中枢神経疾患による異常歩行

中枢神経疾患による異常歩行


①弛緩性歩行


患側遊脚期では骨盤を引き上げ、体幹を健側に傾けて麻痺側下肢を持ち上げる。患側下肢は他動的に半円を描くように振り出す外転・分回し歩行を認め、足関節が下垂して鶏状歩行となり足尖接地が生じる。また立脚中期では膝折れを防ぐため足関節が過伸展傾向となり、長時間経過すると反張膝となる。患側上肢は下垂し、上肢の重さが原因で肩関節が
亜脱臼となり、身体運動によって振り回される。

②痙性歩行


痙性片麻痺患者の立位姿勢は、患側上肢が肩関節屈曲・内転、肘関節屈曲、前腕回内、手関節屈曲、下肢が股・膝関節伸展、足関節底屈となる(ウェルニッケ・マン肢位)。歩行では、下腿三頭筋の痙性や足関節背屈筋の麻痺が強い場合、立脚初期で足尖から接地する尖足歩行、足尖外側から接地する内反尖足が多い。患側立脚中期では、下腿三頭筋が伸長されるため筋緊張が亢進し、背屈が困難となって下腿の前方移動が起きず、股・膝関節屈曲の減さらに健側下肢も十分に振り出せないため歩幅が短縮する。また患側下肢で十分に体重を支持できないため、患側立脚期の短縮と健側立脚期の延長が起こり、左右非対称となる。立脚期を通して膝関節では、膝折れを防止するため、随意的な膝伸展力が弱い場合や、下腿三頭筋の筋緊張が高い場合に骨盤を後方に引いて体幹を前屈させて膝を過伸展に保持する。歩行中に膝の過伸展を続けると反張膝となりやすい。反張膝では膝がロックした状態となり、足趾離地時にロックがはずれなくなり、棒状に下肢を振り出し、長時間の経過で膝関節の動揺や疼痛の原因となる。患側上肢の振りは歩行中ほとんど認められない。

③パーキンソン病歩行


歩行中、特徴的な前屈姿勢となり、歩幅は短くかつ変化する。足部は足底を床面に擦るようなすり足歩行で踵接地し、足趾離地で反動がいため下肢の振り出しがない小刻み歩行となる。歩行開始では、静止立位から第 1 歩が踏み出しにくい状態や、下肢の屈筋と伸筋が同時収縮して両下肢が床ように下肢が振り出せなくなるすくみ足(freezing of gait)が生じる。前屈姿勢で歩き出すと、徐々に歩行速度が増加する加速歩行の出現、静止するように命じても止まることができない前方突進現象、さらに進路変更が困難となる障害も起きる。上肢は肩をすぼめた内転・内旋位、肘軽度屈曲位を呈し、腕の振りが乏しい。パーキンソン病歩行は、同年齢の健常人と比較して歩行周期期間の延長、歩行速度と重複歩距が認められる。小刻み歩行現象は、筋固縮や動作緩慢などが関与し、ROM の減や運動速度の低下に関係があると考えられている。すくみ足現象はリズム形成障害が関与していることが推測され、聴覚的リズム、視覚的リズムを与えることで矯正することができる。
→歩行訓練で注意することは、一度に多くの内容を指導しないことである。

④失調歩行


a)脊髄性失調症


代表的な疾患は梅毒による脊髄癆であり、脊髄知覚伝導路の障害によって深部感覚障害が起こる。そのため下肢全体の関節角度や位置および運動状態を視覚によって把握する。
歩行では遊脚期に下肢を高く挙上して toe clearance を確保しなければならず、立脚初の接地時には踵・足趾の足底を床に打ち付ける(踵打ち歩行)。筋力低下や筋緊張低下により随意的な膝関節の固定が十分にできない場合、立脚期で反張膝が生じる。

b)小脳性失調症


原因疾患は、血管障害、腫瘍、外傷、変性などである。歩行は歩隔を広げ、歩幅は長短バラバラで規則性がなくなり、体幹動揺が大きく、前後左右に倒れそうになる動揺性歩行となる。歩行開始の第1相はよろめきが大きく、遊脚期が短いなど不安定である。小脳正中部障害では、体幹全体が大きく動揺する酩酊歩行となり、小脳半球障害ではよろめきと
運動の円滑性が欠如する。

c)脊髄小脳変性症


種々の病型があり、運動失調を主症状とする原因不明の変性疾患の総称である。運動失調は上下肢・体幹に認め、歩行では遊脚期に足部の高い挙上と短縮、体幹では前後左右への動揺が著しく、腕の振りがすくない。
Frenkel 体操、PNF、下肢の弾力緊縛帯、装具療法。