健忘失語(失名辞失語)の症状と病巣について





健忘失語(失名辞失語)の症状

喚語困難、呼称障害があり迂遠な言い回しを呈しますがが、流暢かつ構音の保たれた発話および良好な理解と復唱を特徴とする失語症です。
喚語困難とは、言いたい語が言えない症状であり、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、全失語等では名詞の他に動詞、形容詞なども障害されますが健忘失語では主に名詞が障害されるのが特徴です。そのため失名詞失語と呼ばれることもあります。
自発話は適切な名詞が出てこないため,「あの、 あれなんていったかな」のように指示代名詞が多 くなり、また鉛筆が言えず「あの書くやつ」のように名称のかわりに用途を述べるといった迂遠な言い回しが多 くなります。聞き手が「鉛筆ですか」と言えば即座に肯定します。
基本的に流暢な発話ですが、喚語困難による体止が時々出現します。
錯語は少ないですが、時に語性錯語が見られます。
呼称検査での障害 (呼称障害)がみられ、迂遠な言い回 しが出現します。
また、語想起の検査として、動物の名前などを1分間にできるだけたくさん言う課題(語列挙課題)で、障害が明らかとなることもあります。
語列挙8~10語位が障害の有無の境界と考えられています。
理解面は、指示された物品を選ぶことは問題なくでき、文レベルでも理解障害はほとんどありません。
喚語困難、呼称障害はほとんどすべての失語症で見られる症状であり、回復とともに健忘失語に分類されなおされる例も少なくありません。
しかし、ある程度もとの失語型の特徴を残していることが多いと言われています。

健忘失語の病巣と亜型分類の可能性

健忘失語の病巣は様々であり、極論を言えば、脳損傷であればどこでも喚語困難や呼称障害がおこっても不思議ではありません。 したがって、慢性期に健忘失語に移行した例の病巣は症状と同様に初期の病巣を反映しています。
比較的、純粋に健忘失語の病像を呈する例の病巣は前頭葉、側頭―頭頂葉、に大別されます。
前頭葉の病巣では、Broca領域、前頭葉皮質下などの皮質または皮質下の小病巣があげられます。
側頭―頭頂葉の病巣では、角回またはやや下方の側頭―後頭領域、側頭一頭頂領域、ウェルニッケ失語例より小さい側頭葉病巣、側頭葉後下部など様々な部位が指摘されています。
深部病巣でも、被殻外側部一内包前脚―尾状核頭部付近の病巣で軽度の喚語困難が起こり、内包、線条 体から傍側脳室領域を損傷する被殻出血で健忘失語が生じることがあります。
病巣部位による呼称障害の特徴をとらえようという試みも行われていますが、報告によって結果が異なっています。