子供が言葉を覚えるために大切なことは?指さしや共同注視、社会的参照などを言語聴覚士が説明

子どもは1歳を迎える頃から言葉を発し始め、2歳近くになるとまさに「爆発的に」言葉を覚え、急速に語彙数を増やしていく。
中学、高校時代に英単語を覚えるのに苦労をしていた皆さんも多いと思うが、子どもはなぜ生まれて数年の間に数多くの言葉を覚えることができるのだろうか。

言葉を覚えるにはタイミングがある


言葉を覚えることに関してまず大事なことは、言葉の獲得をはじめ、発達の多くの側面には、その特性を獲得するための限られた期間(臨界期)があるということだ。
その典型的な事例として、幼少期に人間の環境で育たなかった野生児として有名な「狼に育てられた少女」の事例をみてみよう。
この少女は狼の群れから保護されたときには推定8歳位だったのだが、その時点では言葉を話すことはできなかった。
そして、その後亡くなるまでの約9年間をシング牧師の熱心な教育の下、人間の社会で過ごすのだが、その間に不明瞭な言葉を50語ほどしか獲得することができなかった。
この事例からもわかるように、出生から乳幼児期にかけての生育環境が適切であることが、子どもが言葉を獲得する能力を発達させるのに重要な意味を持っているといえる。
もちろん、英語など母国語以外の第二外国語の習得の例などを考えてみれば、乳幼児期を過ぎても言葉を覚えるのは不可能ではないことはわかるが、それらは母国語という下敷きがあってこそ成立するものだし、なによりも単語の暗記や文法の学習など、乳幼児期に母国語を獲得する際には必要としない、非常に多くの労力を要するのである。

狼に育てられた少女について

インドの山中で狼の群れから2人の少女(アマラとカマラ、推定8歳と1歳半程)が、シング牧師によって救出された。発見された当初は狼の習性を身につけており、言葉を話すこともできなかった。
この少女を人間の社会に適応させようとした記録が残されている。この事例に関してはその記述や解釈にさまざまな議論があるが、少なくともこの例から、人間の発達における初期環境の重要性と、発達における臨界期の問題について考えることができよう。

親子のコミュニケーションによって言葉を覚える


指差しと共同注視

言葉を話し始める前の1歳前後から、子どもは自分の身の回りのものに対してしきりに指差しをするようになる。また多くの場合、指差しと同時に言葉に似た発声(哺語)をする。
このとき、一緒にいる親は、子どもが指差しをしている対象に視線を向けることになる。これは「共同注視」といい、親子の間で一つの共通した対象に注意を向けるというコミュニケーションが成立したことを示している。
この指差しについて、親は子どもが対象を指示していて、またそれに伴う発声は子どもがそのものの名前を呼んでいる(または呼ぼうとしている)、または親に「これは何」と質問している、と認識することが多いようである。
その結果、親は子どもに対して、「これは○○だよ」とその名前を説明する。この繰り返しが、子どもが言葉を獲得するための大切な活動なのだ。
じつは、子どもの指差しは、親に対象を指示して「名前を教えてはしい」という信号を送っているわけではないし、この時期の発声は意味のないものであることが多い。
つまり親は子どもが「知りたがっている」と勘違いして対象の名前を子どもに教えるのだが、結果として子どもが物の名前を覚えることに非常に役立っているのである。

指差しについて

乳児期の指差しの意味について、子どもの近くに玩具などがあった場合、よくわからないものや、少し不安なものに対して指差しを行うことが多いといわれる。
反対に興味があって安心できるものに対しては手を伸ばし、近づこうとすることが多い。

子どもは親の表情を読み取る

子どもが注目している対象に対して、親がその対象の名前を呼ぶと、子どもはその名前をはやく覚えることができる。しかしながら、親はいつも子どもが注目しているものの名前を呼ぶとは限らない。
たとえば、子どもがコップに注目しているときに、親がたまたま空を飛んでいる飛行機を見て、「飛行機よ」と言った場合、子どもはコップを「飛行機」と覚えてしまうかというと、そのようなことはあまりない。
子どもは親の言葉と自分が注意を向けている対象とを機械的に結びつけるのではなく、親の視線など言語以外の情報にも注目していて、親と自分が同じものに注目している場合にのみ、親の言葉をその対象の名前として認識するのである。
つまり、言葉の獲得には言葉によるコミュニケーションが重要な役割を果たすのはいうまでもないが、それと同じくらい非言語的な要因も重要であるといえる。
なお、言葉の問題に限らず、子どもはさまざまな場面で親の言葉や表情などを確認する傾向にあり、この行動は社会的参照と呼ばれている。

社会的参照について

子どもは初めて見る玩具などに出会ったとき、その玩具が安全であるかどうかを確認するために、親の表情を利用する。これを社会的参照と呼ぶ。
子どもは発達の初期からこのような非言語的な情報の読み取りに敏感である。たとえば、生後3か月の乳児は、母親が笑顔から無表情に変わると、とたんに不安定になり泣き出す。
また、生後6か月の乳児は、母親の指差しに対し、指そのものではなく、指の指し示す方向や対象の方に注目する。

効率よく覚えることができる


子どもが短期間でたくさんの新しい言葉を覚えるもうひとつの要因として、認知的制約と呼ばれる、ある範囲だけに注目しその他の可能性を強制的に除く能力の働きがあげられる。
認知的制約にはいくつかの種類があるが、その中のひとつの「事物全体制約」について説明する。たとえば、初めて象を見た子どもに、親が「これはゾウというのよ」と教えたとしよう。
そのとき子どもは、象の全体を「ゾウ」として認識する。つまり、「ゾウ」という言葉の示す対象が、象の色でも、泣き声でも、鼻でも耳でもなく、象の全体であるということを理解するのである。
このように、認知的制約によって言葉とそれを示す対象との関係を理解するのがより容易になり、言葉の獲得が効率的に行えるのである。この認知的制約をはじめとして、言葉の獲得の背景にはいくつもの高度な知的活動が存在している。
また逆に、言葉の獲得を通して認知的発達が促されるという側面もある。