末梢性顔面神経麻痺の病的共同運動の治療

末梢性顔面神経麻痺の病的共同運動の治療

病的共同運動は、急性期の不適切な治療によっても増悪するため、その予防のためには麻痺発症後急性期の治療に注意が必要です。

病的共同運動の予防は、まず顔面表情筋の強力で粗大な収縮をさけることである。

麻痺した顔面表情筋を動かそうと練習(百面相運動など)することは避け、加えて顔面表情筋のこわばりに対しては筋線維の方向に沿った筋伸張マッサージを勧めます。

低周波神経筋電気刺激治療は神経再生時の軸索迷入を促進し、かつ成立した病的共同運動の筋力も増強してしまうため、有害とされており、決して行わないようにします。

治療には①A型ボツリヌス毒素の皮下注射(ボツリヌス毒素療法)、②アルコールによる神経ブロック、③選択的神経切断術、④選択的筋切除術などがあります。

①ボツリヌス毒素は、神経筋接合部での伝達をブロックすることにより運動麻痺をおこす作用があり、当初は片側顔面痙攣や眼瞼痙攣に使われ始め、現在は痙性斜頸や上下肢痙縮などにも使用されています。

ボツリヌス毒素療法は、この作用を応用して不随意運動を抑えるために、病的共同運動をおこしている筋そのものにボツリヌス毒素を注入する治療であり、病的共同運動に対しても多く行われています。

しかし、この治療は対症療法であり、時間の経過とともにボツリヌス毒素が吸収されるために効果の持続は3~4カ月で、効果消失後は症状が再発するために反復投与が必要になります。

近年、ボツリヌス毒素投与後にミラーバイオフィードバック療法を行い、病的共同運動そのものを減弱させる治療も報告されています。

②神経ブロックは、病的共同運動を来している筋を支配する神経に、アルコールを注入して神経障害をおこし、筋の運動を抑える治療です。

注入の目標が神経のため熟練を要することもあり、ボツリヌス毒素療法ほどは一般的でありません。

③選択的神経切断術は、病的共同運動を来す筋の支配神経を電気刺激などで同定したうえで、できるだけ末梢で切除します。

ある程度の効果は期待できますが、顔面神経の末梢は分枝間での吻合が多いため、一般的に再発しやすいです。

④選択的筋切除術は、眼輪筋を温存しつつ、眼輪筋につながる大・小頰骨筋、上唇挙筋、前頭筋、皺眉筋を部分的に切除し、眼輪筋から切離する方法です。

この方法は、重症例にも有効であり、長期的成績も比較的安定していますが、顔面に切開を入れる必要があります。