記憶障害へのアプローチ方法

環境調整


記憶障害者をとりまく周囲の環境に手を加えて生活や仕事をしやすくすることはすべての患者に必要な支援です。具体的には、物理的環境、生活全般、コミュニケーションの3側面において記憶への負担が少ない環境を作ります。

物理的環境に対する支援として、次に何をすべきかが思い出せず、ADLについても指示が必要だった重度記憶障害例に対して、戸棚などの収納内容をラベルにして貼る、行動の順序をチェックリストにして貼る、行動できたらカレンダーにシールを貼ってフィードバックする、という訓練を系統的に行った結果、自立が可能になり自宅復帰できたとの報告があります。

生活全般について記憶への負担を減らすためには、生活パターンや日課を決めて規則正しい生活をする、予定の変更は最小限に抑えるなどが有効です。

会話やコミュニケーション面での調整としては、記憶障害のある人に話しかける場合はまず自分の名前や役割を名乗る、話題やテーマを具体的に伝えて話しかけ、折に触れて繰り返す、何かを説明したり、指示したりする時は必ず紙に書いて目につく場所に貼る、といった配慮をします。

学習法の改善


記憶障害のある人にとって新たな学習は極めて困難なので、本人にとって重要で必要なことや、本人が行わなければならない作業の手順などに限定して学習してもらいます。学習を促進する方法として、例えば、注意を払う、覚える材料を整理して構造化する、他の事物に関連付けるなど深い処理をする、時間間隔をあけて学習する、などの有効性がこれまでの研究から明らかになっています。

ここでは、記憶障害のリハビリテーションの領域で注目されている、誤りをさせない学習法と間隔伸張法を取り上げたいと思います。

誤りをさせない学習法(エラーレス学習)とは、いったん間違えると誤反応が残り、修正が難しいという記憶障害者の特性から、新しいことを記憶する場合に誤反応を避け、最初から正反応を導く方法です。健常者では、仮に間違えたとしても修正体験がエピソード記憶に残るため、間違いを通して学んで行くことが可能です。しかし、記憶障害者ではエピソード記憶が著しく障害されるため、修正体験は記憶されない。一方、潜在記憶は記憶障害者にも保たれているため、自分の行った誤り反応が潜在記憶に残り、次回以降も同じ誤りを繰り返す結果になると考えられています。

エピソード記憶のない記憶障害者にとっては試行錯誤を避けるのが最善の方法であり、間違いをさせないように周到に計画した上で学習してもらうことが必要です。

間隔伸張法とは、情報を保持する時間間隔を少しずつ延ばして想起させて行く方法です。第一試行、第二試行で想起に成功した場合、両者の時間間隔が長くなるほど第三試行が成功する確率が高くなるという実験結果に基づいています。

まず、短い保持時間の後にテストを行い、想起に成功したらその後の保持時間を次第に長くして行く、というように想起テスト間の間隔を徐々に延長していく。

記憶障害患者、認知症患者での効果が知られていますが、最近は失語症者の呼称訓練についても有効との報告があり幅広く応用できます。
車いすの操作や安全な移動の仕方、嚥下の仕方などを認知能力の低下した高齢者に指導する際にも有効です。
ここでもできるだけ失敗を避け、また失敗した場合はすぐに正答もしくは手がかりを与えることなど、エラーレス学習を基本として行うことにより効果を上げることができます。

代償手段の利用(内的・外的補助手段)


内的補助手段とは、記憶や想起をしやすくするために記憶障害者自身が頭の中で用いるストラテジーです。例えば、人の名前を覚える時に、視覚的なイメージ(並木さん→並木道)に置き換えて覚える、などです。まとまった内容を記憶するときに、情報を整理した形で取り込むための方法がPQRST法です。

PQRST

P:Preview(ざっと目を通す)
Q:Question(質問を作る)
R:Read(じっくり読む)
S:State(質問に答える)
T:Test(答え合わせをする)

時間をかけて、構造化し、深い処理を行うことで記憶に残りやすくします。内的補助手段はどのような患者でも活用できるというわけではありませんが、試みて使えそうであれば訓練を行います。

外的補助手段とは、記憶障害によって生じる困難を減らす目的で、日記やメモ、カレンダー、手帳を使ったり、ICレコーダーのタイマー機能を使って時刻ごとにすべきことを音声出力したりすることです。

外的補助手段は、実際に使ってもらう訓練を身につくまで丁寧に行わない限り活用に至らない例も少なくありません。


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参考文献
Jpn J Rehabil Med VOL.42 NO.5 2005

記憶障害のリハビリの考え方

記憶リハの目標は、患者自身の記憶能力と患者を取り巻く環境が要求する記憶能力との隔たりを何らかの方法で調整し、日常生活や社会生活への適応をはかることであり、記憶を筋肉のように"鍛える"ことではありません。

脳損傷による記憶障害では、元のレベルを回復することは困難であり、また、回復がおきる期間は比較的初期に限られると言われています。

このため、時期に応じた系統的なアプローチが必要となります。

初期の対応としては、まず適切な診断・評価によって記憶障害を見落とさないことが肝要です。評価結果をもとに、記憶障害についての情報を当事者、家族に提供し、今後起こりうることや日常生活上の対処の仕方などを伝えます。

発症から日の浅い入院中のリハでは、主として病棟での自立度の向上を目的に訓練を行います。

例えば、その日の予定をノートなどで確認して行動する、病室や訓練室の場所を覚えて移動できるようにする、などを課題としてとりあげ、細かくステップに分割し、スタッフ間でやり方を統一して指導します。

病棟での自立度の向上をはかりながら、代償手段の獲得に向けて手がかりを探って行きます。

さらに退院などの際にも支援機関との繫がりが絶たれないように配慮します。

一方、発症からの経過が長い場合には、生活の中での問題を調整し、解決をはかるという日常生活に即した目標設定とアプローチが必要となります。

記憶障害に気づくまでに数年かかるケースもありますが、発症からの経過期間にかかわらず、リハとしてアプローチをすべきことはあり、有効性もあるとの報告もあります。

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参考文献:リハビリテーション医学VOL.42 NO.5


顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)の病因や病理、病態生理について

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)の病因・病理・病態生理

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー は、常染色体優性遺伝をとる浸透率の高い疾患です。
頻度は他の筋ジストロフィーに比べると低く 、人口10万人あたり0.20.5人です。

本症の遺伝子座は第4染色体長腕テロメア4q35-qterに存在します。
この部位を認識するプローブを用いてサザンブロット法を行うと 、大半の患者では正常よりも短い(35kb)制限酵素断片が得られ(遺伝子の欠失) 、診断に役立ちます。しかし 、遺伝子はまだクローニングされていません。

筋生検では筋線維の大小不同 、壊死・再生など筋ジストロフィーの変化がみられます。
時に炎症細胞の浸潤をみて 、筋炎との鑑別を要することがあります。


顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)臨床所見

発症は小児期から成人前までと幅広く 、また症状も幅があります。

患者の家族をみると表情が乏しいだけで 、四肢には全く筋力低下をみないこともまれではありません。

病気は上肢の挙上困難で気づかれることが多いです。

肩甲帯周囲の筋萎縮が強いので 、病初期から翼状肩甲winged scapulaeがみられます。

大半の患者では顔面筋がおかされ 、頬のふくらみがなくなり 、表情が乏しくなり、病気が進行すると 、筋力低下は下肢にも及びます。

本症の筋罹患は左右非対称であることが特徴的であるとされています。

心・肺機能はおかされにくく、難聴 、網膜症retinal vasculopathyが約半数の患者にみられます。

90%の児童が正しく構音できる時期について

小児の構音障害を診る時には,健常児の構音の発達を考慮しなければいけません。

下記の表は、単語レベルで90%の児童が正しく構音できる時期を示しています。

子音の構音では,特に[s](サ行),[ts](ツ),[dz](ザ,ズ,ゾ),[r](ラ行)の完成が、他の子音に比べて大きく遅れており、4歳代ではこれらが不完全であっても必ずしも異常とは言えません。したがってこのような児では他の音の誤りの有無や、構音発達の経過に留意しなければいけません。

90%の児童が正しく構音できる時期
40カ月~45カ月
wjhcpbmt
dnkgtʃ 
46カ月~411カ月
ʃ 
50カ月~55カ月
sts
56カ月~511カ月
dzr
60カ月~

中西靖子,他:構音検査とその結果に関する考察.東京学芸大学特殊教育研究施設報告1121頁,より改変.

筋強直性ジストロフィー(MD)と摂食・嚥下障害

筋強直性ジストロフィーの摂食・嚥下機能の病態

国立病院機構筋ジストロフィー病棟の2000年から2004年のMDの死因を5年間の累計でみると、呼吸不全が27.9%、次いで呼吸器感染症21.8%、呼吸不全と呼吸器感染症併記が5.5%と呼吸器系の関与が目立ちます。
呼吸器感染症には誤嚥性肺炎も多く含まれていると考えられ、摂食・嚥下障害が、この疾患の予後と強い関連をもっていることを示唆しています。

嚥下障害を引きおこす要因には、ミオパチーによる嚥下筋力の低下、ミオトニア、中枢神経障害があげられています。
ミオトニアについては、筋電図により顎下筋の放電を確認した報告があります、嚥下運動の中でどのように関与しているかについては明らかではありません。

MDでは、認知期・準備期の問題、口腔の形態的・機能的問題、咽頭期・食道期の問題がいずれも存在します。CTG三塩基反復数と嚥下機能重症度との関連は明らかでないといわれています。
MD患者のなかには、誤嚥を繰り返しながら経口摂取を続けているものが少なからず存在すると推察されますが、自覚症状やスクリーニング検査で発見することは困難と言われています。

摂食・嚥下運動の各プロセスにおける障害


認知期


認知障害による摂食行動異常(次々に大きな食塊を口に詰め込むなどの行動)や病識の甘さなどがみられます。嚥下障害の自覚症状として、のみ込みにくさを45%、むせを33%が訴えているとの報告もありますが、一般に自覚の乏しい場合が多く、誤嚥のリスク管理上十分な観察が必要です。摂食・嚥下障害の自覚に乏しく、自食患者の誤嚥のリスクはかなり高いと言われています。この点を踏まえた、見守りと管理体制が必要となります。


準備期


不正咬合は35%にみられ、前歯と小臼歯部の歯が噛み合わない開咬があります。咀嚼力低下は不正咬合と咀嚼筋(咬筋と内側翼突筋)筋力低下の両者によってもたらされます。咬合力は健常者の1/10程度ですが、咀嚼障害について病識が少なく、不十分な咀嚼でのみ込む行動がみられます。不正咬合に対し、口腔外科的矯正手術が有効との報告があります。

口腔期


鼻咽腔閉鎖不全、軟口蓋挙上の遅れ、咽頭への送り込み障害が認められます。

咽頭期


咽頭蠕動の低下による食物の咽頭残留、喉頭蓋閉鎖不全や嚥下反射遅延による誤嚥があげられます。とくに誤嚥については自覚のない不顕性誤嚥が少なくありません。嚥下造影(VF)所見として、咽頭への送り込み障害、咽頭期における下咽頭での残留、誤嚥などがあげられます。また液体の誤嚥リスクが高く、自覚症状との関連は認められません。健常人に比して、食塊通過時間は長く、舌骨の動き始めが遅く、食道入口部の開大開始が遅いが、食塊の動きとの関係でみると、むしろ早いなどの報告があります。また、クエン酸吸入による咳誘発試験では、MDで咳嗽反射閾値が高いとの報告もあり、むせない誤嚥が多いこととの関連が示唆されます。

食道期


胃食道逆流、食道蠕動の欠如や弛緩があります。VF所見では、食道上部の内腔拡張を認め、食後も食道内に造影剤が高率に残留しています。食道内分圧測定では正常者で認めるべき胃に対しての静止内分圧の陰圧が減少しています。上部・下部食道括約筋圧の低下、食道収縮の振幅低下があり、これらは、本疾患の重症度や塩基配列の長さにかかわらず、著明に低下しています。病理学的検討では、食道の平滑筋病変・横紋筋病変が同程度に認められています。

摂食障害


上肢筋力の低下や食器把持によるミオトニア現象があります。

姿勢


頸部の筋力低下があり、首下がりや後屈位が摂食・嚥下障害を増強させることがあります。

呼吸障害


呼吸筋の筋力低下による拘束性換気障害と呼吸調節機能の障害があります。食事中にSpO2低下を認める患者がありますが、DMDと同様の機序と思われるものと、誤嚥を疑うものがあります。

その他


歯科治療上の問題点として、筋力低下などによるブラッシング能力の低下と劣悪な口腔衛生などがあり、齲蝕や歯周疾患が多く、ブラッシング指導や電動歯ブラシが有効です。明らかな誤嚥のない患者に対しては、嚥下前の含嗽が有効との報告があります。誤嚥性肺炎の予防としても重要となります。

気管切開後の管理


MD患者では、気管切開後において、VF上多量の誤嚥があり、経口摂取は不可能との報告があります。気管カニューレは喉頭挙上を妨げるため、もともと咽頭期障害があり誤嚥のリスクが高い本疾患では、気管切開により誤嚥が顕性化されることがあります。
気管切開後のケアは、気切孔からの吸引に重点が置かれがちです。しかし、梨状窩への食物や唾液の貯留を同程度に吸引し、カフの周囲をつたっての誤嚥を防止するとともに、口腔ケアに留意しなければ、誤嚥性肺炎の予防はむずかしいことがあります。

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の摂食・嚥下障害について

DMD患者は、10歳代より口腔期の異常が存在し、さらに20歳頃より咽頭残留などの咽頭期障害が出現し、口腔、咽頭の通過障害は固形物の方が強く、咽頭残留は液体の方が多くみられたとの報告があります。また、口腔・咽頭移送時間は年齢とともに遅延し、舌骨の前上方への運動時間は、年齢とともに短縮すると報告されています。

 

摂食・嚥下運動の各プロセスにおける障害と対策について


準備期の障害と対策について

閉口筋と開口筋の機能の不均衡により、しばしば開口障害と開咬を認めます。
咬合不全があり、咬合力は20歳代でも100N以下であり、健常人の平均値、10歳代468N20歳代654Nに比べきわめて低値となります。
また、巨舌や筋力低下のため、明らかな舌の可動域制限がみられます。
歯列は、前後径が小さく左右径がやや大きく、相対的に側方に広がり、そのため舌の左右運動量が多くなり咀嚼効率が低下してしまいます。
対策としては、咬合床などの装置により、咀嚼機能を改善したとの報告があります。

口腔期の障害と対策について

巨舌と舌の可動域制限のため、奥舌への移送や咽頭への送り込み、運動中に口腔内を食塊が行きつもどりつしてしまいます。対策としては、咬合訓練や口腔周囲筋のストレッチを行い可動域を拡大を図ります。

咽頭期の障害と対策について

咽頭筋の筋力低下による咽頭移送障害と舌骨挙上不全による食道入口開大不全があります。そのため、食道入口部を食塊が一度に通過しないことが少なくありません。結果として、食塊の口腔への逆流が少なからず認められます。障害食道入口開大不全に対してはバルン拡張法法(1回引き抜き法)が有効なことがあるとの報告があります。

食道期の障害について

食道の移送障害は、少ないといわれていますが、胃食道逆流がみられることがあります。

摂食障害と対策について

脊柱変形や上肢・体幹筋力低下による疲労が必発です。慢性進行性のため、患者は必ずしも疲労を自覚していませんが、食事の後半に頻脈や体動が目立つときは、疲れているサインと判断します。

脊柱変形や上肢・体幹筋力低下による疲労の対策としては、ただちに全面介助に変更するのではなく、患者の自食の意欲を尊重して、食事の後半を介助するなどの配慮が必要です。また、脊柱の変形に対してポジショニングを工夫し、摂食姿勢の安定を図る。上肢筋力低下については、テーブルの高さや食器の工夫も考慮します。

呼吸との関係

呼吸不全と嚥下障害は互いに悪化要因となります。嚥下障害のある呼吸不全患者において、摂食時にまず脈拍が上昇し、次に経皮的酸素飽和度(SpO2)が低下します。
これは、嚥下時の呼吸筋の動員や嚥下時の無呼吸などが、呼吸へ影響していることを反映しています。SpO2の低下は必ずしも誤嚥を意味しないと言われています。

10歳代では口腔期障害の方が優位ですが、20歳代前後から咽頭筋力低下による咽頭残留、不顕性誤嚥による痰がらみが出現してきます。10歳代後半から呼吸不全を合併する患者があり、呼吸不全は嚥下状態に影響を及ぼします。

呼吸不全初期には、夜間のみマスクによる呼吸管理を行い、日中は呼吸器を装着しないことが多いですが、食事中にSpO2が低下する場合は、食前に呼吸器を装着して呼吸筋を休めるか、呼吸器を装着して摂食することが望ましいと言われています。

摂食中に呼吸器を装着する場合は、安全に嚥下できることを確認する必要がありますが、通常は数回の練習で呼吸器装着下の摂食が可能となります。

栄養管理

近年、NST活動がさかんとなり、DMDにおいて栄養指標が著しく低下している患者があることが明らかになってきました。この中に、摂食・嚥下障害のため栄養摂取量が不足していることが少なくありません。
対策としては、水分の嚥下は比較的良好であることが多いので、摂取栄養量が不足する場合は、メイバランスなどの栄養補助食品を経口摂取させるなど工夫が必要となります。

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進行性筋ジストロフィーProgressivemusculardystrophyの病型(タイプ)について

筋ジストロフィーは筋線維の変性・壊死を主病変とし、進行性の筋力低下をみる遺伝性疾患です。筋線維の壊死とそれに伴う再生が慢性的に行われる過程で線維化や脂肪変性が出現・進行し、筋量が減少することによって徐々に筋力低下が進行していきます。

運動機能障害を主な症状ですがが、関節拘縮や呼吸機能障害、心機能障害、嚥下障害、消化管症状、骨代謝異常、内分泌代謝異常、中枢神経障害などの合併を認めることも多いです。

筋ジストロフィーの病型について


1Duchenne型筋ジストロフィー(DuchennemusculardystrophyDMD)

DMDX連鎖劣性遺伝形式をとり原則男児に発症します。ジストロフィン遺伝子変異によって筋線維膜直下に存在するジストロフィン蛋白の欠損をきたすことによって生じます。
2歳以降に転びやすい、走れないなどで気付かれますが、発症前にたまたま行った検査で高クレアチンキナーゼ血症が判明し診断を受ける場合も多いです。
5歳頃に運動能力のピークを迎えたのち緩徐に症状が進行し10歳頃に歩行不能となります。
10歳以降に呼吸不全、心筋症を認めるようになるが出現時期や経過に個人差が大きいです。
進行性の側弯症の合併が多く脊柱固定術の適応となる場合があります。

ジストロフィン遺伝子変異を有する女性を保因者と呼び、その多くは無症状ですが、一部成人以降に筋力低下や心筋症を呈する例があります。

2014年に「デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014」が刊行されています。

2Becker型筋ジストロフィー(BeckermusculardystrophyBMD)

DMDに臨床症状は類似しますが、発症時期がより遅く15歳を過ぎても歩行可能ですが、重症度には幅があります。歩行や起立、階段昇降に支障をきたすことが初発症状のことが多いです。

BMDでは歩行可能な時期であっても心筋症を発症する場合があります。
BMDの病因もジストロフィン遺伝子変異によるが、BMDではジストロフィン蛋白の量的質的異常を示します。

3】先天性筋ジストロフィー(congenitalmusculardystrophyCMD)
わが国では先天性筋ジストロフィーのうち福山型(FukuyamatypeCMDFCMD)が約60%を占めます。その他Ullrich型やメロシン欠損型などが存在します。FCMDは重い知的障害、てんかんなど中枢神経症状を合併する日本人に特有の病型です。

乳児期に精神運動発達遅滞で気づかれ、坐位は獲得できる例が多いですが歩行は獲得できない例が大半と言われています。

全身の筋力、筋緊張低下や顔面筋罹患、早期からの手指、股、膝、足関節拘縮が特徴となります。

MRIで多小脳回、小脳内の小嚢胞、白質髄鞘化の遅延を認めます。
学齢期以降に運動機能低下が進行し、10歳以降で心筋症や呼吸不全や嚥下障害、消化管機能障害などを呈します。

平均寿命は15歳程度とされていましたが、医療の向上により延長しています。

血清CK値は数千程度のことが多いです。
fukutin遺伝子がFCMDの責任遺伝子でありFCMD患者の約90%で3'非翻訳領域内における3kbのレトロトランスポゾン挿入変異をホモ接合体で有しています。
本症が日本人に固有である理由として、3kbの挿入変異が日本人の祖先に生じこれが広まったことが想定されています。

4】肢帯型筋ジストロフィー(limb-girdlemusculardystrophyLGMD)

発症年齢は幼児期から成人の50歳代以降までと幅があり、症状の進行にも個人差が大きいです。
また無症候性高CK血症の原因であることもあり、たまたま検査で高CK血症が判明して診断を受ける場合もあります。
近位筋の特に下肢帯の筋力低下による歩行異常、転びやすい、階段昇降困難などが初発症状となります。
多くは常染色体劣性遺伝形式をとりますが、優性遺伝形式の例もあり、優性遺伝はLGMD1、劣性遺伝をとるものはLGMD2と分類され、遺伝子座をもとに分類が行われており現在でも毎年のように新しい病因遺伝子が報告されているが、約半数では病因不明です。

5】顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(facioscapulohumeralmusculardystrophyFSHD)

発症年齢は幼児期から壮年期までと幅があり、成人例では軽い顔面筋罹患程度で本人の自覚症状がほとんどない場合もあります。

典型例は顔面筋罹患と、上肢挙上困難が初発症状であることが多いです。
上肢を外転させても十分にできず僧帽筋が膨隆します。
肩甲帯筋の筋萎縮が著明で翼状肩甲を呈します。
経過とともに下肢帯や下肢に障害が及びます。
筋力低下、筋萎縮の分布が左右非対称となることがしばしばあります。
呼吸障害、心筋障害は他の筋ジストロフィーに比べると合併頻度は少ないが定期評価は必要です。
小児発症例では難聴、知的障害を認める場合があります。
血清CKは高値を示しますが正常例も存在します。
常染色体優性遺伝形式をとり、4q35領域の3.3kbの繰り返し配列の欠失が認められることが本症の病因となります。

6Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(EDMD)

本症では筋力低下が軽度である時期からすでに、肘、手、足関節に拘縮がみられます。また脊柱の可動域制限も認めることが多いです。
心筋症の合併が多く、心房機能不全、A-Vblockといった特異的な所見を呈するようになります。
心電図は初期にはP波の不明瞭化、P-R延長、A-Vblockを呈し、突然死のリスクを有する疾患です。
血清CKは正常の10倍程度までの上昇がみられます。
EDMDにはX連鎖劣性遺伝と常染色体優性遺伝の形式をとるタイプが存在します。
X連鎖劣性遺伝形式をとるタイプではXq28に存在するエメリンの変異によるものです。
エメリン蛋白は核膜に局在します。常染色体優性遺伝形式をとるタイプはlaminA/Cという核膜の蛋白をコードする遺伝子に変異を認めます。核膜蛋白の異常によって筋ジストロフィーが生じる原因はまだよくわかっていません。

7】筋強直性ジストロフィー(myotonicdystrophyDM)

1(DM1)2(DM2)が存在しますがわが国ではほとんどがDM1です。DM1は発症時期の違いによって成人型、小児型、先天型に分類されます。先天型はDM1を有する母(稀に父)から生まれ、新生児期から重度の筋力、筋緊張低下、顔面筋罹患を認め、呼吸障害を伴い人工呼吸管理が必要な例や生後まもなく死亡する例も少なくありません。
嚥下障害、股関節脱臼、関節拘縮、横隔膜麻痺なども伴うことも多いです。

経過とともに改善を認め歩行が可能となる例も多いです。知的障害が全例で明らかになり、成人以降になると成人型の症状を認めます。

小児型は幼児期以降に精神発達遅滞で発症し、知的障害に加えて特徴的な顔貌を認めます。成人型では側頭筋や四肢遠位筋優位の筋力低下やミオトニーのほか多臓器障害を認める疾患で、心病変(心伝導障害、心筋障害)、慢性呼吸不全、嚥下障害、認知機能障害などの中枢神経異常、白内障、耐糖能障害、悪性腫瘍などの合併を示します。

軽症の場合には白内障・耐糖能異常のみを示す場合があります。

本症は常染色体優性遺伝をとり、病因遺伝子はmyotoninkinaseであり、その遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTG繰り返し配列が増加しており、tripletrepeat病の1つです。

健常人ではこのCTGの繰り返し配列は30回未満ですが、患者では502000回程度に延長しています。この繰り返しの数と臨床症状は相関し、成人型<小児型<先天型と繰り返し数の延長傾向を認めます。世代を経るに従ってこの繰り返しの数が増加し、症状は重くなる傾向にあり、これを表現促進と呼びます。

機能性構音障害にみられる特異な構音操作の誤り(異常構音)の特徴と鑑別診断

側音化構音

なりやすい音:イ列音,ɕʨ・ʥなどの拗音,stsdz
聴覚印象および構音操作の特徴:「シ」が「ヒ」,「チ」が「キ」,「ジ」が「ギ」に近く聞こえる。舌・口角・下顎の側方への偏位を伴うことがあります。呼気は口腔の側方から流出します。
鑑別診断の方法:呼気が側方から流出しているのを鼻息鏡で確認します。舌・口角・下顎の側方への偏位の有無を観察します。


口蓋化構音

なりやすい音tdnstsdzなどの歯茎音
聴覚印象および構音操作の特徴:タ行・ツがカ行,ダ行がガ行に近く聞こえる。サ行は独特の歪み音です。舌背中央が挙上し,舌先の使用がない。
鑑別診断の方法:舌背の拳上を確認します。呼気は正中から流出する(鼻息鏡で確認)。


鼻咽腔構音

なりやすい音:イ列音,ウ列音,stsdzなど
聴覚印象および構音操作の特徴:母音列では鼻に抜けた「ン」や「クン」に近い歪み音。サ行音,ザ行音では鼻腔摩擦音や鼻雑音を伴った破裂音のように聞こえる。呼気は鼻腔から流出します。
鑑別診断の方法:鼻咽腔閉鎖不全の場合は,すべての音で呼気鼻漏出が観察されるが,鼻咽腔構音では特定の音で呼気鼻漏出が観察される。外鼻孔を閉鎖すると構音できないことがあります。


声門破裂音

なりやすい音tkなどの破裂音。破擦音・摩擦音にも生じることがある
聴覚印象および構音操作の特徴:力の入った母音のように聞こえる。会話はぶつぶつと途切れて聞こえる。口唇や舌の構音操作が観察されない。
鑑別診断の方法:省略との鑑別が必要です。母音と破裂音を交互に言わせる(例:アカアカアカ)と,声門破裂音ではぶつぶつ途切れて聞こえる。


参考文献

ことばの異常 機能性構音障害の診断のポイント 今井智子 JOHNSVol.34No.2 2018

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Chiari(キアリ)奇形の病型や分類、臨床症状について

Chiari(キアリ)奇形とは、後脳(小脳,橋および延髄)の一部が大後頭孔を越えて脊柱管内に陥入する形態を呈する疾患です。

1891年に病理学者のHans Chiariが後脳の奇形を4型に分類して報告しました。

それ以前の1883年にClelandがChiariⅡ型と脊髄瘤、水頭症を合併した症例を発表しており,これが後脳奇形に関する最初の論文とされています。

そして1894年にArnoldが二分脊椎を伴ったChiariⅡ型と思われる後脳奇形を報告しました。

これらの経緯から、Cleland-Arnold-Chiari奇形やArnold-Chiari奇形という呼称が生まれましたが、最近はChiari奇形という用語が使用されています。

Chiari(キアリ)奇形の頻度
ChiariⅡ型奇形は、家族内発生が約3%にみられ、神経線維腫症Ⅰ型や低身長を呈する成長ホルモン分泌障害の例に発生しやすいといわれています。


Chiari(キアリ)奇形の病型と分類について

Chiariは以下の4型に分類していますが、多くはⅠ型とⅡ型で、Ⅲ型は稀です。そしてⅣ型は後脳の陥入を伴わないためChiari奇形には含めないとされています。

Ⅰ型:小脳扁桃が脊柱管内に下垂しますが第4脳室は陥入しません。成人に多く、髄膜瘤を伴うことはありません。水頭症の合併は10%程度で、脊髄空洞症が50~85%にみられます。

Ⅱ型:延髄、第4脳室、小脳虫部が脊柱管内に下垂します。新生児期からみられ、水頭症の合併を90%程度みられます。

Ⅲ型:小脳全体が頚椎破裂部や髄膜瘤に陥入したものをいいます。

Ⅳ型:水頭症に小脳形成不全を伴うものをいいます。


Chiari(キアリ)奇形の臨床症状
Ⅰ型:症状は多彩であり、非特異的なものが多いです。発症年齢は30歳代前後が多く、Valsalva法で誘発される後頭部や頚部の痛みが特徴です。神経症状は大孔部圧迫症状(脳幹、下位脳神経障害)、脊髄症状、小脳症状の3型があります。脊髄空洞症を伴う場合には宙づり型の解離性感覚障害がみられます。

Ⅱ型:生後1~3ヵ月で発症することが多く、喘鳴、無呼吸発作、嚥下障害、誤嚥と肺炎、チアノーゼ、四肢麻痺などがみられます。3ヵ月未満の延髄機能障害はChiari crisisとして注意を要します。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者に対する嚥下評価について

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DuchennemusculardystrophyDMD)患者の平均寿命は人工呼吸器療法などの集学的医療の効果により延長しています。寿命の延長に伴い、嚥下機能の低下が顕在化し、胃痩栄養や中心静脈栄養などの栄養管理方法を選択する例が増加しています。

一般にDMD患者では10歳代から咀噌や咽頭への食物の送り込みなどの口腔機能に異常が現れ、20歳以上では咽頭喉頭の筋力が低下することにより嚥下後に食物が咽頭に残留する頻度が高くなりますが、誤嚥を来す頻度は少ないと報告されています。

DMDの診療ガイドラインでは、口腔機能の低下が始まる10歳代半ばから定期的に嚥下機能評価を行うことが推奨されています。

DMD患者のスクリーニング検査

スクリーニング検査としては反復唾液嚥下テスト(RSST)と(MWST)を実施していますが、DMD患者ではスクリーニング検査の結果を適切に評価できないことが少なくありません。嚥下障害が進行しているDMD患者では、嚥下時の喉頭挙上の動きが弱く、弱い嚥下運動を反復しながら少しずつ嚥下するため、嚥下反射のタイミングを触診だけで判断することが難しい場合があります。

この喉頭挙上が1横指を超えない弱い嚥下運動が観察される場合には、咽頭への食物残留が認められることが多いという報告があります。また、呼吸筋が弱くなっている場合には、検査者にわかるように強くむせることが出来ません。

ただし、DMD患者の場合には咽頭喉頭の感覚が保たれているため、咽頭残留の有無や飲み込みにくさについては比較的正確に自覚されている場合が多いです。

DMD患者の嚥下内視鏡検査

外来またはベットサイドに内視鏡を持参して検査を行います。検査の際には普段食事をしている姿勢をとってもらい、普段の食事中に鼻マスクなどを使用しNPPV換気を行っている場合には呼吸器を装着したまま検査を実施します。内視鏡の先端部分を鼻腔内に挿入する時のみ少しマスクをずらすだけで、その後は通常通りに換気をしながら検査を実施することができます。

嚥下時の咽頭喉頭の動きが減弱したDMD患者では咽頭の唾液貯留や嚥下後の咽頭残留を認めます。ただし、唾液や残留した食物の喉頭内への侵入や誤嚥を認める頻度は高くなく、喉頭内へ食物が侵入しかかると呼気で喀出されている様子を観察することがあります。

これは喉頭の感覚が保たれており、誤嚥しそうになっていることを患者自身が自覚し対処されているためと思われます。

DMD患者の嚥下造影検査

嚥下造影検査の際にもなるべく普段食事をしている姿勢で行い、呼吸器を使用している場合には呼吸器を装着したまま検査を実施します。検査食にはバリウムなどの造影剤入りの水分の他、トロミ水や全粥、米飯、蒸しパンやクッキーなどを必要に応じて使用します。

嚥下造影検査では誤嚥の有無や咽喉頭の動きだけでなく、内視鏡検査だけでは判断が難しかった口腔や舌の動き、食道の動きまで観察を行います。DMD患者では咬合不全や巨舌、舌の筋力低下が出現してくると、咀噌障害や咽頭への送り込み障害が生じ、一度に沢山の量を口腔内から咽頭に送り込むことが難しくなるため食塊をごく少量ずつ咽頭へ送り込む様子が観察されます。

咽頭期では嚥下時の喉頭挙上運動の減弱や嚥下後の咽頭残留を認めます。誤嚥を認めることはまれですが、検査食の形態を複数試しながら、どの形態がより咽頭残留を減らし、誤嚥の危険性を減らすことが出来るのか検査をしながら検討をしていきます。

ことばの遅れを見極める時期について

幼児期にことばの遅れを見極めるには、言語発達の観点から次の4つの時期が大切です。

   初語出現の頃である1歳~1歳半面
   二語文出現の2歳頃
   会話がほぼ完成する三歳頃

保健所の1歳半健診、3歳半健診はこの①と③をカバーする時期に行われます。ことばの遅れを端緒として学童期軽度障害につながる子どもが多いです。

1歳~1歳半頃の発見のポイント

1歳半頃には、90%の子どもがパパ、ママ以外に3つの単語を言えるようになります。ことばの出現が1つの発達の指標になりますが、ことばの出現時期には個人差があり、ことばの出現を指標にすると問題を見逃す可能性があります。

ことばの出現と同時に大きな指標になるのは、コミュニケーションの発達からみる前言語伝達行動の出現(使用)と、特定の人への愛着が育っているかという点です。前言語伝達行動は、ことば出現以前に見られるコミュニケーション手段をさします。

代表的なものは、指さしに視線や発声を伴ったものですが、これは、生後10か月頃に見られ始めます。

前言語伝達行動の例をあげると、窓の外を指さし、母親を見ながら「あっあっ」と発声し、「犬がいるよ。見て」と知らせたり、大人の方を見て、「あっあっ」と車などの玩具を差しだし、動かしてほしいと伝えます。

相手を見る、発声で注意喚起をするという行為(行動)は、誰に伝えるのかを知っていることを示し、指さしや物を渡す行為は伝達意図(伝えたいこと)を示します。

この前言語伝達は後々のことばによるコミュニケーションにも大きく関連するものです。

1歳を過ぎても前言語伝達行動が出ていない場合は、知的な遅れと広汎性発達障害を疑います。知的な遅れの場合には、発声で注意を引いたり、母親とのアイコンタクトがあり、母親への甘え、分離不安など愛着行動が見られるのが特徴です。

前言語伝達行動が出現していないか、クレーンハンド(手を引く)などの伝達行動があっても、その時に視線を伴わない等の特徴が見られる場合、同時に人見知りや、母親への甘えの欠如が見られる場合には広汎性発達障害を疑います。

2歳から3歳頃の発見のポイント

この時期にまだことばが出ない場合には、相談に行くことを勧めた方がいいでしょう。また、ゆっくりでもことばが出始めた子どもでは、ことばの増え方や文の発達にも目を向けます。

一般的には、2歳を過ぎる頃から、23語文が使えるようになります。いつまでも、文にならない子どもでは知的な遅れが心配です。また、「文」で話しているように見えても、絵本の中の文やアニメのセリフを使う時は、広汎性発達障害を疑い、専門家の評価を受けることが望ましいでしょう。

3歳以降の発見のポイント

3歳でことばがまだ出ていないという子どもでは、重篤な障害(知的障害、広汎性発達障害の重度)疑いますが、ほとんど早期に発見されています。この時期で大切なのは軽度障害群であり、軽微なことばの遅れや偏りの問題です。広汎性発達障害の中でも高機能群やLD予備軍が含まれていることがあります。