人工指関節置換術と術後のリハビリテーション

人工指関節置換術とは

①人工指関節置換術の適応

各関節に対する人工関節置換術は、骨や軟骨、関節周囲の軟部組織が破壊されているために関節を温存したまま治療を進めても痛みが残ってしまったり、日常生活の中で必要とされる動作(ADL)が困難となってしまったりする症例に適応されます。
破壊された組織と人工関節を置き換えることで除痛やADLの向上が図られるのです。中でも特に人工関節置換術の対象となることが多い関節は、動作中体重を支える役割を果たす膝関節や股関節です。
しかし、症例数はこの2つの関節より大幅に減ってはしまいますが、末端に近い関節である指関節でも人工関節置換術が適応となるケースがあります。特に手術の対象となることの多い疾患は、関節リウマチです。
関節リウマチでは骨や軟骨が破壊されてしまうことで関節に痛みが生じたり、変形により正常の動作が困難になってしまったりします。この症状は特に小さな関節である指関節に多くみられるため、強い痛みや関節の変形によって巧緻動作が困難となり、人工指関節置換術が適応となるケースが多くなるというわけです。
しかし、すべての関節リウマチの方に人工指関節置換術が行われるわけではありません。多くの方には強力な治療薬を使った薬物療法が適応されます。そのような中でも手術が選択される症例があるのは、手術に対してある目標の達成が期待されているためです。
人工指関節置換術を行う際に掲げられる目標とは、関節の見た目と機能を正常関節により近くなるように治すというものです。冒頭で説明したとおり、人工関節置換術では破壊された組織と人工関節が置き換えられます。
このため関節を温存したときとは異なり、見た目は正常関節に近くなること、機能面は痛み無くADLを行うということが可能となります。指関節の場合は特に人目に付くことが多い関節ですし、ADLやIADLにおいて巧緻動作を行うという大きな役割を果たす関節です。このため、これらの目標を達成する意義は大きくなると言えます。

②人工指関節置換術の実施

人工指関節置換術を行う際には、解剖学的知識や人工関節自体に対する深い知識が要求されます。例えば、関節リウマチで生じるのは骨や軟骨の破壊だけではありません。関節周囲の軟部組織が破壊されることによる影響も把握し、考慮した上で手術を行う必要があります。しかし、これらの知識が必要なのは医師だけではありません。
リハビリテーションを行う上では理学療法士や作業療法士をはじめとしたコメディカルスタッフも、これらの知識を医師などと共有しておくことが重要となるのです。
関節リウマチにおいて特に障害されることが多い関節は中手指節関節ですが、この関節で典型的な変形は尺側変位と掌側脱臼です。このような変形に至ると、尺側にある組織は短縮し、橈側にある組織は弛緩します。また脱臼により関節掌側にある関節包が瘢痕化したり、癒着したりするケースもあります。
以上のように軟部組織同士にアンバランスが生じていた場合、弛緩した組織は縫合により短縮させる、短縮した組織は切離する、瘢痕化や癒着した組織は剥離するなどの対処が行われます。
また、関節の修復のために骨切り術が施行されているケースもあります。このように、指関節の障害に対する対処は症例によって幅広くあります。このため、リハビリテーションを行う際には目標やアプローチの方法を決定するためにも、手術中どの組織がどのように侵襲されたのかを事前に確認しておくことが重要となるのです。
また、どのような人工関節が使用されたのかを把握しておくことも、リハビリテーションを行う上では必要となります。これは、使用された人工指関節の型によって脱臼のリスクや屈曲可動域などが大きく異なるためです。人工指関節にはヒンジ型、表面置換型、シリコンスペンサー型の3つがありますが、同じ型でもメーカーによって特徴が異なる場合もあります。どのメーカーのどの型が使用されたのか、またその特徴は何かを事前に確認しておくことが必要です。

人工指関節置換術後のリハビリテーション

人工指関節置換術後は、手術直後から関節自体の機能回復やADL向上を目的としたリハビリテーションが開始されます。そしてリハビリテーションの内容は術後の経過により、目的やアプローチの方法が大きく異なります。なお、機能の回復は時期によって程度は異なりますが、術後半年頃まで続くとされています。以下では時期を追ってリハビリテーションの目的や内容についてご説明します。

①手術直後

手術直後は組織の侵襲や装具による固定により、浮腫や癒着が生じるリスクの高い時期です。また、手指の動作が阻害されるために手内在筋の短縮や滑走性の低下も生じてしまいます。
このため、手術直後は早期から浮腫や組織の癒着を防止しつつ、関節可動域の維持・拡大を目的としたリハビリテーションが行われます。手内在筋に対しても早期から筋活動を促し、筋委縮の予防をすることが必要です。このような内容は抜糸するまで、1~2週間程度続けられます。
なお、術後の屈曲拘縮が強くみられた場合、一時的に装具による伸展位固定が適応されるケースがあります。このような場合においても毎日必ず装具を外し、関節可動域訓練や浮腫防止を目的としたマッサージが必要となります。

②術後早期

抜糸が終わるころには、リハビリテーションの目的は癒着防止や関節機能の維持・向上から、関節可動域や筋力、ADLの向上へと移行します。この時期に入ると浮腫は手術直後と比較すると軽減しており、また固定も装具固定からテープ固定へと変化することから、より自由な関節運動が可能となるためです。
まず、関節可動域訓練では早期から自動運動と他動運動の両方が行われます。積極的に関節可動域の確保は図られますが、事前に使用された人工関節の特徴や手術により侵襲された組織などを把握しておく必要があります。
これは目標とする関節可動域の決定や、禁忌動作の把握のためにも重要です。例えば、手術中靭帯などの軟部組織の縫合が行われていた場合、その組織にストレスをかける関節可動域訓練は避ける必要があります。
また対象となる関節によっては、手術により伸展角度は改善されるものの、反対に屈曲動作は制限されるなどという場合もあります。このようなケースの場合は周辺関節の代償動作についても訓練を行い、見かけ上の可動域の向上やADL向上を図ることも検討されます。
なお、人工指関節置換術の適応となる症例の多くは中手指節関節の掌側脱臼を有しています。このため、関節可動域訓練の一環として掌側軟部組織のストレッチを行うことも重要です。
次にADL訓練ですが、主に失われた動作の再獲得と人工関節や軟部組織に負担をかける動作の修正が行われます。人工指関節置換術では術後手指の運動が阻害されることから、ADLとしては特にピンチ動作や巧緻動作が障害されます。このため、退院後の生活で要求される動作の練習が必要となるのです。
そしてもう一つの重要な目的が動作の修正です。対象者が術前から習慣的に行っている動作の中には、人工関節や侵襲された軟部組織にストレスのかかるものが含まれている可能性があります。
例えば重いマグカップに指をかけて片手で持つ、立ち上る際に拳で体重を支持するなどです。このような動作は退院後も無意識に行い、組織や人工関節の破損につながることも考えられます。このため関節にとってストレスの少ない動作を指導し、無意識下に行えるよう再学習を促すことが重要です。
なお、術後早期と呼ばれる期間は一般的には退院まで、術後2~3週に該当します。

③退院後のリハビリテーション

退院後は自宅退院であれば自主的なリハビリテーションが、また整形外科をはじめとした専門施設に通院する場合は、引き続き専門家のもとで定期的なリハビリテーションが行われます。
なお、自宅退院であればゴムの力を利用したダイナミックスプリントなどを用いて、積極的なリハビリテーションを継続することが重要です。ダイナミックスプリントを用いたリハビリテーションとしては、筋力増強訓練や関節の矯正を目的とした牽引などが行われます。
通院してのリハビリテーションが適応される期間はおよそ術後1か月~3か月ですが、この期間中である術後2か月前後では浮腫や瘢痕が消失し、また侵襲された組織のリモデリングが完了します。このため、術後早期のリハビリテーションと比較して大きな機能回復がみられるという特徴があります。

④リハビリテーションプログラム終了後

上述のリハビリテーションは術後3か月ごろまで積極的に行われますが、それ以降では関節可動域は安定します。
しかし、3か月以降はリハビリテーションが完全に終了するということではありません。関節可動域こそ改善は見られにくいのですが、手指筋力や巧緻動作などといった機能は術後半年程度まではゆっくりとでも向上する傾向にあります。
このため、リハビリテーション終了後も自主トレーニングを行ったり、また日常生活内でも積極的に手指の運動を行ったりすることが推奨されています。
この記事は、Jpn J Rehabil Med 2017;54:191-194の記事を参考にして理学療法士が執筆しています。