語義失語の病巣

語義失語の病巣

定型的な語義失語を生じるのは、左側に強い側頭葉の葉性萎縮例です。
その病理学的診断は確定していないものが多いですが、側頭葉を主に侵すタイプのPick病の可能性があります。
語義失語例では、人格の解体がみられないことからPick病とされない場合がありますが、もともとの性格に比べると明らかな人格変化を有する症例が多いと言われています。
しかし、長年にわたつて明らかな痴呆を呈さず、失語症を主症状とする緩徐進行性失語と診断される症例の病理学的診断は一定していません。
ヘルペス脳炎は側頭葉下部を内側から外側まで損傷し、左側の障害が強い場合に語義失語に近い症状を呈するといわれています。
ヘルペス脳炎では、語の意味の障害が軽く再認がある程度保たれるほか、読みと書字の障害が目立たないといいます。
脳血管障害例でも、ヘルペス脳炎例と同様に部分的な症状を呈する場合がありますが、語義失語を生じるには、少なくとも左側頭葉の中間部が損傷されることが必要と考えられています。
側頭葉後下部ないしは後部は失書や失読を生じることが、本邦では報告されており、この部位が含まれな い方が語義失語の病像が明確になるといえる。
側頭葉前部については、ほぼ常に障害が及んでおり、側頭葉切除術で明らかな呼称障害を起こさないことが知られているとは言え無視はできません。
しかし、側頭葉の前~中間部の損傷が語義失語を起こすのに十分とは言えず、右側にも障害がある場合に定型的症状が起こる可能性があります。
葉性萎縮では語の意味を支える系あるいはネットワークが選択的に侵される可能性を指摘した報告がありますが、進行性の病変か否かも脳機能の修復や再構築と関連して重要な要素と思われます。

語義失語の症状はこちら↓

語義失語の症状

語義失語の症状

語義失語は、語の意味(語義)の理解障害を呈し、喚語困難と呼称障害が明らかで、しかも日標の語を与えられてもそれとわからない再認の障害を伴う失語症です。
障害の中心となる語は、固有名詞と具体的な事物を示す名詞(動物や植物の名等)であり、ついで動詞、形容詞、副詞などの順になるといわれています。
例としては、「調子はいかがですか」と聞くと、「調子?調子ってなんですか、調子の意味がわかりません」のような反応があります。
文法的理解は基本的に保たれていて、トークンテストで良好な成績を示すことに反映されます。
構音は良好で流暢な発話ですが、文意を担う語彙が貧困化し迂遠な表現を示すほか、語性錯語を伴います。
語義失語は、復唱は保たれ、反響言語もみられます。
そのため、語義失語は超皮質性感覚失語の一型といえます。
ただし、理解障害が語の意味主体である点が、文レベルの障害を伴う一般的なタイプと異なるのが特徴です。
症状のみから言えば、語義失語は、音声学的および視覚的語形態と意味が結びつかない二方向性の障害で田辺らは語の意味の選択的障害と表現しています。
語義失語は本邦に特有の失語型であるとする考え方がありますが、理由としては読みと書字の特徴を診断基準に入れていることに起因すると思われます。通常の超皮質性感覚失語では理解を伴わない音読が可能とされるのに対して、語義失語では漢字の読みにおいて、「相手→ソウシュ」、「この布を→このフを」のように語の意味に対応しない音訓の誤読を呈する点が特徴があります。
一方、漢字の書字では漢字をその音によつて、意味を無視しつつ表音文字のように用いる類音的錯書(いわゆる当て字)がみられます。
このほかの語義失語の症状として、ことわざや比喩的表現の理解障害があり、「瓜二つ」について「瓜が二つあるっていうこと」と答えたりします。
また、文の補完現象がみられず、呼称で語頭音ヒントが有効でないこと、語に対する既知感が喪失していることも特徴です。

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混合型超皮質性失語の症状

混合型超皮質性失語の症状

混合型超皮質性失語は、復唱以外のすべての言語機能が重度に障害された失語症です。復唱は他の側面と比較して明らかに良好ですが、正常ではないことも多く、その基準は曖味で報告によってかなりの幅を持っているのが現状です。
単語レベルの復唱の報告例もありますが、数語ないしは短文の復唱ができるものを混合型超皮質性失語とするべ きであり、WABの基準では5以上の得点としています。
復唱時の構音は基本的には明瞭であすが、多少の障害は容認されます。
無意味音節や未知の外国語単語の復唱も短いものは可能なことが多いと言われています。
文法的誤りを含む文の復唱については、訂正を行う場合 とそのまま復唱する場合の両者があります。
開始の手掛かりを与えた場合の歌唱能力や連続的発話(数唱など)および文の補完現象はじばしば認められます。
これらに比べて頻度は低いですが、残存しやすい能力として理解を伴わない音読があります。
復唱とその際の良好な構音と一部の例における音読を除けば、他の言語側面は全失語と同様の障害があると考えて良いと言われています。
自発話はほとんど無いかわずかな常同言語に限られ、話 し言葉の理解は単語レベルでも明らかな障害があります。
呼称はまれな例を除いて不可能です。
書字は重度に障害されていますが、写字ができる例の報告もあります。

超皮質性感覚失語の症状

超皮質性感覚失語の症状

流暢な発話、理解障害、良好な復唱が特徴の失語症タイプです。
自発話は流暢ですが、喚語困難のために中断することがあるほか、迂遠な言い回しもみらます。錯語は、一般的に語性錯語が主体と言われていますが、音韻性錯語が多くみられる例も報告されています。内容は空疎であったり、状況にそぐわない場合が多く、正常に近い発話を示すことは少ないと言われています。
聴理解は基本的に重度であり、単語レベルでも障害があるとすべき考え方がある一方、ウェルニッケ失語よりは軽くてよいとする場合もあるようです。英語版WABの基準では、比較的軽い例も含めています。
復唱は良好ないしは完璧で、無意味音節や外国語、意味の通らない文章でも復唱できることが多く、反響言語もよくきかれます。
復唱については、音韻の認知から直接音韻の再現に至る直接的経路と語彙性経路の両者によって行われると考え られており、Coslettらによれば、古典的超皮質性感覚失語では両方の経路が保たれているが、直接的経路のみで復唱を行う亜型もあるといっています。
後者と考えられた症例では,音韻性錯語が比較的多く、復唱で統語の誤りの修正は行われなかった。
呼称は、特殊な例を除いて重度に障害されており、検者から正答を与えられてもそれとわからないことがあります。
読みは、音読は可能ですが、読んだ単語や文章の理解は話し言葉の理解と同程度に重く障害されていると言われています。
書字は、ウェルニッケ失語患者と同様に、個々の文字は書けても内容のある文章を書けませんが、単語ない しは短い文章の書き取りができる場合があります。

白質病巣のおける超皮質性運動失語の特徴

白質病巣のおける超皮質性運動失語の特徴

Freedmanら、Alexanderらは、超皮質性運動失語の病巣は主に皮質下にあり、左側脳室前角の前外側部の白質であると言っています。
この部位の病巣は、補足運動野からBroca領域を含む運動性言語領域への連絡を絶つことによって発話開始のメカニズムが障害されると考えられています。
小さな病巣では補足運動野の損傷と同様の発話の開始にはぼ限られた障害を起こしますが、病巣が尾状核頭、内 包前脚、被殻前部、外包、前障、最外包、島前部に伸展すると理解障害を伴い、中心前回の顔面領域の深部に伸びると構音も悪くなるとようです。
従来の皮質部位を重視した表現をとる報告例の病巣も多くは白質に深く達しており、発話の減少という基本症状は、白質損傷による可能性もあると言われています。

補足運動野を含む前頭葉内側面損傷における超皮質性運動失語の特徴

補足運動野を含む前頭葉内側面損傷における超皮質性運動失語の特徴

補足運動野を含む前頭葉内側面損傷の超皮質性運動失語は、左前大脳動脈領域の脳梗塞として起こることが多いと言われています。
発症初期の無言に続いて小声の発話がみられるようになりますが、発話は乏しく、努力性で時間がかかります。
失語症を特徴づける錯語、呼称障害、失文法、理解障害などの症状は目立たないと言われています。
書字能力は限られていますが、読みにおいては障害が目立たない場合も少なくありません。
補足運動野に限局した小病巣では、発話の開始にほぼ限られた障害を引き起こしますが、予後は比較的良好と言われています。
左前大脳動脈領域の脳梗塞では、下肢に強い片麻痺が特徴的であり、上肢では近位の麻痺がより明らかであり、右手に把握反射がみられます。また、失禁を伴うこともあります。
脳梁損傷の範囲が広いと、左手の失行、失書をはじめとする脳梁離断症状も加わると言われています。

前頭葉背外側面の損傷における超皮質性運動失語の特徴

前頭葉背外側面の損傷における超皮質性運動失語の特徴

自発話は極端に減少し、わずかな決まり文句を発するか、相手の質問を繰り返して文末などを変化させて答える反響的応答がみられるのみで、話し始めたとしても中断してしまうことが多いと言われています。
患者は手や頭を振ったりして、発話を促そうとする場合がある一方、コミュニケーションをとろうとしない場合もあります。
発話が回復してきても、短い文を話すことが多く、保続や語性錯語がみられます。
「1、2、3…」と数えるような系列語は、検者が最初のいくつかを与えることによつて、いったん開始されると続けられることが多いです。
復唱は自動的なオウム返しというのではなく、文法的な誤りのある文ではそれを修正する場合があると言われています。また、補完現象がみられることがあります。
前頭葉内側面損傷の場合と異なり、片麻痺はないかあっても軽度で一過性のことが多いです。
病巣は、ブローカ領域の前方または上方と考えられていて、下前頭回の中または前部、中前頭回、さらに上前頭回がこれにあたります。
前大脳動脈と中大脳動脈領域の間のwatershed領域の脳梗塞は、超皮質性運動失語を起こす代表的病巣です。 また、中大脳動脈の分枝である前ローランド動脈領域の脳梗塞で中・下前頭回が損傷された場合に超皮質性運動失語を生じると言われています。
また、中前頭回損傷では文を構成することが困難でありLuriaの前頭葉性力動性失語の純粋型にもっとも近く、下前頭回に病変が及ぶ例では失文法が現れてくるといいます。
以上はブローカ領域を含まないことを前提としていましたが、プローカ失語からの回復過程で超皮質性失語を呈する場合が古くから指摘されています。また、ブローカ領域とその周辺を含む病巣によって比較的早期から超皮質性運動失語を呈する例も報告されています。ブローカ領域周辺を含む病巣では、軽い構音障害、音韻性錯語、一過性の失文法が目立つことがあると言われています。

超皮質性運動失語の症状

超皮質性運動失語の症状

超皮質性運動失語(transcortical motor aphasia:TCM)は、自発性が著しく低下した非流暢な発話と、対照的に良好な復唱および理解能力を特徴とする失語症のタイプです。
自発話はきわめて少なく、話しかけられるなどの外的刺激がないかぎりほとんど話すことはありません。質問に対して答えようとする場合でも、発話の開始に時間がかかり、ごく簡単な短い文しか喋れず、また中断してしまうことがしばしばあります。
構音は基本的に保たれていますが、初期には小声であることが多いと言われています。
復唱は非常に良く、かなり複雑な文法的構成を持つ文章でも可能です。反響言語がみられることもあります。
聴理解は発話と比較して良好ですが、二段階以上の命令や、文法的複雑さを増した場合に障害が現れ、プローカ失語と同程度の障害となります。
呼称は、自発話より良い場合と障害が強い場合があります。一方、できるだけ多くの動物の名前を述べさせるような語想起の課題は常に著しく障害されます。
音読は自発話よりは良いことが多く、読みの理解は話し言葉の理解と同様に複雑な内容では障害されていることがあります。書字は発話同様に障害されています。
言語のいずれの側面においても、保続のために成績が低下することがあり、LuriaとHuttonは、この障害が目立つタイプを保続型として分離している。
超皮質性運動失語は、大きく分けて前頭葉の背外側面の損傷と補足運動野を含む内側面の損傷で起こる場合があり、部位によつて症状の差があることが指摘されています。

復唱の語彙ルート

復唱の語彙ルート

復唱の語彙ルートは、簡単に説明すると、「鉛筆」という文字を見て、頭の中で音韻に変えずに(黙読をせずに)、語彙であると認知し、その意味がわかるという経路のことをいいます。
つまり文字を音韻に変換せず、語彙/意味処理をするということになります。
例えば「海老舗」という文字が提示されたとします。この中に単語が隠されています。何をみつけましたでしょうか?
「エビ」ですか?それとも「シニセ」でしょうか?
もしかすると読み方がわからなくても、意味があまり理解できなくても、何となく単語かなと感じることができた方がいらっしゃるかも知れません。
それではなぜ、「海老」あるいは「老舗」という区切りをみつけることができたのでしょうか?
まず、「海老」や「老舗」という単語の特徴について考えてみましょう。
これらのような漢字1文字ずつの読み方とは無関係に、単語全体で決められている読み方を「熟字訓」と言います。個々の漢字にはそれぞれ音読み・訓読みという音韻が対応していますが、これらの単語の読みはそのどちらにも該当しません。このような単語は、漢字1文字1文字を直接音韻に変換しても、正しい読みに到達することはできないため、音韻ルートでは読解に至ることができません。
このような単語を正しく読解するためには、まず、単語全体を「ひとかたまりJの語彙としてとらえる必要があります。入力語彙辞書は音韻からばかりでなく、文字からもアクセスできるようになっています。表音文字である仮名で書かれた単語の場合、通常、脳はまず1文字ずつ音韻変換を行いつつ、語彙処理へ進もうとするのですが、「海老」や「老舗」のような、1文字ごとの音韻変換では読めない熟字訓を持つ単語の場合は単語全体を直接語彙照合にかけることになります。
さきほど「海老舗」という文字列の中から「海老」を見つけた方は、語彙辞書の中の「海老」という項目、また先に「老舗」を見つけた方は「老舗」という項目と照合したことになります。
このような直接的な文字/語彙照合は漢字単語に限ったことではありません。
仮名単語であっても、常に仮名で書かれていて日常生活上、目にする頻度も高い単語(通常仮名表記語と言う)は、最初は音韻ルートを用いて読解されていても、徐々にいちいち音韻変換されなくなり、文字列全体から直接語彙照合されるようになる場合があります。
「時計」を例にすると「時計」が「時」と「計」という文字で構成されているということが理解された後は、仮名単語「とけい」の場合のように、音韻ルートで1文字ずつ文字/音韻変換を行うことは適切ではありません。なぜなら「時」という文字は/to/、/ji/、/toki/など変換可能な音韻の候補が複数存在し、「計」と いう文字にも/kei/、/hakaru/など複数の音韻の候補が存在するため、「時計」という文字列から/tokei/という音韻(読み)を一義的に決定することができないからです。そのため、「時計」という文字列全体から直接語彙照合を行う必要があります。

読解の語彙ルートの段階の障害

一例ですが、漢字の羅列の中から、隠れている単語を探すパズルなどが困難になると思われます。 また、時計や鉛筆などの漢字文字列が語彙であるか否か(実在語か否か)を判断させる検査での成績が低下することが予測されます。

伝導失語の病巣

伝導失語の病巣

Wernicke領域とBroca領域の間の伝導障害を考える場合に重要視されてきた経路は、弓状束です。弓状束は、聴覚連合皮質に源を発し、シルビウス溝の後端を後上方へ回り、縁上回、中心後回の下部、前頭弁蓋の深部を前方へ走り、Broca領域に達する線維束で、上縦束の一部を構成しています。
古典的には弓状束を含む病巣で伝導失語が起こることが知られていますが、その損傷部位としては縁上回を中心とする下部頭頂葉病巣が多いといわれています。

弓状束の前部の損傷で伝導失語を生じたという例は非常にまれで、前部の外科的切断では復唱障害を起こさなかったという報告があります。
古くから白質の損傷よりも皮質の損傷を重視する考え方もありますが、最近、弓状束に限局した病巣で伝導失語を生じた例が報告されています。また、側頭葉病変でも伝導失語が起こりますが、この場合、言語の左半球への側性化が完全な症例で弓状束の起始部を損傷する小病巣の場合と、Wernicke領域に病巣があるが右側頭葉で聴覚的理解が行われていると考えられる場合があります。
縁上回損傷による伝導失語は、その病巣の近さから、口舌顔面失行の合併が多いと考えられますが、DeRenziらの検討では伝導失語の1/3に口・顔面失行がみられたに過ぎないとの報告があります。
一方、シルビウス溝よりも下方を主体とする病巣例では失行を合併しない場合があります。

伝導失語の復唱障害に関するメカニズム論

伝導失語の復唱障害に関するメカニズム論

Wernicke(1874)らは、伝導失語感覚性言語中枢と運動性言語中枢を結ぶ連合線維の切断による感覚刺激の運動パターンヘの伝導の障害によつて起こると考えました。
この考え方は、復唱障害の重要性を指摘したLichtheimを経て、Geschwind、Kinsbourneらに受け継がれ、最近の病巣研究の結果からも重要視されています。
その一方、Liepmannのように、伝導失語が発話の準備段階の障害、遠心性の過程の障害である可能性あげるものも少なくありません。
しかし、この場合でも、発語失行において想定される構音のプログラムよりも前の段階に障害を求めていて、感覚性言語中枢と運動性言語中枢の間の伝導ないしは中間的処理段階の障害とみることができるといえます。
また、ArdilaとRossellは、発話の音声学的分析から発語失行との類似性に言及しています。
実際、伝導失語の発話は発語失行的な音の誤りからウェルニッケ失語と類似の音韻性錯語を示す例まで様々とされています。
KerteszとPhippsによれば伝導失語は、より前方に病巣を持つあまり流暢でないタイプと、より後方に病巣をもつ流暢なタイプの2群に分けられるといいます。
WarringtonとShalliceは復唱障害を主症状とする失語症患者の短期記憶(short term memory;STM)について検討し、復唱障害を聴覚言語性STMの障害によるという説を提出しています。
STMとは、例えば4-7-1-42のような数字列を復唱する場合のように、ごく短時間保持しておくことをいいます。
これに対しては、聴覚言語性STMは保たれているという意見、順序に関する記憶の障害とする説、伝導失語の全体像は音韻の選択と配列の障害で説明されるという説などの批判をあびました。
Warringtonら自身、最初の症例について復唱障害を有するが音韻性錯語を伴わないことから、はっきり伝導失語とはいっておらず、後に伝導失語と聴覚言語性STMの障害と分けることを提案しました。
さらにMcCarthyとWarringtonは、数唱や単語のリストに対するSTMの障害と文の復唱に対するSTMの障害は異なるものである可能性を示しました。
しかし、定型的伝導失語例で聴覚言語性STMが障害されていること、また病巣が上側頭回におよんだ例で聴覚言語性STMが視覚言語性STMよりも有意な低下を示すことが示されていて、STMの障害が失語を構成する一症状である可能性も考えられています。

伝導失語の症状

伝導失語の症状

伝導失語は基本的に流暢で、音韻性錯語の目立つ発話と顕著な復唱障害を示します。 理解は、ほぼ正常に保たれたタイプの失語症です。
自発話は、十分な長さと文法的複雑さを持つ文章を、時々、労せず発する点から流暢と判断されますが、ウェルニッケ失語の典型例でみられる発話量の多さはみられません。
音韻性錯語がしばしば頻発しますが、患者は錯語に気付いています。
そのため、音韻性錯語に対する言い直しと喚語困難による休止が入るため、発話は途切れ途切れで非流暢な印象を与えることもあります。しばしば迂遠な表現が出現します。語性錯語は少ないといわれています。
伝導失語では、音韻性錯語が頻発し言い直しが多く、発話があまり流暢に聞こえない場合、構音の誤りと言い直しがみられる発語失行との鑑別が必要となります。
伝導失語は音韻の置換が最も多いですが、置換された音韻自体は正常に発音され歪みがありません。
また、復唱でより障害が目立つこと、また、書字障害を伴うことをはじめとして総合して診断します。
復唱障害は特徴的であり、自発話同様に音韻性錯語が頻発し自己修正が繰り返され、しばしば目標とする音に近づきます(接近行動)。重症の場合には、1音節の復唱でも誤りますが、単語や文章で明らかとなることが多いです。
自発話が改善してきた段階でも復唱障害が残り、無意味音節の連なりを復唱させたり、物語を読んで次々と復唱させたりすると障害を検出することができます。
呼称障害も明らかで、語性錯語も頻度は少ないですがみられます。しかし、やはり音韻性錯語の頻発によるものが大半を占めるのが特徴です。
患者自身は、わかっているのに言えないと言うことが多く、目標単語の音節数や最初のアルフアベットを正答するtip-of-the-tongue現象は、他の失語型に比べて高頻度であります。
音読においても音韻性錯語が目立ち、長い文章の音読では障害が残りやすいといわれています。
このように伝導失語は、発話を要する側面はすべて障害されており、音韻性錯語と自己修正の特徴がみられます。
一方、聴理解障害はほとんどなく、日常会話では問題ありません。
しかし、複雑な文法構造を持つ文章の理解は低下している場合があり、卜ークンテストの後半などで明らかとなる場合があります。
これは、文法理解の問題ではなく、文章の把持能力障害による可能性があると言われています。
ただし、病巣がWernicke領域に近く、またウェルニッケ失語から伝導失語に移行した例も少なくないことから、ある程度の理解障害を伴う症例もあります。
読解ですが、伝導失語は、音読が障害されている反面、読解は良好です。
日本語の音読では、仮名の字性錯読と一字に含まれる音節数の多い漢字で頻度が増す音韻性錯語がみられます。仮名と漢字のどちらに障害が強いかは症例によつて一定しません。
ただし、病巣が角回に達している場合、失読失書を合併する可能性があります。
書字は自発書字、書き取りにおいて錯書を中心とした障害がみられます。日本語では一般的に仮名書字に障害が強いといわれています。
文法能力は保存されていると考えられいて、単語を並べ換えて文章を作ることができることが報告されています。
写字能力は保たれているか、自発書字や書き取りよりも良好です。
観念運動失行と口・顔面失行が合併することが比較的多いですが、失行を伴わない例も報告されています。

健忘失語(失名辞失語)の症状と病巣について

健忘失語(失名辞失語)の症状

喚語困難、呼称障害があり迂遠な言い回しを呈しますがが、流暢かつ構音の保たれた発話および良好な理解と復唱を特徴とする失語症です。
喚語困難とは、言いたい語が言えない症状であり、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、全失語等では名詞の他に動詞、形容詞なども障害されますが健忘失語では主に名詞が障害されるのが特徴です。そのため失名詞失語と呼ばれることもあります。
自発話は適切な名詞が出てこないため,「あの、 あれなんていったかな」のように指示代名詞が多 くなり、また鉛筆が言えず「あの書くやつ」のように名称のかわりに用途を述べるといった迂遠な言い回しが多 くなります。聞き手が「鉛筆ですか」と言えば即座に肯定します。
基本的に流暢な発話ですが、喚語困難による体止が時々出現します。
錯語は少ないですが、時に語性錯語が見られます。
呼称検査での障害 (呼称障害)がみられ、迂遠な言い回 しが出現します。
また、語想起の検査として、動物の名前などを1分間にできるだけたくさん言う課題(語列挙課題)で、障害が明らかとなることもあります。
語列挙8~10語位が障害の有無の境界と考えられています。
理解面は、指示された物品を選ぶことは問題なくでき、文レベルでも理解障害はほとんどありません。
喚語困難、呼称障害はほとんどすべての失語症で見られる症状であり、回復とともに健忘失語に分類されなおされる例も少なくありません。
しかし、ある程度もとの失語型の特徴を残していることが多いと言われています。

健忘失語の病巣と亜型分類の可能性

健忘失語の病巣は様々であり、極論を言えば、脳損傷であればどこでも喚語困難や呼称障害がおこっても不思議ではありません。 したがって、慢性期に健忘失語に移行した例の病巣は症状と同様に初期の病巣を反映しています。
比較的、純粋に健忘失語の病像を呈する例の病巣は前頭葉、側頭―頭頂葉、に大別されます。
前頭葉の病巣では、Broca領域、前頭葉皮質下などの皮質または皮質下の小病巣があげられます。
側頭―頭頂葉の病巣では、角回またはやや下方の側頭―後頭領域、側頭一頭頂領域、ウェルニッケ失語例より小さい側頭葉病巣、側頭葉後下部など様々な部位が指摘されています。
深部病巣でも、被殻外側部一内包前脚―尾状核頭部付近の病巣で軽度の喚語困難が起こり、内包、線条 体から傍側脳室領域を損傷する被殻出血で健忘失語が生じることがあります。
病巣部位による呼称障害の特徴をとらえようという試みも行われていますが、報告によって結果が異なっています。

全失語の病巣

全失語の病巣

全失語は古典的には、ブローカ失語の病巣とウェルニッケ失語の病巣の両方が損傷されて起こると考えられていました。 また、やや前方よりの病巣では経過とともにブローカ失語に移行すると言われていました。
大きな病巣による全失語例が多いことは確かですが、最近では、ウェルニッケ失語の病巣が含まれないか小さい前方病巣、前頭葉損傷が小さい後方病巣、あるいは比較的小さな深部病巣でも全失語が起こることが示されています。
De Rettiらによると、ブローカ失語の病巣とウェルニッケ失語の病巣の両方を含む広範な損傷は、慢性期の全失語患者の35%にしかみられなかったとの報告があります。また、病巣の範囲と言語機能の回復に有意の関係を見いだせなかったと報告しています。
慢性期に至っても全失語を呈する症例はCT上の病巣よりも広範囲の脳機能障害がある可能性が高いといわれています。
大半の全失語例は右片麻痺を伴いますが、前方病変+後方病変や多発病巣などで麻痺を伴わない全失語が出現する場合もあります。この場合、一般的に失語の回復は比較的良好といわれています。

全失語の症状

全失語の症状

全失語は、言語の表出、理解および復唱が同程度に重度に障害された状態です。
発話はまったくみられず無言の状態であるか、強く働きかけたときにみられる意味不明の発話(発声)であることが多いです。
ときに、子音―母音(CV)からなる1種類の音節の繰り返し、または数音節の繰り返しからなる無意味再帰性発話を示す例などがあります。
このようなCV再帰性発話はプロソデイーをもって続けて流暢に発せられ、相手とあたかも会話をかわしているようにみえる場合があります。
実在語の再帰性発話を発する場合もありますが、その頻度はブローカ失語より少ないでうす。
理解障害は重度ですが、急性期の全失語から理解障害が回復してブローカ失語に移行することはしばしばあります。
症例および診察時期によつては、どちらとすべきか迷うことが少なくありませんが、単語レベルで明らかな理解障害がある時、全失語とするのが適当と考えられています。
全失語の患者は、言語性の応答が不可能であるばかりでなく、指示に従って行為を行うことが難しい場合が少なくありません。
このような場合、「はい」、「いいえ」で答える問題を、「頷く」―「首を振る」のような動作で行うと、「あなたは○○さんですか」のような質問に正答できることを見いだせる場合があります。
復唱も重度に障害されていますが、数音節程度の復唱は可能な場合があり、また復唱が他の側面よりは回復してくる場合もあります。
全失語は、その診断時期や基準によっても異なりますが、予後が悪いとする報告と、発話、理解のいずれかまたは両者の改善により他の失語型に移行するという報告があります。
一般的には理解障害が改善しやすく、ブロー力失語に移行することが多いと考えられていますが、ウェルニッケ失語に移行する場合も報告されています。

重度失語症検査の記事はこちら

ウェルニッケ失語の病巣

ウェルニッケ失語の病巣

Broca領域が解剖学的位置によって規定されているのに対 して、Wernicke領域はその障害により言語理解障害が起 こる領域と考えられています。
主に上側頭回後部を中心とした部位を指すようですが解剖学的定義は一定していません。
なお、Wernickeは、最初、音響心像の座として上側頭回を推定し、1906年の論文では上側頭回後半を感覚性言語 中枢と考えたが、これに隣接する中側頭回の一部を含めてもよいような表現をとっています。
最も狭い領域を指して言っているのはGeschwindであり, Brodmannの22野に相当する領域 (上側頭回の後ろ1/3付近)にほぼ相当するとして、一般的に狭義のWernicke領域 と呼ばれています。
典型的なウェルニッケ失語は、左側頭葉後上部を中心とし、縁上回と角回にも伸展する病巣で起こります。
後方の範囲が広く角回損傷が強い場合には、読みと書字の障害が強く現れます。
ウェルニッケ失語を起こす皮質下病巣として は、Alexanderらによると、側頭峡が重要であるとされています。
また、被殻出血が主に後方へ伸展し側頭峡を損傷した場合に、音韻性錯語を伴うウェルニッケ失語を呈し、小声 になり片麻痺を伴う点が皮質損傷主体のウェルニッケ失語と異なるといいます。

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ウェルニッケ失語の症状

ウェルニッケ失語の症状

ウェルニッケ失語は、流暢で錯語が目立つ豊富な発話と聴覚的理解障害、復唱障害を特徴とする失語症です。
視野障害(右上四半盲など)以外の神経症状は伴わず、失語が表に立つ例が多いと言われています。
構音とプロソディーに問題にはなく、話す文章の長さも保たれていますが、内容は質問や状況に応じたものではないことが多いです。また、意味が伝わらない空疎な発話であることもあります。
しばしば多弁で、聞き手がさえぎらない限りしゃべり続ける語漏を呈することがあります。
患者は自己の言語障害に対する病識がないことが多いのもウェルニッケ失語の特徴です。
このような病態失認には理解障害が必発ですが、逆に理解障害が重度であっても必ずしも病識がないとはいえないと言われています。それは、病識がある場合、あるいは理解障害の改善とともに病識が出現してきた場合には、発話量があまり多くない場合もあるからです。発話は文法的には許容できる構造を持っていることが多いものの、錯語のために正常な文法構造にはみえないこともあります。
語性錯語がしばしばみられますが、発症初期には音韻性錯語や新造語がみられることもあり、錯語の頻発のため意味を汲み取ることができないジャーゴン失語の様相を呈することがあります。

ウェルニッケ失語の病巣はこちら↓

ブローカ失語の再帰性発話と発語失行

ブローカ失語の再帰性発話と発語失行

常同言語が無意識的かつ不随意的に繰り返し発せられる言語症状を再帰性発話 (recurrent utterance)といいます。
常同言語が内容のある語からなるものを実在語再帰性発話といいます。
語として認知不可能な語音または語音の組み合わせで あるものを無意味再帰性発話といいます
Brocaの第1例は何を聞かれても「たん、たん」とだけ繰 り返す無意味再帰性発話を呈しています。
再帰性発話を示す失語症患者の失語型は主にブローカ失語あるいは全失語といわれています。
ブローカ失語と発語失行 ブローカ失語に発語失行は必須かどうかですが、Bensonによると、個々の症例でみた場合に発語失行がない場合があっても良いとのことです。
Broca領域皮質下から後方へ伸展する病巣で、中心前回下部皮質が保たれた症例では、発語失行を伴わない点を除いてプローカ失語に一致する失語症状が生じたとの報告もあります。

ブローカ失語の病巣

ブローカ失語の病巣

典型的ブローカ失語は、Broca領域 (下前頭回の弁蓋部と三角部)と中心前回下部を含む前頭葉、島前部、側頭葉前部、頭頂葉の一部の皮質と皮質下および側脳室周囲の白質を含む深部病変で起こると言われています。また、ブローカ失語は左中大脳動脈の上半領域の脳梗塞で起こるといわれています。 このような、広範囲の病巣例は、発症当初は全失語の病像を呈し、その後回復して持続性のブローカ失語に移行することが多いといいます。
ブローカ失語の重要な構成要因である非流暢性については、下部ローランド領域 (中心前回、中心後回)皮質および皮質下病変が持続性の非流暢性と関係するとする報告や、側脳室前角外側の白質と側脳室体部外側の自質の両者が損傷された場合に重度の非流暢性を生じるとする報告があります。
被殻出血の場合、出血が前方に伸展して前頭葉白質を広範に損傷する場合にブローカ失語が起こりますが、その頻度は必ずしも高くないようです。
↑Broca領域 シルビウス溝上行枝より三角部、後ろを弁蓋部と言います。

ブローカ失語の症状

ブローカ失語の症状

非流暢な発話を特徴とし、聴覚的理解が発話に比べて保たれたタイプの失語症です。
発話の量は減少し、努力的に1語〜数語の短い文を話す程度です。その他に、ごく限られた発話可能な語(常同言語、verbalstereotypies)が残る例もあります。名詞、動詞、形容詞、副詞のような実質語が多くなり文法構造が単純化する失文法がみられます。
また、発語失行を伴うことが多く、発話開始困難、構音運動の探索、プロソデイーの障害、構音の一貫しない誤りなど発語失行の特徴がみられます。しかし、「1、2、3」といった系列語や、「わかりません」というといった自動的発話、歌を歌う場面においては、言語表出が飛躍的に改善することがしばしばあります。
錯語は、音韻の脱落や置換をはじめとする音韻性錯語が主体であることが多いですが、語性錯語もみられます。
ブローカ失語の呼称障害は、語頭音ヒントがかなり有効である点が特徴です。呼称の際は、音韻性、語性のいずれの錯語も出現しますが、表出の誤りに気付く傾向があり、呼称の誤りを「違う」と言つて取り消すことが多いといわれています。
復唱は自発話よりも良い場合が多いですが、多かれ少なかれ前述のような発話障害の特徴を示し、復唱が正常に近い超皮質性運動失語とは区別されます。
書字による表出も話し言葉と同程度に障害されていることが多いです。
話し言葉の理解は、検者が言った単一の物品を指示することは大体可能である。しかし、2つ以上の物品を順番に指し示す二段階命令のレベルですでに障害を明らかにできることも多いです。
また、「鉛筆で鏡にさわってください」のような助詞の使い方を含む文法的な理解は不良となります。
観念運動失行および口・顔面失行を伴うことが比較的多く、この場合、日頭命令の理解は可能であるにもかかわらず、たとえば、「さよならと手を振る」というような上肢の行為、「口笛を吹く」、「せき込む」などの口・顔面を含む行為が障害されるので、理解障害との鑑別が必要となります。

流暢性と復唱能力による失語症のタイプ分類

流暢性と復唱能力による失語症のタイプ分類

I.非流暢性失語

単語レベルの理解障害あり

復唱不良→全失語
復唱良好→混合型超皮質性失語 a)

単語レベルの理解はほぼ良好

復唱不良→ブローカ失語
復唱良好→超皮質性運動失語
a)より軽い理解障害のものを含める場合がある

Ⅱ.流暢性失語

中等度以上の理解障害

復唱不良→ウェルニッケ失語 b)
復唱良好→超皮質性感覚失語 c)

理解障害なしまたは軽度

復唱不良→伝導失語
復唱良好→健忘失語
b)単語と文の両者で明らかな障害
c)単語と文の少なくとも一方で明らかな理解障害

WAB失語症検査の流暢性尺度

WAB失語症検査日本語版の流暢性尺度

(0)全く単語がないか、短かくて無意味な発話である。
(1)多様なイントネーションをもった紋切型の言葉 が頻発し、何らかの意思を伝えられる。
(2)1語文で錯語、努力性、渋滞が認められる。
(3)頻発する流暢な言葉か、ぶつぶつ言う非常に小さい声のジャーゴンである。
(4)つっかえる電文体の発話。ほとんどが1語文で、しば しば錯語になる。時々、動詞や助詞を伴う。 文は、「ちょっとわかりませんね」のような決り文句 だけである。
(5)しばしば電文体であるが、(4)よりは流暢な発話であり、文法的に正しい構造をした部分がある。 錯語が目立つこともある。命題文はほとんどみられない。
(6)完全な命題文がふえる。正常な統語法のパターン (正しい文法用法の意)が見られることもある。錯語がみられることもある。
(7)日本語の統語法のリズム上存在しうる発話であるが、音韻変化や新造語を伴う音韻性ジャーゴンである。常に流暢であり、多弁なこともある。
(8)迂遠な表現をし、流暢な発話、顕著な喚語困難があ り、語性錯語がある。意味性ジャーゴンが見られることもある。文は多くの場合、完全であるが、状況に不適切 な内容のことがある。
(9)ほとんど完全で適切な文である。時にためらい や錯語がある。多少の喚語困難がある。構音の誤りが多少みられることもある。
(10)正常な長さと複雑さをもった文で、明らかな遅さやためらい、あるいは構音の障害がない。錯語はない。

入力文字辞書とは

入力文字辞書とは

入力文字辞書とは、私たちの脳内にある文字の記憶が貯蔵されている倉庫と言い換えることができます。
つまり、日本語話者の場合、漢字や平仮名やカタカナなどの形態の記憶が集まった場所になります。
「ト」「ロ」という形態素は、日本語圏では、/to// ro/と いう音韻を表示していますが、ハングル文字の中にもきわめて似た形態が存在し、それぞれ/a// m/という音素を表示しています。このため、どちらの言語圏で生活する人もそれぞれこれら「ト」「口」という形態を文字として捉えることが可能です。
つまり、「ト」「口」という1 形態素は、日本語圏の人の入力文字辞書にも韓国語圏の人の入力文字辞書にも存在していることになります。
このように、人の脳の中には、その母国語に応じた文字辞書が存在していると言われています。

読解の音韻ルート

読解の音韻ルート

仮名単語「えんぴつ」を/え//ん//ぴ//つ/と 、1文字ずつ音韻に変換してから語彙照合し、意味の理解に至る場合に音韻ルート(読解)を通ります。
1.文字入力〜3.文字照合 (入力文字辞書)までは、こちらを参照ください↓

4.文字 /音韻変換

ここでは、文字照合 (入力文字辞書)の段階で照合された文字を1文 字ずつ音韻に変換する処理が行われます。 変換に成功すると、脳内の入力音韻辞書で、その文字に対応する音韻表象が活性化され、「心 の中で音読している(黙読)状態」となります。
文字 /音韻変換 とは、「文字辞書内で活性化 した特定の文字が、入力音韻辞書で照合を 受けること」です。 ですから、両辞書間に正しい対応関係が保たれていなくてはならないわけです。
文字 /音韻変換規則のことを、英語 では grapheme/phoneme conversion rule(GPC ru!e)といいます。 文字 /音韻変換の障害が起こると、それが文字であるということは分かるにもかかわらず、その文字から正しい音韻を活性化させることができない状態となります。 具体的には、 どのように読むのかが分からなかったり、誤った読み方をしてしまったりすることになります。

5.語彙照合 (入力語彙辞書)

次の段階は、聴覚的理解 (単語)の語彙照合と共通の処理過程になります。 /enpitsu/という4モーラからなる音韻列が語彙であるかどうかを、入力語彙辞書に照らし合わせる処理になります。 語彙照合 (入力語彙辞書)の段階で障害が起こると音韻列が語彙か非語彙かを判断することが難しくなります。

6.意味照合 (意味記憶の活性化)

語彙であると捉えられた後は、聴覚的理解 (単 語)の 場合と同じように、その語彙/enpitsu/に 対応する意味記憶を活性化させるという最終段階に入ります。 その人の認知体験に応 じた鉛筆の意味記憶に基づく、様々な鉛筆の視覚的表象や、聴覚的表象が活性化することになります。

単語の読解のルート

単語の読解のルート

単語の読解では、まず、被験者の前に何枚かの絵を提示します。 そのあと、検査者は、その中からどれか1つの絵を表す単語を文字で提示して、被験者に日の前の選択肢の中から該当する絵を指差すことを求めます 。
日本語の文字形態には、漢字、平仮名、片仮名があります。
漢字は中国から渡ってきた文字で、1文字1文字が何らかの語彙情報 を持っており、表語文字と呼ばれています。
平仮名や片仮名は音韻を表す目的で、漢字を基に後から日本人が作り出した文字であり、表音文字と呼ばれています。
性質の異なる漢字と仮名は、脳内での処理のされ方も異なっているようです。

文字入力

まず、被験者は、提示された「鉛筆」や「えんぴつ」という文字を見ることからはじまります。被験者の網膜に入力された視党的な情報は、主要なルー トとして視神経、外側膝状体を通り、後頭葉の第一次視覚野へ伝達されます。

形態認知

後頭葉の第一次視覚野に入力された情報は、さらに第二次視覚野、第二次視覚野と進み、より高次の処理を受けます。文字を構成している直線や曲線の傾き・形態および相互の位置関係などが分析され、脳内に「正しい形態」が表象されます。 形態認知の段階で障害があると、文字の形態を正しく模写 した り、同じ文字同士のマッチングを行ったりすること等が難しくなります。つまり、統覚型視覚失認の影響が文字の認知にも現れることになります。文字の同定以前の、形態としての認知の段階における障害のため、提示された「鉛筆」や「えんぴつ」という文字は、文字としては捉えることができません。

文字照合 (入力文字辞書)

「鉛J「筆」や「え」「ん」「ぴ」「つ」など、個々の文字の形態が脳内で正しく表象されると、次にその表象は、脳内に存在する文字の記憶 (文字辞書)と照らし合わされるこ とになります (文字記憶との照合)。つまり「鉛」や「え」 という視覚表象が、ここに至って「文字」として認知されます。 文字照合 (入力文字辞書)の段階で障害がおこると、同じ文字同士をマ ッチ ングさせることや、文字を図形として模写することなどは可能です。 しかし、文字であるという認知がなされないため、文字を模写しようとすると、文字を写しているというような連筆 (筆順)ではなく、まるで図形をコピーしているかのような書 き方になります。 また、文字照合 (入力文字辞書)の段階が障害されると、文字と文字によく似た図形とを区別する能力 (文字 /非文字弁別)も低下します。
ここまでが、「鉛J「 筆」や「え」「ん」「ぴ」「つ」が文字 として認知される段階となります。この後、大きく分けて2つのルートが存在する言われています。
1つ目のルートは、「文字を音韻に変換した後、語彙処理し、意味理解に至るルート」(音韻ルート)です↓
2つ目は、「文字を直接語彙処理し、意味理解に至るルート」(語彙ルート)です↓
読解の語彙ルートはこちら

意味照合 (意味記憶の活性化)

その後は、音韻ルー トと同じように、その語彙に対応する意味記憶を活性化させることになります。

復唱のルート

復唱のルート

認知神経心理学では、復唱のルートは、音響ルート、非語彙的音韻ルート、非意味的語彙ルート、意味ルートの4ルートあると考えられています。
後者になるほどより多くのプロセスを踏むことになります。
当サイトに投稿した復唱の各ルートの記事を以下にまとめていますので、ご参照ください。

4種類の復唱ルート

MST 低栄養のスクリーニングツール

MST 低栄養のスクリーニングツール

MST(Malnutrition Screening Tool)は、食事摂取量と体重減少に関する項目からなる低栄養スクリーニングツールです。
MST(Malnutrition Screening Tool)は、高齢リハ患者の転帰の予後予測に使えることが報告されています。 2つの問診のみで評価可能であり、外来リハ患者や施設入居者に活用しやすいツールですが、より詳細な栄養アセスメントには他のツールを用いた追加評価が必要となります。

Malnutrition Screening Tool(MST)

1:最近、意図しない体重減少があるか?
いいえ 0点
わからない 2点
もし「はい」なら、体重はどのくらい減ったか?
0.9〜6.3kg 1点
6.4〜10.7kg 2点
10.8〜14.9kg 3点
>15kg 4点
わからない 2点
2:食欲低下にて、食事摂取量が減っているか?
いいえ 3点
はい 1点

合計スコア

0~1:低リスク
2~3:中リスク
4~5:高リスク

意味ルート(復唱のルート)

意味ルート(復唱のルート)

通常の単語の復唱における中心的なルートです。
意味ルートは以下の通りです。
構音運動実行(音声出力)
復唱の意味ルートは、言われた単語の意味を理解した上で、あらためて同じ単語を自ら発話するというルートです。
つまり、単語の復唱とは、単なる模倣ではなく、いったん理解したことばを自ら改めて表出するという「再生」の要素を含んだ処理になります。
意味照合の段階に障害がある場合、聴きとった語が、単語であると感じながらも、その意味を解せないまま復唱をせざるを得なくなります。
意味ルートの場合には、語彙照合の障害の場合と異なり、聞き取った単語に対して、単語であるという既知感は持っています 。
健常者における単語の復唱では、音響ルート非語彙的音韻ルート非意味的語彙ルート、意味ルートのすべてが重畳して機能していると考えられます。そのため、復唱は、これらいずれの処理過程が障害されても復唱能力は低下してしまいます。
復唱は、聴覚的理解や呼称など、口頭言語に必要な、ほぼすべての言語情報処理を含むため、重要な処理過程になります。
注意するべき点は「復唱が障害される」=「把持力の低下」ではないことです。
把持という用語は、使うとすれば入力音韻辞書から出力音韻辞書 (および音韻出カバッファー)に 直接、音韻情報が転送される場合です。そのため、把持は語彙処理および意味処理の段階がバイパスされる場合に限定されます。

非意味的語彙ルート(復唱のルート)

非意味的語彙ルート(復唱のルート)

非意味的語彙ルート(復唱のルート)は、語彙処理までが関与し、意味の関与しない復唱ルートです。
非意味的語彙ルート(復唱のルート)は以下の通りです。
語彙照合 (入力語彙辞書) ※意味処理へ向かわず語彙選択へ向かいます。
構音運動実行 (音声表出)
単語であるとわかっているけど「意味がよくわからない」という状態で復唱が行われる場合には、この非意味的語彙ルートを通ることになります。
語彙照合 (入力語彙辞書)の段階に障害があると、聞き取った単語に対して、知っているという「既知感」が持てないまま復唱をせざるを得ない場合があります。
単語の復唱であるにもかかわらず、非語の復唱の様になります。