日常生活の改善を目指した認知行動療法について解説

統合失調症の方に対する認知行動療法の目的

近年、「精神病の認知行動療法CBTforPsychosis(CBTp)」の効果検証時の主要アウトカムは、症状変化におくべきではないという考え方が広がってきています。

このような背景としては、まず、統合失調症をもつ人々の抱える最大の問題が精神病体験であるとは限らないことが挙げられます。

精神病症状よりも社会的排除やスティグマ、情緒的問題、対人関係の苦痛をより強く感じている者が少なくないことを示す調査結果が複数存在します。そのため、症状の軽減は必ずしも生活の質の向上やリカバリーに十分ではないことの理解が広がってきたのです。

さらに、認知行動モデルによれば、状況をどのように解釈(認知)するかが、その後の感情や行動(結果)を決めます。精神病体験については、いくつかの認知行動モデルが提唱されているが、心理的苦痛をもたらすのは、精神病体験という状況をどのように解釈するかで、体験そのものではないことを主張している点では共通しています。

そこで、心理的苦痛の軽減のためには、症状自体ではなく、症状に対する認知もしくは行動に介入すべきことがモデルから導き出されます。

症状の改善は苦痛軽減の結果、二次的にもたらされる可能性のある状態であって、第一義的な目的ではありません。

例えば、幻聴の頻度や内容が変わらないとしても、それによる苦痛や、影響された行動が改善すれば、介入の目的は達成されたと考えるということです。

以上のような理由から、現在では、CBTpを準向精神薬のように扱うのではなく、苦痛軽減と適応的行動の増加をターゲットにして、利用者本人の望む日常生活の改善を目的とした介入として位置づけるようになってきました。

CBTpの進め方

幻覚・妄想への対応に限定しないCBTpの進め方は、うつ病や不安障害への認知行動療法に倣って、以下の7段階に分けると考えやすいです。

①関係構築、②問題リスト作り、③目標設定、④アセスメント、⑤事例定式化caseformulation、⑥ホームワーク、⑦再発予防です。

 ①関係構築

CBTpにおける関係構築の特徴は、「柔軟な治療構造」「ノーマライジング」「不同意の同意関係」です。本人の状態に応じて面接時間を短くしたり、ホームワークを簡略化したり、同じ内容を繰り返したりする柔軟性が必要です。
「ノーマライジング」は、本人の体験している(していた)異常知覚体験が一定の状況下では誰にでも起こりうるという情報を、感覚遮断実験などの実例などを挙げながら共有することで、精神病体験の破局視を緩和します。
「不同意の同意関係」とは、状況に対する解釈が異なっていても協働して問題解決に当たれる関係を築くことです。

②問題リスト作り

問題リスト作りにおいて重要なのは、本人の優先順位づけを尊重することです。
幻覚・妄想が続いていても、本人が問題に挙げなければとりあげないようにします。
しかし症状が機能低下につながっている場合には、本人が一番に挙げた問題を探っていくと、結局、症状を扱うことにつながることが多いです。

 ③目標設定

目標設定は、SMART原則に従って行います。
Small(小さく)Measurable(達成度を測定可能)Achievable(達成可能)Realistic(現実的)Timeframe(期間設定のある)

④アセスメント

アセスメントは面接初期にまとめて終了させるものではなく、介入期間を通じて折々に行われます。状況、解釈、感情、行動、身体感覚といった認知行動モデルの各要素を同定していきます。精神病症状が関係している主訴の場合は、引き金、異常知覚体験の詳細(幻声なら音量、声質、誰の声か、どこから聞こえるか、いつ聞こえるか、知覚された威力の格差、持続時間など)、そのときの気分、採用された解釈(気分状態に一致した妄想信念)、解釈を裏づける根拠と本人が考える出来事、解釈の確信度、本人なりの対処行動をベースに確認します。

生育歴・病歴や生活環境の情報が得られれば、幻覚・妄想の由来を考えやすいですが、最初から聞かないほうが関係構築をしやすいこともあります。

取り組みの効果や達成度のモニタリングのため、目標設定に沿った質問紙や構造化面接を利用し、本人とともにその推移を観察することも重要です。

⑤事例定式化

事例定式化とは認知行動療法における見立てです。苦痛がなぜ生じて維持されているかについての仮説であり、患者と協働して作成します。
引き金-認知-感情からなるベーシックな事例定式化から、トラウマなど過去の出来事からの影響も取り込んだヒストリカル事例定式化、症状維持サイクルを明示した維持事例定式化など用途に応じて使い分け、患者の言葉を使い、複雑になりすぎないように工夫します。
文章や図式化よりも、絵や漫画にしたほうがよい場合もあります。
作成した事例定式化をもとに介入(取り組み)を計画します。

⑥ホームワーク

介入は面接中だけでなく、ホームワークの設定によっても行います。
ホームワークへの取り組みは認知行動療法の効果を予測するといわれますが、患者の負担とならないような設定が必要です。
記入が必要なものよりは、「パンフレットを読んでくる」程度から始めるほうが良いです。

⑦再発予防

再発予防は、扱った問題が症状である場合に実施することが多いです。
それまでのCBTpで得られた成果の要約を作成して時々振り返ることにしたり、再発の自覚的・他覚的注意サインをもとに対処計画を立てて必要な要素を練習したりします。

CBTpの下地作り

統合失調症をもつ患者では、自分の感情を認識したり、何に困っているのかを自覚するのに時間がかかることも多く、身体感覚を頼りに感情に名前をつけて、困り感を自覚することから始める場合もあります。

援助希求が起こりにくい方の場合では、相談行動の強化が重要です。前述の困り感の自覚から始める場合もあれば、すでに生じている文句行動を徐々に丁寧な言い方へとシェイピングしていく場合などがあります。

「情報を集めず結論に飛びつく傾向」や「複数の解釈を考えることの難しさ」が妄想の形成・維持に関係していることから、たとえ幻覚・妄想に直接つながらない状況に対してであっても、日頃から「立ち止まって考える」ことや、「ほかの解釈も考え合わせて結論を出すのを保留する」練習をしておくことが有用です。

 併存症・併存問題への介入

統合失調症に併存する物質使用障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ状態、社会不安障害、攻撃性、スティグマ、低自尊感情、心配worryなどについては、それぞれの問題に対する認知行動療法を援用した形で実施し、効果の検証も少ないながらされています。

このように統合失調症以外の対象者で効果の検証をされた認知行動療法を使用する場合は、統合失調症をもつ人々のストレス脆弱性に配慮した修正をする必要があります。

例えば、PTSDの治療として推奨される認知行動療法としては持続曝露療法がありますが、統合失調症をもつ患者のPTSDに対しては、曝露は行わず、認知再構成を中心とした介入とするのが通常だとされています。

参考文献

Theevolutionofcognitivebehaviortherapyforschizophrenia:currentpracticeandrecentdevelopments SchizophrBull35:865-873 2009

幻覚・妄想症状に対する認知行動療法 (CBT)の定義、適応、手順について

CBTの定義


患者が抱えるさまざまな問題に対して認知・行動の両面からアプローチする認知行動療法(CBT)は、気分障害・不安障害での治療効果を立証して精神療法の有力な一派となりました。

加えて1990年代以降、英国を中心にCBTを統合失調症に適応拡大する臨床研究が進められ、その結果、幻覚・妄想体験などの陽性症状にCBTが一定の有効性を示しうるというデータが報告されました。

現在では、英国医療技術評価機構(NICE)や米国精神医学会のガイドラインでCBTの実施が推奨されるようになり、わが国の統合失調症治療ガイドラインでもCBTの項目が採用されています。

CBTの適応


幻覚・妄想状態にある患者のすべてが、CBTの対象となりうるわけではありません。CBTの適応の目途として、次の「5つのC」というものがあります。

Calmness(落ち着き)
Communication(対話)
Curiosity(好奇心)
Comprehension(理解)
Cooperation(協力)

特に、患者がcuriosity(好奇心=幻覚・妄想に対するCBTへの興味・関心)を示さない場合には、CBTの施行は禁忌となります。そうした際は、「ではそういう治療もあると頭の片隅においておいて、興味が出てきたらおっしゃってください」と伝えて引き下がるようにします。

5つのCが満たされる場合には、幻覚・妄想症状がみられる精神障害のさまざまな治療段階において実施可能となります。

特に、以下の4つのポイントにおける適応が臨床上重要になります。

1治療導入期の病識

育成幻覚・妄想状態にある患者の多くは病識がなく、治療導入に困難をきたしがちです。患者の病識育成という大きな臨床上のニーズがあり、CBTに期待が寄せられています。 

2薬物療法

抵抗性の症状への対応薬物療法を行っても、幻覚・妄想症状が十分消退しない症例が少なくないといわれています。こうした際に治療者が薬物療法という治療ツールしかもち合わせていないと、それ以上の介入が難しくなってしまいます。また、多剤併用・大量投与の弊に陥る可能性も高くなってしまいます。ちなみに薬物療法抵抗性の陽性症状に対するCBTの治療目標は、ほとんどの場合「症状の消退」ではなく、「症状に関する認知の修正」(認知再構成)や「対処力の増大」(対処戦略増強)です。つまり、患者の二重見当識を育成して症状の影響力を小さくし、生活面での好ましい変化を生み出す試みとなります。

3再発対策

薬物療法によって寛解状態に入っても、各種ストレスや服薬コンプライアンス不良などに伴う再発が起こりやすいといわれています。そのため、CBTは、「再発準備性の低下」「再発時の早めの受診行動の実現」「再発後の早期回復」などに関するニーズがあります。

4スキーマの変化への対応

寛解状態に入ったあとも幻覚・妄想状態の記憶が残り、人間観・世界観(スキーマ)が変化してさまざまな支障をきたすことがあります。例えば、「人間不信による孤立、生活の狭小化」「自分の認知・判断に関する自信を失い、代償的に強迫行為を行う」などがみられます。こうしたスキーマの変化への対応が、CBTに期待されています。

CBTの手順

CBTを行う際にはまずは心理教育を行い、病態・症状・治療に関する情報を身につけてもらうと良いでしょう。心理教育には、幻覚・妄想症状に関するパンフレット「正体不明の声」「日本版バーチャルハルシネーション」を用いる方法があります。CBTの内容としては、思考記録を用いての認知再構成法、患者の対処法のレパートリーを増やす対処戦略増強法、各種の行動実験などが代表的です。

CBTの具体的な内容・進め方の詳細に関しては、成書を参照されたい。

参考文献

デイヴィッド・G・キングドン、ダグラス・ターキングトン()、原田誠一():統合失調症の認知行動療法
原田誠一:精神療法の工夫と楽しみ
原田誠一:統合失調症の治療-理解・援助・予防の新たな視点

注意欠如・多動症(注意欠如・多動障害)の特徴などを解説

注意欠如・多動症の特徴

中核症状として、不注意、多動、衝動性を特徴として、幼少期に発症し持続的な経過を取ることが多い発達障害です。小児期に保護的な環境にあったり、構造化された環境のなかにあると事例化せず、成人になって事例化することがあります。DSMの診断に基づいて診断がなされることが多いです。児童・思春期と成人では診断閾値が異なります。

 注意欠如・多動症の診かた

診断は問診、行動観察、第三者(教師、上司など)からの情報提供によって評価し行われます。問診では、受胎から成育、発育歴、現在に至るまでの症候を丁寧に行う必要があります。新規な場面では、普段の行動をある程度コントロールできるので、過度に診察の場面の症候に診断時依存せず、縦断的な経過観察が重要です。

検査とその所見の読みかた

成人においてはASRSが、スクリーニングテストとして用いられます。DSMに基づいて作成された評価尺度(小児・思春期:ADHD-RSConners3、成人:CAARS)を用いて、症状の重症度、治療による変化に関する情報が得られます。WISC-Ⅲ、KABC-Ⅱ、田中-ビネーなどの知的検査、DN-CASなどの認知機能検査によって、認知プロフィールを理解することにより、患者への治療計画・介入計画を立てることが容易になります。

CBCL-TRFなどの親や教員による子どもの行動全般を評価することも必要です。また、抑うつ尺度、不安尺度を用いて二次障害の把握を行うことも重要です。比較的年齢が高い小児で発症がみられた場合には甲状腺機能、稀ではあるが白質ジストロフィーとの鑑別などのためにMRIなどの画像診断が必要なこともあります。成人期での事例化した症例では、一般的な採血、MRIなどの画像検査を行うことが推奨されています。

鑑別すべき疾患と鑑別のポイント

l  うつ病
l  双極性障害:エピソードが挿話性かどうか、症状が変動するかどうかが重要な鑑別のポイントです。
l  不安症:しばしば鑑別が困難であるが、不安、心配の存在、自律神経症状の有無などによって鑑別を行います。
l  児童虐待:被虐待児はしばしばADHD様の症状を呈することがあります。詳細な成育歴をとることによって明らかになることもあります。
l  てんかんなどの器質的な疾患との鑑別:身体的な鑑別のため、神経学的所見、脳波、画像診断などが必要となってきます。
l  重篤気分調整症:持続した易怒的感情と些細なことでのかんしゃく発作を特徴とし、しばしば鑑別が困難なことがあります。

 予後判定の基準

多動は、学童期に改善することがしばしば認められるが、他の症状は持続することが多い。併存症の有無が予後に影響を与える。治療的介入により寛解に至った期間が数年にわたる症例は、その後の予後がよいと報告されています。

吃音の現状について


小児の吃音はほとんどが幼児期に好発する発達性吃音です。

近年、その原因探索が進み、遺伝要因が7割以上であることや、脳内白質の異常とそのために言語関連の脳領域間の機能接続の不良が明らかになってきています。

これらにより、吃音の原因が親の育て方に問題があるからではないことと、親が吃音に気がつかない振りをしても吃音の改善にはあまり貢献せず、却って児の心理的な孤立を招くので問題があると考えられるようになりましましました。

幼児期に大多数は自然治癒しますが、2年以上かかることも多く、その間は専門家のサポートが必要になります。

また、自然治癒の割合は高いものの、発症率も高いので、自然治癒しない絶対人数も多いです。

そのため、放置せずに児が話しやすいように環境調整をしつつ、定期的に経過を観察し、苦悶や悪化がみられるか、就学前1年程度までに改善がない症例には直接的介入を行います。

近年は有効率が高い介入方法が増えており、できるだけ幼児期に積極的に治療することが勧められます。

学齢中期以降は自然治癒が少なくなり、からかいやいじめが起きやすく、心の傷を残すことがあるので、環境調整や心理面を含めた総合的な対応が必要です。

治療は行動療法を中心として発話の自動化を目指し、吃音についての教育や認知行動療法を導入することで、自尊感情の維持・向上を図るようにします。

吃音は一般に、「どもり」として知られていますが、マスコミでは差別用語として使用禁止となっているため、医学用語であってあまり一般には知られていない吃音として報道され、吃音者・児には情報が到達しにくい。

最近はインターネット検索の普及でこの問題は小さくなりつつありますが、啓発のためには吃音の表記だけでは問題があることに留意が必要です。

吃音には小児期に他の原因となる疾患がなく起きる発達性吃音と、脳損傷によって起きる神経原性吃音と、成人発症の心因性吃音があります。

小児期にみられる吃音のほとんどは発達性であり、成人でも9割以上は発達性吃音であります。

吃音があると、笑われ、からかわれ、いじめられることも多く、年齢とともに症状が進展し、PTSD様の反応を示したり、多人数の前では強い羞恥心で話せなくなるなど、重症化することも多いです。

社交不安障害やうつを続発することも稀ではありません。

知的には正常な者がほとんどですが、吃らないこと、あるいは吃りを隠すことが人生の最優先事項となってしまい、自己実現を困難にすることがあります。

しかし、わが国では吃音の専門家が少なく、特に青年期以降は専門家へのアクセスが不足するため、実質的に吃音の治療が受けられない地域も多いのが現状です。

一方、世界的にはここ20年ほどの間に原因解明や治療対応が進んでおり、ガイドラインや詳細なレビューも発表されています。

次のページでは、症状や検査、診断について解説してきます。

ケースマネジメントの定義、適応、分類、手順について解説します。

ケースマネジメントの定義

ケースマネジメントとは、多様なニーズをもった人々が、自分の能力を発揮し健康に過ごすことを目的として、フォーマル・インフォーマルの支援ネットワークを組織し調整し維持することを、計画的に実施する人やチームの活動である(参考文献より)。日本の精神障害領域では1990年代後半から注目され始めました。
法制度や強調点で名称が変わることがありますが、日本の介護保険や障害福祉領域では「ケアマネジメント」と表記されることが多いです。
英国では「ケアプログラムアプローチ」とよばれることがあります。

ケースマネジメントの適応

単一サービスでは支援が困難な複雑なニーズをもち、慢性の障害がある人がケースマネジメントの対象になります。
疾病や障害が一過性の場合は治療やリハビリテーション、緊急ニーズが強い場合には救急サービスといった、専門的な単一サービスが優先されます。
ケースマネジメントは対人援助の基礎技術であり、さまざまな場面で応用されています。
例えば、障害福祉サービスを利用するときに「計画相談支援」によって「サービス等利用計画」が作られるが、このときに活用される「ケアマネジメントの手法」がそうです。

ケースマネジメントの分類

スタッフの職種、担当者1人あたりの受け持ち人数、直接提供できるサービスの違いなどによって、関係機関への紹介が主な業務の仲介型、直接的な援助関係を強調する臨床型、利用者の人数を限定した集中型、利用者の技能向上と環境調整に注目したリハビリテーション型、利用者や環境の強みに注目するストレングス型、精神科治療を含めた包括的支援を提供するACT(包括型地域生活支援プログラム)型などがあります。

ケースマネジメントの手順

多機関や多職種が協働し、医療を含めた多くのサービスを組み合わせ、目標と期間を明確にして効果的なサービスを提供するために、定式化された手順があります。
1)契約を結ぶ(インテーク、受理):利用者と支援者が出会って合意を形成します。コミュニケーション技術や、ストレングスやリカバリー概念の理解が必要です。
2)情報の整理(アセスメント、査定):生活史、1日の過ごし方、サービス利用状況などの情報を、健康、居住、経済、日常生活活動、対人関係といったニーズ領域ごとに整理し、包括的に理解します。
3)計画作り(プランニング、計画策定):まず支援者が、利用者にとって最適と思われる仮の計画を作ります。次にケア会議を開き、支援者と利用者が一緒に仮計画を検討して、実際の支援計画を作ります。
4)支援の実行(インターベンション、介入):利用者に直接あるいは間接的にかかわって支援を提供します。専門機関が提供するサービスだけでなく、図書館やコンビニといった、誰でも利用しているインフォーマルサービスを積極的に活用します。
5)進行状況をみる(モニタリング、追跡):計画通りに支援が行われているか、進行状況を常に追跡し、現実場面の変化に合わせて、計画に細かな修正を加えます。
6)何が達成されたか振り返る(エバリュエーション、評価):課題が達成されたり、決められた時期に達したら、援助の過程を振り返って、達成された事項や残された課題を明確にします。
7)一連のプロセスの終了(クローズ、終結):ケースマネジメントを終了し、必要に応じ他の支援機関に紹介します。新たな目標のためにマネジメントが必要であれば再契約します。
一連のプロセスを通じて精神科医には、他の職種と協働する能力や、医療場面だけでなく生活場面での医学的アセスメントを行う能力が求められています。

参考文献

1)野中猛、加瀬裕子(監訳):ケースマネジメント入門。中央法規出版、1994

包括型地域生活支援(ACT)についての解説します。

包括型地域生活支援(ACT)とは?

ACT(包括型地域生活支援)とは、統合失調症を主とする重度精神障害者の地域生活を、医療と福祉の多職種からなるチームによる生活現場への訪問を中心として支援する体制です。
ACTチームは、精神科医、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士、就労支援専門家など多彩な顔ぶれからなります。これらのスタッフが定期的に、あるいは必要に応じて、利用者の自宅や職場を訪問して、医学的治療、広範な生活支援、レクリエーション、リハビリテーション、就労支援、家族支援など精神障害者の療養と支援に必要なあらゆる支援活動を行います。
さらに、急性増悪期には24時間365日の危機介入を同じチームが受け持つようにして対応します。

包括型地域生活支援(ACT)の意義

このような支援体制は、特に医学的治療を要する疾患と日常生活上のつまずきをきたす障害が表裏一体となって存在している統合失調症の回復に対して大きな意義をもちます。
つまり、①多職種による多角的支援、②チームによる継続的支援、③アウトリーチによる生活現場での支援、④24時間の危機介入という特性が、「安全保障感」に乏しい統合失調症にとって心強い助けとなり、その基盤の上に、障害を乗り越えて生活を営んでいく「リカバリー」が生まれます。

包括型地域生活支援(ACT)の方法

1つのACTチームは10-15人のスタッフからなり、スタッフ1人につき利用者数はおよそ10名です。
各スタッフは利用者10人程度の主担当者となってケースマネジメントの責任をもちます。
主担当者は、他のスタッフ2-3人と各利用者の支援を行います。
この小さな担当チームを個別援助チームIndividualTreatmentTeam(ITT)といい、ミーティングを密に行い時期に応じた適切な支援を提供します。
このように職種にかかわらず利用者への責任をもつACTでは、スタッフ間で自由に意見をいえる雰囲気と平等性が大切です。
医師を頂点とした堅固なヒエラルキーのある病院医療の思想や雰囲気を、ACTに持ち込まないことがことに大切です。
疾病管理が目的である病院医療の思想は、地域を疾病管理・生活管理の場にしてしまいます。
ACTの現場では、自らが判断して動く自主性が各スタッフに求められます。
自分の職域に固執すると援助の迅速さが損なわれ、スタッフ相互の依存と牽制によってチームの運営は萎縮してしまいます。
ACTでの専門職のあり方は、必要なあらゆることを現場のスタッフ自身の責任で行う「超職種」でなくてはなりません。
24時間365日の支援というと大変なことのようですが、実際には、日中の支援がしっかりすれば夜間休日の緊急事態はほとんどなくなります。
現在の精神科救急の困難さは、地域における日中の支援が乏しいために生じることです。
これからのわが国の包括型地域生活支援(ACT)
残念ながらわが国では、諸外国のようにACTが制度化されることはありませんでした。
地域処遇への熱意に乏しい現体制と施設的な精神科病院に慣れきった精神保健医療従事者に、この現状を変えることは期待できません。
したがって、ACTの実現は個々の支援者の熱意と創意にかかっています。
幸いなことにこの10年で、それぞれ運営に工夫をこらしたACTチームがいくつか誕生しており、これからACTを立ち上げたい人はこれらの先達から学ぶことができます(ACT全国ネットワークHP参照)。
また、本来のACT実践の基盤となるべき地域の資源は、現在のわが国には乏しいままです。
そのような現状のなかで活動するとき、ACTチームは常に外部のさまざまな地域機関と連携して互いに切磋琢磨し、自らを支える地域基盤を地域の人々とともに創り、ACT自身が地域から孤立しないように努めなければなりません。

参考文献

ACT-Kの挑戦-ACTがひらく精神医療・福祉の未来。批評社、2008

障害者就業・生活支援センターの定義、適応、課題と展望について

障害者就業・生活支援センターの定義

障害者就業・生活支援センターは、雇用、保健、福祉、教育などの地域の関係機関との連携のもと、利用者の身近な地域において就業面および生活面における一体的な支援を行うことを目的とする支援機関です。
同じ厚生労働省内でも障害保健福祉部が所掌する総合支援法下の就労移行支援事業、就労継続支援A型事業、同B型事業による支援機関と異なり、職業安定局と障害保健福祉部の連携事業である「障害者就業・生活支援センター事業」により平成14(2002)年より創設されましました。

障害者就業・生活支援センターの適応

障害をもつ人のための就労支援は、就職に向けた準備、求職活動、就労後の職場適応・職場生活支援、といった段階を経るのが一般的です。
一連の支援活動のなかで就業・生活支援センターは「働きたいが、何から始めればいいのかわからないので相談したい」と思っている人に対する職業訓練や職場実習のあっせんといった就労準備のごく初期の支援や、就労後に職場でのさまざまな悩みに関する相談を受けるといった職場定着のための支援を行う機能を担っています。
いずれの支援も生活面での支援と一体的に行われることが同センターの特徴です。
こうした支援ニーズは多くの人に共通のものであり、障害をもちながら就労を希望する人はみな同センターの利用が適応であると考えられます。

障害者就業・生活支援センターの課題と今後の展望

平成25(2013)年の障害者雇用促進法の改正により精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加える措置が追加され、平成30(2018)年より雇用が義務化されるにあたり、精神障害者への就労支援はますます重要となっています。
その一方、課題も明らかになりつつあります。
障害者就業・生活支援センターは身体障害、知的障害、精神障害のいずれの障害をもつ人も対象としており、精神障害をもつ人に特化した機関ではありません。
障害者就業・生活支援センターでは、十分なアセスメントと繰り返し実施されるトレーニングのあとにさらに実習などを経て就労する、という従来知的障害者に対して行ってきた支援方法を精神障害者の支援にも援用することが多いです。
このような「Train-Placeモデル(訓練のあとに実際の就労現場に入る)」による就労支援は、知的障害の障害特性には非常にマッチしています。
しかし、精神障害では同じ人が複雑な作業を短期間で身につけることもあれば、決まった時間に決まった場所に行くこともままならないこともある、といったように病状が不安定になることがしばしばあり、よいときと悪いときのパフォーマンスの落差も大きいです。
この障害特性ゆえに「Train-Placeモデル」による就労支援では、最初のアセスメントやトレーニングの段階でトレーニング内容への不満や就職への焦りから調子を崩してしまい、なかなか実際の就労までたどり着かないといったケースもみられます。
近年、精神障害の特性を踏まえた支援方法として、利用者の好みと選択をできるだけ尊重する、迅速に仕事探しを始める、トレーニングは仕事探しと並行して行う、ないしは実際の就労現場で実施する(つまり「Place-Trainモデル」に基づく)といった原則をもつIndividualPlacementandSupport(IPS)とよばれる支援方法も脚光を浴びています。
今後はこうした精神障害の特性に合わせた支援が、全国の障害者就業・生活支援センターや総合福祉法下の就労支援関連の事業所で提供されることが望まれます。