外国人アクセント症候群 foreign accent syndrome (FAS)

外国人アクセント症候群 foreign accent syndrome (FAS)

外国人アクセント症候群とは、大脳半球損傷後に母国語を話しているにもかかわらず、外国人が話しているように聞こえる特異な言語症状のことをいいます。
外国人アクセント症候群は、これまでの報告例の多くが軽度あるいは残存する失語症状を合併しており、そのタイプはブローカ失語や超皮質性運動失語などの非流暢性失語です。
この観点からみた場合には、やや非流暢でプロソディーの障害があり、軽い構音の障害や軽度の失文法を伴う場合に、外国人が話しているように聞こることがあります。
発語失行例でも外国人アクセントを生じることが少なくありませんが、この場合は構音以外の側面を重視し、外国人アクセントの原因をおもにプロソデイーの障害に求めています。
これに対して、失語症がないか軽微であり、構音が正確であるものを外国人アクセント症候群とするという考え方があり、発症まもなくからこのような純粋な症状を呈した例があります。
比較的純粋な例においても、外国人が喋っているように聞こえる要因は一様ではありません。

外国人アクセント症候群の条件

外国人アクセントに聞こえる発話の条件を、Blumsteinらの考察を整理すると次の3点にまとめられます。
  1. 語彙や文法は正常に近く、構音は容易に了解可能。軽度の失文法があって、たどたどしい印象を与えても良い。
  2. 構音の特徴はその言語としては異常であっても、他の言語では許容できる範囲。
  3. イントネーションは不自然であっても、決して平坦とならない。日本語では、強勢アクセントの付加も関与する。
このような発話の障害が外国人様に聞こえるかどうかは、聞き手の判断に依存しています。
したがって、主観的印象によつてどの外国語を話しているように聞こえるかの評価は一定しないことが多いのが現状です。

外国人アクセント症候群の病巣

病巣は、発語失行に伴う例は中心前回下部で、失語症例または失語症からの回復例では、Brodmannの6野、Broca領域、尾状核頭部から被殻に至る領域等があります。
純粋例でも、側脳室前角付近の白質、レンズ核、左中心前回の中1/5の高さの後方外側面のように、責任病巣と言える一致した部位はみられていません。

純粋語唖(純粋運動失語、音声学的解体症候群、純粋発語失行)

純粋語唖(純粋運動失語、音声学的解体症候群、純粋発語失行)

純粋語唖は、一貫性のない構音の誤りを示しますが、書字障害はないか軽微で、しかも聴理解、読解が正常に保たれた病態をさします。
純粋語唖、純粋運動失語、音声学的解体症候群、純粋発語失行など様々な呼び名が歴史的に用いられ、今日、本邦でも統一をみていないのが原状です。
発話は、発症当初は無言であるか、わずかの音に限られていますが、次第に発音できる音が増え発語失行と呼ばれる特徴が明らかとなります。
wertzらは、
  1. 努力性で、試行錯誤を示す構音運動の探索と自己修正の試み
  2. プロソデイー障害
  3. 同じ発話を繰り返した時、構音が一定しないこと
  4. 発話の開始困難
を発語失行の特徴として上げている。
なお、純粋語唖では、伝導失語の音韻性錯語と異なり試行錯誤により目標の音に近づく現象は少ないと言われています。
Sugishitaらは、構音の誤りにおける二重の非一貫性、すなわち、
  1. ある音素を構音しようとするとある時は誤り、ある時は正しく構音されるということ
  2. 誤る場合にはその誤り方が一定ではなくいろいろな誤り方をすること
を重要視している。
純粋語唖は、このような発話の特徴は、自発話、呼称、復唱などすべての表出面でみられます。
多くの非流暢性失語と同様に、 自動的発話(たとえば、1、 2、 3と数える)や反応性発話(「はい」「わかりません」など)が、他の発話場面よりも明瞭な構音で行われる場合もありますが、全例にみられる現象ではないと言われています。
復唱については、自発話より困難とする場合と復唱の方が良いとする場合がありますが、純粋例では明らかな差がない可能性があります。
発話の障害はゆっくりと改善しますが、病巣が特に小さい場合を除けば障害を残すことが多いと言われています。
純粋語唖では理解障害がなく、また書字が保たれており、何と言おうとしているかがわかることから、発話に関する様々な検討が行われてきました。
聴覚的印象による分析から指摘されているなかで比較的同意が得られているものとしては、
  1. 子音の誤りが母音よりも起こりやすい
  2. 子音の置換が、脱落、歪み、付加より多い
  3. 有声子音の無声子音への置換が多い
  4. 語頭の音の誤りが、語中や語尾の音よりも多い
などがあげられます。
発語失行では構音障害と異なり、構音にかかわる筋群の麻痺、協調運動障害、 トーヌスの障害はないか、あってもそれによつて構音の異常を説明できない程度である。
一方、口・顔面失行の合併は、はっきりしている例もありますが、合併しない例や、発症初期のみで消失するが多いようです。しかし、構音器官の非言語性運動の連続動作を行わせると障害がみられると言います。
顔面の下部を含む軽い右不全片麻痺を伴うことが多ですが、上下肢の麻痺は一過性である場合が少なくないと言われています。
書字は、まったく正常とされる場合と、発話と比べれば格段に良く筆談で意思を伝えられるが、多少の障害がある場合の両方があります。
書字障害は、 ミススペリング、文字の脱落、仮名の書字障害、助詞や送り仮名の誤りのほか、失文法や失語性の誤りと記載されているものもあります。
このような書字障害については、中心前回下部の病巣が発語失行だけでなく書字障害も起こすとする考え方がある一方、中前頭回後部の機能障害による書字障害の関与を示唆する報告もあるようです。

語義失語の病巣

語義失語の病巣

定型的な語義失語を生じるのは、左側に強い側頭葉の葉性萎縮例です。
その病理学的診断は確定していないものが多いですが、側頭葉を主に侵すタイプのPick病の可能性があります。
語義失語例では、人格の解体がみられないことからPick病とされない場合がありますが、もともとの性格に比べると明らかな人格変化を有する症例が多いと言われています。
しかし、長年にわたつて明らかな痴呆を呈さず、失語症を主症状とする緩徐進行性失語と診断される症例の病理学的診断は一定していません。
ヘルペス脳炎は側頭葉下部を内側から外側まで損傷し、左側の障害が強い場合に語義失語に近い症状を呈するといわれています。
ヘルペス脳炎では、語の意味の障害が軽く再認がある程度保たれるほか、読みと書字の障害が目立たないといいます。
脳血管障害例でも、ヘルペス脳炎例と同様に部分的な症状を呈する場合がありますが、語義失語を生じるには、少なくとも左側頭葉の中間部が損傷されることが必要と考えられています。
側頭葉後下部ないしは後部は失書や失読を生じることが、本邦では報告されており、この部位が含まれな い方が語義失語の病像が明確になるといえる。
側頭葉前部については、ほぼ常に障害が及んでおり、側頭葉切除術で明らかな呼称障害を起こさないことが知られているとは言え無視はできません。
しかし、側頭葉の前~中間部の損傷が語義失語を起こすのに十分とは言えず、右側にも障害がある場合に定型的症状が起こる可能性があります。
葉性萎縮では語の意味を支える系あるいはネットワークが選択的に侵される可能性を指摘した報告がありますが、進行性の病変か否かも脳機能の修復や再構築と関連して重要な要素と思われます。

語義失語の症状はこちら↓

語義失語(ごぎしつご)の症状とは?言語聴覚士が解説

語義失語(ごぎしつご)の症状

語義失語は、語の意味(語義)の理解障害を呈し、喚語困難(言いたい言葉がでてこない症状)と呼称障害(言おうとする物の名前がでてこない症状)が明らかで、しかも目標の語を言われても、それとわからない再認の障害を伴う失語症です。
障害の中心となる語は、固有名詞と具体的な事物を示す名詞(動物や植物の名等)であり、ついで動詞、形容詞、副詞などの順になるといわれています。
例としては、「調子はいかがですか」と聞くと、「調子?調子ってなんですか、調子の意味がわかりません」のような反応があります。
文法的理解は基本的に保たれていて、トークンテスト(失語症に対する理解力の検査)で良好な成績を示すことに反映されます。
構音は良好で流暢な話し方になりますがが、文意を担う語彙が貧困化し、遠回しな(迂遠)表現を示すほか、語性錯語(例:時計を鉛筆と言い誤る)を伴います。
語義失語は、復唱は保たれ、反響言語(オウム返し)もみられます。
そのため、語義失語は超皮質性感覚失語の一型といえます。
ただし、理解障害が語の意味主体である点が、文レベルの障害を伴う一般的なタイプと異なるのが特徴です。
症状のみから言えば、語義失語は、音声学的および視覚的語形態と意味が結びつかない二方向性の障害で田辺らは語の意味の選択的障害と表現しています。
語義失語は本邦に特有の失語型であるとする考え方がありますが、理由としては読みと書字の特徴を診断基準に入れていることに起因すると思われます。

通常の超皮質性感覚失語では理解を伴わない音読が可能とされるのに対して、語義失語では漢字の読みにおいて、「相手→ソウシュ」、「この布を→このフを」のように語の意味に対応しない音訓の誤読を呈する点が特徴があります。
一方、漢字の書字では漢字をその音によつて、意味を無視しつつ表音文字のように用いる類音的錯書(いわゆる当て字)がみられます。
このほかの語義失語の症状として、ことわざや比喩的表現の理解障害があり、「瓜二つ」について「瓜が二つあるっていうこと」と答えたりします。
また、文の補完現象がみられず、呼称で語頭音ヒントが有効でないこと、語に対する既知感が喪失していることも特徴です。

語義失語の病巣についてはこちら↓

混合型超皮質性失語の症状

混合型超皮質性失語の症状

混合型超皮質性失語は、復唱以外のすべての言語機能が重度に障害された失語症です。復唱は他の側面と比較して明らかに良好ですが、正常ではないことも多く、その基準は曖味で報告によってかなりの幅を持っているのが現状です。
単語レベルの復唱の報告例もありますが、数語ないしは短文の復唱ができるものを混合型超皮質性失語とするべ きであり、WABの基準では5以上の得点としています。
復唱時の構音は基本的には明瞭であすが、多少の障害は容認されます。
無意味音節や未知の外国語単語の復唱も短いものは可能なことが多いと言われています。
文法的誤りを含む文の復唱については、訂正を行う場合 とそのまま復唱する場合の両者があります。
開始の手掛かりを与えた場合の歌唱能力や連続的発話(数唱など)および文の補完現象はじばしば認められます。
これらに比べて頻度は低いですが、残存しやすい能力として理解を伴わない音読があります。
復唱とその際の良好な構音と一部の例における音読を除けば、他の言語側面は全失語と同様の障害があると考えて良いと言われています。
自発話はほとんど無いかわずかな常同言語に限られ、話 し言葉の理解は単語レベルでも明らかな障害があります。
呼称はまれな例を除いて不可能です。
書字は重度に障害されていますが、写字ができる例の報告もあります。

超皮質性感覚失語の症状

超皮質性感覚失語の症状

流暢な発話、理解障害、良好な復唱が特徴の失語症タイプです。
自発話は流暢ですが、喚語困難のために中断することがあるほか、迂遠な言い回しもみらます。錯語は、一般的に語性錯語が主体と言われていますが、音韻性錯語が多くみられる例も報告されています。内容は空疎であったり、状況にそぐわない場合が多く、正常に近い発話を示すことは少ないと言われています。
聴理解は基本的に重度であり、単語レベルでも障害があるとすべき考え方がある一方、ウェルニッケ失語よりは軽くてよいとする場合もあるようです。英語版WABの基準では、比較的軽い例も含めています。
復唱は良好ないしは完璧で、無意味音節や外国語、意味の通らない文章でも復唱できることが多く、反響言語もよくきかれます。
復唱については、音韻の認知から直接音韻の再現に至る直接的経路と語彙性経路の両者によって行われると考え られており、Coslettらによれば、古典的超皮質性感覚失語では両方の経路が保たれているが、直接的経路のみで復唱を行う亜型もあるといっています。
後者と考えられた症例では,音韻性錯語が比較的多く、復唱で統語の誤りの修正は行われなかった。
呼称は、特殊な例を除いて重度に障害されており、検者から正答を与えられてもそれとわからないことがあります。
読みは、音読は可能ですが、読んだ単語や文章の理解は話し言葉の理解と同程度に重く障害されていると言われています。
書字は、ウェルニッケ失語患者と同様に、個々の文字は書けても内容のある文章を書けませんが、単語ない しは短い文章の書き取りができる場合があります。