成人の自閉スペクトラム症(アスペルガー障害を含む)について

自閉スペクトラム症とは?

自閉スペクトラム症とは、幼少期より認められる多様な文脈における対人コミュニケーションと対人相互作用の持続的障害と、行動、関心、活動の限局的、反復的パターンにより特徴づけられる神経発達症です。

以前は、上記の特徴が最も顕著な自閉性障害や、2歳までに始語、3歳までに2語文が認められ、コミュニケーションの障害が顕著なアスペルガー障害、自閉性障害やアスペルガー障害の診断基準を満たさない特定不能の広汎性発達障害に分類されていました。

しかし、これらは重症度の違いに過ぎず、自閉症(概ね自閉性障害に相当)を中心とした連続体(スペクトラム)とみなす考え方(自閉症スペクトラム)が採用され、今日では、これらを分類せず自閉スペクトラム症と呼びます。

自閉スペクトラム症は、遺伝的要因と環境要因の相互作用により、扁桃体をはじめとする広範な脳部位の機能障害があり、対人相互作用の障害をきたすと考えられていますが、自閉スペクトラム症は異質性をもつ障害群であり、その病因・病態の解明は研究途上にあります。

自閉スペクトラム症の重症度は軽症から重症まで多様であり、知的能力障害、注意欠如・多動症、精神疾患の併存の有無によっても状態像は多様です。

自閉スペクトラム症が軽度で、知的能力障害のない患者では、成人になってから不適応あるいは併存精神疾患を主訴として受診し、初めて診断に至ることが少なくありません。

自閉スペクトラム症の評価について

親への構造化された面接により自閉スペクトラム症の診断の可能性を明らかにする自閉症スペクトラムの診断評価のための面接ツール(AutismDiagnosticInterviewRevisedADI-R)、検査者と本人とのやりとりにおける対人行動の観察により自閉スペクトラム症の診断の可能性を明らかにする自閉症スペクトラム評価のための半構造化観察検査(AutismDiagnosticObservationScheduleADOS)が開発されています。

成人になってから初めて行う場合、親が高齢であったり、時間が経って記憶が希薄である、あるいは、親が死去している場合もあり、生育歴の聴取が難しくなります。

その場合には、通知表や日記などの客観情報と本人の回顧、最近の不適応状況の背景にある認知行動特性などから評価を試みると良いでしょう。

想起バイアス、特に精神疾患を併存している場合には、精神疾患に伴う認知の偏りの影響を受けるため、慎重な判断が求められます。

自閉スペクトラム症の診断後の支援について

不適応状況との関連を明確化し、患者本人と家族に心理教育を行うとともに、必要な環境調整を行います。

診断書が必要な場合には医師に作成していただくことができますが、それだけでは不十分であり、大学での学生相談部門や障害支援部門、就労先では上司や産業医との調整を行うことも必要です。

併存障害の症状が環境調整によって軽減するかどうかを見極めたうえで、必要な例には薬物療法を医師に検討してももらいます。

不適応状況に対する2次的な反応として、社交不安や被害妄想を呈している場合には認知行動療法的アプローチも必要になります。

発達障害者支援法に基づいて設置された発達障害者支援センターは、成人期における生活自立を目指した支援を行っています。そのほかにも、保健所、地域生活支援センターなども活用できます。

就労支援は、障害者職業センター(就労能力評価、ジョブコーチの派遣)、ハローワークの専門相談員(障害者就労の支援)、作業所や就労移行支援事業所なども活用できます。

自閉スペクトラム症の特性とそれに伴う困難は、小児期より持続しているものであり、患者本人がこれまでの苦労や周囲との軋轢、現在の不適応状況をどのように理解するかが大切です。

心理的背景に配慮をしながら、発達障害特性の存在を伝え、有効な支援へとつなげると良いでしょう。



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