医療的ケア児とその家族へのケアについて

医療的ケア児の増加とその影響

新生児・小児集中治療の進歩により救命率が上昇する一方、気管切開、人工呼吸、経管栄養などの医療的ケアを必要とする重症心身障害児が増加しています。特に介護負担が大きい児は超重症児、準超重症児として認識され、長期入院や頻回入院のため新生児集中治療室(NICU)や一般小児科病棟の負担となっています。

在宅療養という選択肢

重症心身障害児施設は回転率が低く、入所者は高齢化しています。新たな施設や療養病床を増やすことは根本的な解決にはつながらず、医療的ケア児の受け入れ先として在宅は重要な選択肢です。医療的ケア児が在宅で家族と安心して過ごせることは、本人のQOL向上、家族の精神的・社会的な安定に対して有効な作用をもたらします。

移行期医療の問題

成人期を迎える医療的ケア児に対し、成人医療への移行が検討される場合があります。また、介護する家族の高齢化も大きな問題であり、介護体制の再構築、両親への医療・介護の介入が新たに必要な場合があります。

医療的ケア児の在宅療養の実際


医療的ケア児の特徴

医療的ケア児は先天性疾患や周産期の病態に起因する疾患が多く、「医療的ケアを必要としながら長期的な療養が見込まれる疾患」、「進行性の難病や予後が限られている疾患」、「新生児期・幼児期を支えることで成長・発達が望める疾患」の3群に大きく分けられます。

特徴として、①予備力が少なく病態が変化しやすい、②平時のバイタルサイン、身体所見が正常範囲から逸脱している、③本人からの説明が期待できず、理解・協力が得られにくい、④病状の把握、病態説明、介護支援の点から保護者への対応が重要、などが挙げられます。

在宅療養中も各種検査や外科的介入の必要性、医療デバイスの追加などに関連して病院小児科への継続受診が必要なケースが多くなります。

在宅医療がはたすべき役割

在宅療養支援診療所は、定期的な訪問診療を行うことで普段の病状を把握し、平時の在宅療養に関するサポートを行います。
各種医療管理、医療材料の提供を行い、気管切開、胃瘻などの交換も在宅で実施可能です。
状態変化時には電話相談や臨時往診で対応します。
在宅でも採血、輸液療法、注射薬の使用などが可能であり、必要に応じて病院受診や入院を判断します。

訪問看護、訪問リハビリテーションの重要性

訪問看護は病状の観察、医療的ケアの支援のみならず、育児支援、成長・発達の評価・促進、生活の安定化、精神的サポートなど、多岐にわたる支援を提供します。
リハビリテーションの必要性も高く、緊張の緩和、関節の拘縮や変形の予防、関節可動域の維持、ポジショニング、呼吸リハビリテーション、摂食・嚥下障害に対するアプローチなどに加え、補装具・日常生活用具の相談、住環境の評価と住宅改修の調整、自助具作製、介護指導と幅広いアプローチが求められます。

障害者総合支援法による在宅サービス

障害者総合支援法に基づき相談支援専門員が総合的なマネジメントを行い、訪問ヘルパーや訪問入浴サービス、デイケア、ショートステイなどの在宅サービスが提供されます。
長期療養においては介護負担軽減のためレスパイトケアサービスが重要です。
就学前・学童期には保育・教育との連携も必要であり、現場での医療的ケアが課題となります。
多職種での情報共有を意識し、退院前カンファレンスや個別支援会議への出席などを通して顔の見える関係を構築することを心がけます。

倫理的課題、意思決定支援


医療的ケア児は多くの場合で病状が進行し、新たな医療デバイスの追加が検討される時期が来きます。経管栄養法の導入、気管切開や人工呼吸管理の適応などの積極的・侵襲的な治療をどこまで行うか、緩和ケアの導入、看取りについて、など重要な意思決定に関与し、倫理的問題について家族とともに考えることが要請されます。

参考文献

日本小児科学会倫理委員会:超重症心身障害児の医療的ケアの現状と問題点―全国8府県のアンケート調査―。2008田村正徳:重症の慢性疾患児の在宅での療養・療育環境の拡充に関する総合研究。平成24年度成育疾患克服等次世代育成基盤研究、2012江草安彦(監):重症心身障害療育マニュアル。医歯薬出版、1998



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