとの報告があります。

生活全般について記憶への負担を減らすためには、生活パターンや日課を決めて規則正しい生活をする、予定の変更は最小限に抑えるなどが有効です。

会話やコミュニケーション面での調整としては、記憶障害のある人に話しかける場合はまず自分の名前や役割を名乗る、話題やテーマを具体的に伝えて話しかけ、折に触れて繰り返す、何かを説明したり、指示したりする時は必ず紙に書いて目につく場所に貼る、といった配慮をします。

学習法の改善


記憶障害のある人にとって新たな学習は極めて困難なので、本人にとって重要で必要なことや、本人が行わなければならない作業の手順などに限定して学習してもらいます。学習を促進する方法として、例えば、注意を払う、覚える材料を整理して構造化する、他の事物に関連付けるなど深い処理をする、時間間隔をあけて学習する、などの有効性がこれまでの研究から明らかになっています。

ここでは、記憶障害のリハビリテーションの領域で注目されている、誤りをさせない学習法と間隔伸張法を取り上げたいと思います。

誤りをさせない学習法(エラーレス学習)とは、いったん間違えると誤反応が残り、修正が難しいという記憶障害者の特性から、新しいことを記憶する場合に誤反応を避け、最初から正反応を導く方法です。健常者では、仮に間違えたとしても修正体験がエピソード記憶に残るため、間違いを通して学んで行くことが可能です。しかし、記憶障害者ではエピソード記憶が著しく障害されるため、修正体験は記憶されない。一方、潜在記憶は記憶障害者にも保たれているため、自分の行った誤り反応が潜在記憶に残り、次回以降も同じ誤りを繰り返す結果になると考えられています。

エピソード記憶のない記憶障害者にとっては試行錯誤を避けるのが最善の方法であり、間違いをさせないように周到に計画した上で学習してもらうことが必要です。

間隔伸張法とは、情報を保持する時間間隔を少しずつ延ばして想起させて行く方法です。第一試行、第二試行で想起に成功した場合、両者の時間間隔が長くなるほど第三試行が成功する確率が高くなるという実験結果に基づいています。

まず、短い保持時間の後にテストを行い、想起に成功したらその後の保持時間を次第に長くして行く、というように想起テスト間の間隔を徐々に延長していく。

記憶障害患者、認知症患者での効果が知られていますが、最近は失語症者の呼称訓練についても有効との報告があり幅広く応用できます。
車いすの操作や安全な移動の仕方、嚥下の仕方などを認知能力の低下した高齢者に指導する際にも有効です。
ここでもできるだけ失敗を避け、また失敗した場合はすぐに正答もしくは手がかりを与えることなど、エラーレス学習を基本として行うことにより効果を上げることができます。

代償手段の利用(内的・外的補助手段)


内的補助手段とは、記憶や想起をしやすくするために記憶障害者自身が頭の中で用いるストラテジーです。例えば、人の名前を覚える時に、視覚的なイメージ(並木さん→並木道)に置き換えて覚える、などです。まとまった内容を記憶するときに、情報を整理した形で取り込むための方法がPQRST法です。

PQRST

P:Preview(ざっと目を通す)
Q:Question(質問を作る)
R:Read(じっくり読む)
S:State(質問に答える)
T:Test(答え合わせをする)

時間をかけて、構造化し、深い処理を行うことで記憶に残りやすくします。内的補助手段はどのような患者でも活用できるというわけではありませんが、試みて使えそうであれば訓練を行います。

外的補助手段とは、記憶障害によって生じる困難を減らす目的で、日記やメモ、カレンダー、手帳を使ったり、ICレコーダーのタイマー機能を使って時刻ごとにすべきことを音声出力したりすることです。

外的補助手段は、実際に使ってもらう訓練を身につくまで丁寧に行わない限り活用に至らない例も少なくありません。


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参考文献
Jpn J Rehabil Med VOL.42 NO.5 2005

記憶障害のリハビリの考え方

記憶リハの目標は、患者自身の記憶能力と患者を取り巻く環境が要求する記憶能力との隔たりを何らかの方法で調整し、日常生活や社会生活への適応をはかることであり、記憶を筋肉のように"鍛える"ことではありません。

脳損傷による記憶障害では、元のレベルを回復することは困難であり、また、回復がおきる期間は比較的初期に限られると言われています。

このため、時期に応じた系統的なアプローチが必要となります。

初期の対応としては、まず適切な診断・評価によって記憶障害を見落とさないことが肝要です。評価結果をもとに、記憶障害についての情報を当事者、家族に提供し、今後起こりうることや日常生活上の対処の仕方などを伝えます。

発症から日の浅い入院中のリハでは、主として病棟での自立度の向上を目的に訓練を行います。

例えば、その日の予定をノートなどで確認して行動する、病室や訓練室の場所を覚えて移動できるようにする、などを課題としてとりあげ、細かくステップに分割し、スタッフ間でやり方を統一して指導します。

病棟での自立度の向上をはかりながら、代償手段の獲得に向けて手がかりを探って行きます。

さらに退院などの際にも支援機関との繫がりが絶たれないように配慮します。

一方、発症からの経過が長い場合には、生活の中での問題を調整し、解決をはかるという日常生活に即した目標設定とアプローチが必要となります。

記憶障害に気づくまでに数年かかるケースもありますが、発症からの経過期間にかかわらず、リハとしてアプローチをすべきことはあり、有効性もあるとの報告もあります。

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参考文献:リハビリテーション医学VOL.42 NO.5


顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)の病因や病理、病態生理について

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)の病因・病理・病態生理

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー は、常染色体優性遺伝をとる浸透率の高い疾患です。
頻度は他の筋ジストロフィーに比べると低く 、人口10万人あたり0.20.5人です。

本症の遺伝子座は第4染色体長腕テロメア4q35-qterに存在します。
この部位を認識するプローブを用いてサザンブロット法を行うと 、大半の患者では正常よりも短い(35kb)制限酵素断片が得られ(遺伝子の欠失) 、診断に役立ちます。しかし 、遺伝子はまだクローニングされていません。

筋生検では筋線維の大小不同 、壊死・再生など筋ジストロフィーの変化がみられます。
時に炎症細胞の浸潤をみて 、筋炎との鑑別を要することがあります。


顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)臨床所見

発症は小児期から成人前までと幅広く 、また症状も幅があります。

患者の家族をみると表情が乏しいだけで 、四肢には全く筋力低下をみないこともまれではありません。

病気は上肢の挙上困難で気づかれることが多いです。

肩甲帯周囲の筋萎縮が強いので 、病初期から翼状肩甲winged scapulaeがみられます。

大半の患者では顔面筋がおかされ 、頬のふくらみがなくなり 、表情が乏しくなり、病気が進行すると 、筋力低下は下肢にも及びます。

本症の筋罹患は左右非対称であることが特徴的であるとされています。

心・肺機能はおかされにくく、難聴 、網膜症retinal vasculopathyが約半数の患者にみられます。

90%の児童が正しく構音できる時期について

小児の構音障害を診る時には,健常児の構音の発達を考慮しなければいけません。

下記の表は、単語レベルで90%の児童が正しく構音できる時期を示しています。

子音の構音では,特に[s](サ行),[ts](ツ),[dz](ザ,ズ,ゾ),[r](ラ行)の完成が、他の子音に比べて大きく遅れており、4歳代ではこれらが不完全であっても必ずしも異常とは言えません。したがってこのような児では他の音の誤りの有無や、構音発達の経過に留意しなければいけません。

90%の児童が正しく構音できる時期
40カ月~45カ月
wjhcpbmt
dnkgtʃ 
46カ月~411カ月
ʃ 
50カ月~55カ月
sts
56カ月~511カ月
dzr
60カ月~

中西靖子,他:構音検査とその結果に関する考察.東京学芸大学特殊教育研究施設報告1121頁,より改変.

筋強直性ジストロフィー(MD)と摂食・嚥下障害

筋強直性ジストロフィーの摂食・嚥下機能の病態

国立病院機構筋ジストロフィー病棟の2000年から2004年のMDの死因を5年間の累計でみると、呼吸不全が27.9%、次いで呼吸器感染症21.8%、呼吸不全と呼吸器感染症併記が5.5%と呼吸器系の関与が目立ちます。
呼吸器感染症には誤嚥性肺炎も多く含まれていると考えられ、摂食・嚥下障害が、この疾患の予後と強い関連をもっていることを示唆しています。

嚥下障害を引きおこす要因には、ミオパチーによる嚥下筋力の低下、ミオトニア、中枢神経障害があげられています。
ミオトニアについては、筋電図により顎下筋の放電を確認した報告があります、嚥下運動の中でどのように関与しているかについては明らかではありません。

MDでは、認知期・準備期の問題、口腔の形態的・機能的問題、咽頭期・食道期の問題がいずれも存在します。CTG三塩基反復数と嚥下機能重症度との関連は明らかでないといわれています。
MD患者のなかには、誤嚥を繰り返しながら経口摂取を続けているものが少なからず存在すると推察されますが、自覚症状やスクリーニング検査で発見することは困難と言われています。

摂食・嚥下運動の各プロセスにおける障害


認知期


認知障害による摂食行動異常(次々に大きな食塊を口に詰め込むなどの行動)や病識の甘さなどがみられます。嚥下障害の自覚症状として、のみ込みにくさを45%、むせを33%が訴えているとの報告もありますが、一般に自覚の乏しい場合が多く、誤嚥のリスク管理上十分な観察が必要です。摂食・嚥下障害の自覚に乏しく、自食患者の誤嚥のリスクはかなり高いと言われています。この点を踏まえた、見守りと管理体制が必要となります。


準備期


不正咬合は35%にみられ、前歯と小臼歯部の歯が噛み合わない開咬があります。咀嚼力低下は不正咬合と咀嚼筋(咬筋と内側翼突筋)筋力低下の両者によってもたらされます。咬合力は健常者の1/10程度ですが、咀嚼障害について病識が少なく、不十分な咀嚼でのみ込む行動がみられます。不正咬合に対し、口腔外科的矯正手術が有効との報告があります。

口腔期


鼻咽腔閉鎖不全、軟口蓋挙上の遅れ、咽頭への送り込み障害が認められます。

咽頭期


咽頭蠕動の低下による食物の咽頭残留、喉頭蓋閉鎖不全や嚥下反射遅延による誤嚥があげられます。とくに誤嚥については自覚のない不顕性誤嚥が少なくありません。嚥下造影(VF)所見として、咽頭への送り込み障害、咽頭期における下咽頭での残留、誤嚥などがあげられます。また液体の誤嚥リスクが高く、自覚症状との関連は認められません。健常人に比して、食塊通過時間は長く、舌骨の動き始めが遅く、食道入口部の開大開始が遅いが、食塊の動きとの関係でみると、むしろ早いなどの報告があります。また、クエン酸吸入による咳誘発試験では、MDで咳嗽反射閾値が高いとの報告もあり、むせない誤嚥が多いこととの関連が示唆されます。

食道期


胃食道逆流、食道蠕動の欠如や弛緩があります。VF所見では、食道上部の内腔拡張を認め、食後も食道内に造影剤が高率に残留しています。食道内分圧測定では正常者で認めるべき胃に対しての静止内分圧の陰圧が減少しています。上部・下部食道括約筋圧の低下、食道収縮の振幅低下があり、これらは、本疾患の重症度や塩基配列の長さにかかわらず、著明に低下しています。病理学的検討では、食道の平滑筋病変・横紋筋病変が同程度に認められています。

摂食障害


上肢筋力の低下や食器把持によるミオトニア現象があります。

姿勢


頸部の筋力低下があり、首下がりや後屈位が摂食・嚥下障害を増強させることがあります。

呼吸障害


呼吸筋の筋力低下による拘束性換気障害と呼吸調節機能の障害があります。食事中にSpO2低下を認める患者がありますが、DMDと同様の機序と思われるものと、誤嚥を疑うものがあります。

その他


歯科治療上の問題点として、筋力低下などによるブラッシング能力の低下と劣悪な口腔衛生などがあり、齲蝕や歯周疾患が多く、ブラッシング指導や電動歯ブラシが有効です。明らかな誤嚥のない患者に対しては、嚥下前の含嗽が有効との報告があります。誤嚥性肺炎の予防としても重要となります。

気管切開後の管理


MD患者では、気管切開後において、VF上多量の誤嚥があり、経口摂取は不可能との報告があります。気管カニューレは喉頭挙上を妨げるため、もともと咽頭期障害があり誤嚥のリスクが高い本疾患では、気管切開により誤嚥が顕性化されることがあります。
気管切開後のケアは、気切孔からの吸引に重点が置かれがちです。しかし、梨状窩への食物や唾液の貯留を同程度に吸引し、カフの周囲をつたっての誤嚥を防止するとともに、口腔ケアに留意しなければ、誤嚥性肺炎の予防はむずかしいことがあります。

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の摂食・嚥下障害について

DMD患者は、10歳代より口腔期の異常が存在し、さらに20歳頃より咽頭残留などの咽頭期障害が出現し、口腔、咽頭の通過障害は固形物の方が強く、咽頭残留は液体の方が多くみられたとの報告があります。また、口腔・咽頭移送時間は年齢とともに遅延し、舌骨の前上方への運動時間は、年齢とともに短縮すると報告されています。

 

摂食・嚥下運動の各プロセスにおける障害と対策について


準備期の障害と対策について

閉口筋と開口筋の機能の不均衡により、しばしば開口障害と開咬を認めます。
咬合不全があり、咬合力は20歳代でも100N以下であり、健常人の平均値、10歳代468N20歳代654Nに比べきわめて低値となります。
また、巨舌や筋力低下のため、明らかな舌の可動域制限がみられます。
歯列は、前後径が小さく左右径がやや大きく、相対的に側方に広がり、そのため舌の左右運動量が多くなり咀嚼効率が低下してしまいます。
対策としては、咬合床などの装置により、咀嚼機能を改善したとの報告があります。

口腔期の障害と対策について

巨舌と舌の可動域制限のため、奥舌への移送や咽頭への送り込み、運動中に口腔内を食塊が行きつもどりつしてしまいます。対策としては、咬合訓練や口腔周囲筋のストレッチを行い可動域を拡大を図ります。

咽頭期の障害と対策について

咽頭筋の筋力低下による咽頭移送障害と舌骨挙上不全による食道入口開大不全があります。そのため、食道入口部を食塊が一度に通過しないことが少なくありません。結果として、食塊の口腔への逆流が少なからず認められます。障害食道入口開大不全に対してはバルン拡張法法(1回引き抜き法)が有効なことがあるとの報告があります。

食道期の障害について

食道の移送障害は、少ないといわれていますが、胃食道逆流がみられることがあります。

摂食障害と対策について

脊柱変形や上肢・体幹筋力低下による疲労が必発です。慢性進行性のため、患者は必ずしも疲労を自覚していませんが、食事の後半に頻脈や体動が目立つときは、疲れているサインと判断します。

脊柱変形や上肢・体幹筋力低下による疲労の対策としては、ただちに全面介助に変更するのではなく、患者の自食の意欲を尊重して、食事の後半を介助するなどの配慮が必要です。また、脊柱の変形に対してポジショニングを工夫し、摂食姿勢の安定を図る。上肢筋力低下については、テーブルの高さや食器の工夫も考慮します。

呼吸との関係

呼吸不全と嚥下障害は互いに悪化要因となります。嚥下障害のある呼吸不全患者において、摂食時にまず脈拍が上昇し、次に経皮的酸素飽和度(SpO2)が低下します。
これは、嚥下時の呼吸筋の動員や嚥下時の無呼吸などが、呼吸へ影響していることを反映しています。SpO2の低下は必ずしも誤嚥を意味しないと言われています。

10歳代では口腔期障害の方が優位ですが、20歳代前後から咽頭筋力低下による咽頭残留、不顕性誤嚥による痰がらみが出現してきます。10歳代後半から呼吸不全を合併する患者があり、呼吸不全は嚥下状態に影響を及ぼします。

呼吸不全初期には、夜間のみマスクによる呼吸管理を行い、日中は呼吸器を装着しないことが多いですが、食事中にSpO2が低下する場合は、食前に呼吸器を装着して呼吸筋を休めるか、呼吸器を装着して摂食することが望ましいと言われています。

摂食中に呼吸器を装着する場合は、安全に嚥下できることを確認する必要がありますが、通常は数回の練習で呼吸器装着下の摂食が可能となります。

栄養管理

近年、NST活動がさかんとなり、DMDにおいて栄養指標が著しく低下している患者があることが明らかになってきました。この中に、摂食・嚥下障害のため栄養摂取量が不足していることが少なくありません。
対策としては、水分の嚥下は比較的良好であることが多いので、摂取栄養量が不足する場合は、メイバランスなどの栄養補助食品を経口摂取させるなど工夫が必要となります。

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