骨折に関する基礎事項について

1、骨折の概要

骨折とは骨に強い外力がかかることによって完全に、または部分的に連続性が断たれた 状態のことを指します。中でも折れた骨が皮膚を突き破ってしまった状態の骨折は開放骨折、または綺麗に2つに折れてしまっている場合であっても複雑骨折と呼ばれます。骨折後は骨折部周囲の疼痛や腫脹、機能障害などといった骨折そのものに起因する症状が診られますが、そのほかにも感染や神経損傷などをはじめとした合併症を生じるケースもあるため注意が必要です。骨折後は骨折部位により異なりますが、おおむね2週間から12週間で癒合が完了するとされています。なお、横方向への骨折は治癒しやすく、縦方向への骨折やらせん骨折、粉砕骨折では治癒しにくくなっています。

2、骨折の評価

骨折後の評価は画像診断と臨床検査の両方を行い、構造的な変化や動作への影響などを評価して治療やリハビリテーションに活かす必要があります。

〇画像診断

画像診断では主にX線画像が用いられており、骨病変の診断に特に有用であるとされています。画像は一般的に前額面と呼ばれる正面から撮影されたものと、矢状面と呼ばれる側面から撮影されたものが用いられます。X線画像からは転位や脱臼の有無や骨癒合の進行具合、骨折線の所在などを診断することができます。 なお、大腿骨内側骨折の場合は転位の程度についてGarden分類という診断基準が設けられています。これはStageⅠからStageⅣまでに分類されており、StageⅠは不全骨折、StageⅡ~Ⅳでは完全骨折となっています。なお、StageⅡから順に転位なし、部分転位、完全転位とStageが進むにつれて重症ということになります。StageⅢ、Ⅳ程度までなると人工骨頭置換術が必要です。

〇臨床検査

・形態計測

形態計測ではまず、周径計測により骨折部周囲の腫脹の有無や程度を確認します。また、骨折後は固定や不動などにより筋委縮が生じることがあるため、筋委縮の程度を評価します。なお、回復後の筋肥大の程度を確認するためにも定期的に計測することも重要です。 次に長径を測定します。骨折では関節拘縮による可動域制限や骨転位などにより脚長差が生じる場合があります。脚長差は3cm以上になると跛行の原因となるため、リハビリテーションの計画立案や補装具の使用の検討、リスク管理のためにも検査項目となります。

・関節可動域検査

関節可動域制限や異常可動域、拘縮の有無について確認します。なお、固定部位を考慮して測定する必要があります。

・徒手筋力低下

骨折部周囲の関節に関連する筋では安静やギプス固定などによって廃用性筋委縮が生じやすくなっているため、筋力低下の有無や程度について確認します。

・日常生活動作に関する評価

骨折後は荷重制限や疼痛、関節可動域制限などにより行える日常生活動作の範囲に変化が生じます。このため受傷前にはどこまでの動作を行うことができたかを問診し、受傷後にその中のどのような動作が困難になっているのかを評価することが重要です。

3、骨折後の症状

骨折後にみられる症状は骨折部の周囲に生じる局所症状と、主に開放骨折に伴ってみられる全身症状の2つに分類されます。

〇局所症状

骨折後は炎症の四主徴(発赤、発熱、腫脹、疼痛)に準じた機能障害を伴うことが多くなっています。

・疼痛

骨折部では周辺組織の損傷も伴うため、炎症反応がみられます。このため激しい運動痛や圧痛、そして何もしていなくても生じる自発痛もみられるようになります。

・腫脹

骨折により骨髄や骨膜、周辺組織が損傷すると、出血や炎症症状により発熱や熱感を伴った腫脹が生じます。なお、骨折後に生じる腫脹には大量のたんぱく質が含まれており、繊維素も多くなっています。このため結合組織の増殖を招きやすく、関節拘縮を誘発する原因ともなってしまいます。

・変形による機能障害

骨折した骨がずれた状態で癒合してしまうと、骨折部周囲の変形が生じます。これにより本来の関節運動が行えなくなってしまい、関節可動域制限の誘因となります。

・異常可動性

上記の変形の場合とは逆に、骨癒合が途中で停止してしまうと偽関節という状態になり、関節が通常より大きく動く異常可動性を有してしまうこともあります。

・礫音

関節運動の際に骨折部分や変形した部分がこすれることで、ギシギシとした音を感じることがあります。なお耳で聞き取ることはできず、手で触れることでわかる程度の軽微なものがほとんどです。

〇全身症状

開放骨折では多量な出血を伴う場合があります。この場合は激しい疼痛や出血によりショック症状が生じてしまい、頻脈や頻呼吸、脈圧の減少などがみられることがあります。 なお、骨折自体が軽微な物であっても骨折の原因となった四肢への圧迫が長時間にわたった場合、急性腎不全や心不全を引き起こす挫滅症候群を発症する危険性もあるため注意が必要です。

4、骨折時の合併症

骨折後は様々な合併症が生じる場合があります。合併症は骨折直後から生じる感染や血管、神経損傷などの急性期症状と骨折の治癒段階で生じる慢性期症状の2つに分類されます。

〇急性期合併症

①皮膚軟部組織の損傷と感染、外傷性ショック

皮膚損傷を伴う開放骨折である場合、傷口から菌が軟部組織や骨内に入り込んで感染を引き起こします。なお、骨内に菌が侵入した場合には骨髄炎を生じることもあります。そして骨折時に大量の出血を伴った場合は顔面蒼白や頻脈、血圧低下、意識障害などを生じる外傷性ショックも発症するリスクがあります。

②血管損傷と神経損傷

血管損傷は重篤な症状となり、生死に関与する場合もあるため骨折に対する治療よりも優先して治療が行われます。なお、臨床的には血管損傷が生じている場合、末梢神経損傷が生じていることが多いと認識されています。神経損傷は骨折に伴って生じる橈骨神経損傷や坐骨神経損傷が多く、麻痺や感覚障害などの後遺症が残ります。

③脂肪塞栓

骨折後に骨中に含まれる脂肪の栓子が流出することで肺や心臓などに詰まり、塞栓を生じた状態です。下肢の骨折で生じることが多く、呼吸器症状や脳神経障害など重篤な症状につながります。

④内臓損傷

骨折した骨は周囲の臓器を損傷する場合があります。例えば骨盤輪骨折では膀胱などの内臓や尿道の損傷、肋骨損傷では肺を損傷し、外傷性の気胸や血胸を引き起こす可能性があります。

⑤循環障害

骨折により循環障害が生じると、関節可動性などにも障害を生じることがあります。以下では特に症状が重く、代表的な2つの疾患についてご紹介します。
・急性コンパートメント症候群
コンパートメントとは区画の事で、四肢の骨と筋膜によって構成されています。骨折などにより区画内に出血や浮腫が生じると区画内圧が上昇し、筋や神経に血流障害が生じて壊死を引き起こす重篤な合併症です。筋は壊死を起こすと自然治癒せずに最終的には瘢痕化し、拘縮の誘因となります。このためコンパートメント症候群の兆候が疑われた場合には早期に筋膜切開が必要で、また発症予防のためには受傷後すぐにはギプス固定を行わないなどの対処をする必要があります。臨床でわかりやすい症状としては冷感、蒼白、脈がとりにくくなる、痺れなどの感覚異常などをはじめとした感覚障害などがあります。
・フォルクマン拘縮
阻血性拘縮とも呼ばれる症状で、上腕骨顆上骨折に伴って生じます。循環障害によって内出血や圧迫が生じて区画内圧が上昇することで手関節掌屈、母指内転、示指から小指にかけてのMP関節(中手指節関節)伸展、全指のIP関節(指節間関節)屈曲が生じます。フォルクマン拘縮は生じてしまうと治療が容易ではないため、発症が疑われたら早期に治療を開始する必要があります。

〇慢性期合併症

 慢性期合併症としては主に骨折の異常経過が挙げられます。

①変形治癒

骨癒合の際にはある程度自己矯正力が働きますが、その自己強制力を超えた転位を生じた状態で骨癒合した状態です。なお自己矯正力は屈曲方向に対しては強いのですが、回旋方向に対してはほとんどないため、少し外旋した状態などでの変形治癒が多くみられます。

②骨治癒遷延

予測されていた平均的な癒合期間を過ぎても骨治癒が完了しない状態です。ただし治癒が遅れるだけで、骨癒合を妨げている因子を除去することができれば最終的には癒合がみられます。

③偽関節

骨折部の骨癒合機能が停止した状態です。通常の可動域よりも大きく関節運動がおこる異常可動性を持つ場合もあります。

④無腐性壊死

骨折による血管障害は急性期合併症としてもみられますが、中でも栄養血管が損傷されることで対応する骨に壊死をきたす状態です。大腿骨頚部内側骨折や距骨骨折、上腕骨頚部骨折、舟状骨(手)骨折で好発します。

5、骨折の平均癒合期間

骨折の平均癒合期間の基準として有名なものにGulrtの表があり、各部位の一般的な癒合期間の指標となっています。しかし骨折の程度や選択された治療法によって骨期間は異なり、また一般的にはこの基準よりもう少し癒合までの期間を要することが多いです。このため、骨癒合の程度について画像を確認したり、またリハビリテーションの進行について主治医に確認をしたりすることも重要です。以下では各部位の平均癒合期間をご紹介します。
・中手骨…2週間
・肋骨…3週間
・鎖骨…4週間
・前腕骨…5週間
・上腕骨骨幹部…6週間
・脛骨、上腕骨頚部…7週間
・両下腿骨…8週間
・大腿骨…骨幹部8週間、頚部12週間

6、高齢者に多い骨折

高齢者は骨粗鬆症などの罹患により、転倒や日常生活動作に伴う骨折が若年者より生じやすくなっています。また、骨折により寝たきりとなったり、それにより認知症を誘発したりするなど、若年者と比較して骨折後の生活にも大きな影響を及ぼします。以下では中でも生じやすい骨折について説明します。

①脊椎椎体圧迫骨折

特に第11腰椎から第2腰椎では脊柱後彎から前彎にかけての移行部分であるために靭帯が薄く、骨折の好発部分となっています。骨粗鬆症であれば後方へ尻もちをついただけでも生じてしまいます。

②大腿骨頚部骨折

好発する骨折ではありますが、骨癒合しにくい骨折としても有名です。骨癒合しにくい原因としては以下のような要因が挙げられます。
・血流が少ない
・高齢者、特に女性に多い
上述のとおり骨粗鬆症を罹患していることが多い為、骨折しやすく骨癒合しにくい状態となっています。
・関節内骨折である
関節内には骨癒合に必要となる骨膜が無く、骨形成することができません。さらに関節液が浸潤することも骨癒合を妨げる原因となっています。
・剪断力がかかる
大腿骨には頚体角があるため、歩行や立位などによる荷重により骨折部分が開く方向に剪断力がかかり、骨癒合の妨げとなります。

③上腕骨近位端骨折

大部分は外科頚骨折ですが、解剖頚で骨折が生じた場合には関節内骨折となってしまうため、阻血性壊死が好発します。

④橈骨遠位端骨折

手関節の骨折ですが、転倒した際に手をつくことで生じます。特に骨片が背側に転位したものはコーレス骨折、掌側に転位したものはスミス骨折と呼称されます。

変形性関節症の原因や分類、評価方法を解説します!

1、変形性関節症とは

①変形性関節症の概要

変形性関節症とは関節の変性が生じる疾患であり、関節を構成する骨や関節軟骨が摩耗したり、増殖したりすることで動作困難や疼痛が生じます。
具体的には荷重のかかりやすい部分では組織がすり減ってしまい、またかかりにくい部分では組織の増殖が起こり、骨棘が形成されてしまいます。
組織の変性や疼痛は生じますが、炎症は伴わない非炎症性疾患です。また進行性疾患であるため、適切な治療が行われなければ関節裂隙の狭小化や骨の摩耗などといった症状は重症化していってしまいます。
なお、関節裂隙の狭小化や消失により動作性の低下や疼痛は見られますが、骨癒合はしないため可動性は確保されます。好発年齢は50代で、特に女性に多い傾向にあります。
変形性関節症はすべての関節で生じうる疾患ではありますが、そのほとんどは荷重のかかりやすい膝関節と股関節で発症しています。
その中でも特に症例数が多いのは変形膝関節症ですが、変形性股関節症では発症すると重症となる傾向があります。

②変形性関節症の原因

変形性関節症はその原因によって一次性関節症と二次性関節に分類されます。
一次性関節症とは原因疾患が明らかとなっておらず、関節自体の加齢現象などにより生じるものです。変形性膝関節症であれば全体の90%以上がこの一次性関節症に該当します。
なお手指に生じる一次性関節症は発症部位により呼称が異なり、DIP(遠位指節間)関節に生じればヘバーデン結節、PIP(近位指節間)関節に生じればブシャール結節となります。
二次性関節症とは原因疾患が明らかとなっているものです。変形性股関節症であれば全体の80%程度がこの二次性関節症に該当します。

変形性膝関節症

  • 外傷(半月板損傷、靭帯損傷、関節内骨折など)
  • 炎症性疾患(関節リウマチ、化膿性関節炎など)
  • 代謝性疾患(痛風など)
  • 関節運動の異常(前十字靭帯損傷など)

変形性股関節症

  • 先天性疾患や幼少期に生じた疾患の後遺症(先天性股関節形成不全、臼蓋形成不全、ペルテス症など)
  • その他(骨頭壊死、外傷など)

③X線像での病期分類

X線像では骨棘の形成や骨嚢胞の有無や程度、そして関節裂隙の状態について確認し、疾患の進行度を判断します。
嚢胞とは骨の中に空間ができ、骨ではないゼリー状の組織と置き換わってしまっている状態です。中身はトロッとしているために体重がかかるとつぶれてしまい、平坦化の原因となります。

変形性膝関節症

Grade1:骨硬化像または骨棘のみ(ほぼ正常)
Grade2:関節裂隙の狭小化が認められる(3㎜以下)
Grade3:関節裂隙の消失(閉鎖)または亜脱臼
Grade4:荷重面の摩耗または欠損(5㎜未満)
Grade5:荷重面の摩耗または欠損(5㎜以上)
なお、Grade3、4は中期、Grade4、5は末期とされています。

変形性股関節症

前股関節症
臼蓋形成不全や亜脱臼、骨頭変形、頚部前捻増強、頚体角の異常など先天的、後天的にかかわらず変形がみられます。
関節軟骨は残存しており、また骨硬化や嚢胞形成もみられないため、関節裂隙の狭小化はありません。
初期股関節症
関節軟骨の摩耗などによる関節裂隙のわずかな狭小化が見られ始められますが、骨棘形成はあっても軽度です。他に関節面の不整合や、臼蓋縁や骨頭に骨硬化像もみられます。
進行期股関節症
関節裂隙の明らかな狭小化がみられ、一部が消失します。また、関節面の不整合、骨頭や臼蓋縁部分の骨棘形成、骨硬化、嚢胞形成も認められます。
末期股関節症
関節裂隙は消失し、著明な骨棘や嚢胞の増大がみられます。他にも広範な骨硬化や臼底二重像も認められます。

2、機能障害の評価方法

①身体計測

棘果長(SMD)、転子果長(TMD)

変形膝関節症では伸展制限や内反変形(O脚)、変形性股関節症では骨頭の平坦化による脚長差が認められます。これらの評価のために棘果長(SMD)や転子果長(TMD)を測定し、2つの測定値の差があるかどうかを確認します。

下肢周径

特に膝関節において関節内液の貯留があると関節運動の妨げとなるため、下肢周径に異常な増大が内果を確認します。

BMI

体重が多ければその分関節への負担が大きくなります。このため身長と体重からBMIを算出し、肥満の有無などを確認します。 BMI=体重㎏/(身長m)2

②整形外科的検査

股関節

X線像より、構造的な異常を確認します。股関節であれば頚体角や前捻角、そして臼蓋不全の有無や寛骨臼と大腿骨頭の適合性を確認するためのCE角やSharp角の測定を行います。
CE角とは大腿骨頭の中心を通る垂線と、大腿骨頭と臼蓋上縁を結んだ線から構成される角度の事です。小さいほど臼蓋のかぶっている部分が浅く、適合性が低いということになります。
また、Sharp角は寛骨にある左右の涙痕を結んだ線と、臼蓋上縁と同側の涙痕を結んだ線から構成される角度の事です。
こちらは大きいほど適合性は低いということになります。
関節可動域制限などのために筋短縮が起こる場合があります。このため、筋短縮の有無や程度を確認するためのテストを行います。
特に股関節屈曲、内転、外旋位での拘縮が生じることが多いため、股関節屈曲筋群に対する検査が中心となります。
トーマステスト
腸腰筋の短縮について確認するために用いられます。被検者は背臥位となり、検査下肢とは反対側の下肢を抱きかかえるようにして股関節と膝関節を屈曲させます。このとき検査下肢の股関節が屈曲し、大腿が台から離れれば陽性となります。
オーバーテスト
大腿筋膜張筋の短縮について確認するために用いられます。被検者は検査下肢を上にした状態で側臥位となります。検査者は膝関節を90°に屈曲させた状態で股関節を伸展させ、外転位で保持します。ここで手を離しても下肢が落下せず、外転位で保持されれば陽性です。変形性関節症では関節の構造的な変化がみられることから、動作への影響について確認するためにアライメントに対する検査を行います。
アリステスト
股関節脱臼などの有無を確認するために用いられます。背臥位にて両下肢を揃えて膝関節を屈曲させると、陽性であれば脱臼側の膝関節が正常下肢より低くなります。ただし内反股などにより脚長差がある場合でも同様の結果が得られるので注意が必要です。
ローザーネラトン線
股関節のアライメント自体を確認するために用いられます。ローザーネラトン線とは、上前腸骨棘と坐骨結節を結んだ線のことです。背臥位にて股関節を45°屈曲させ、ローザーネラトン線上に大転子が位置すれば正常ということになります。

膝関節

X線像より膝関節の正確なアライメントを確認します。様々な検査法の中でも特に重要視されるのはFTA(膝外側角、大腿脛骨角)です。
FTAは大腿骨長軸と脛骨長軸がなす角の事で、片脚立位で正面から撮影したX線像を用います。
正常は175°で5°程度外反していますが、変形性膝関節症にて多くみられる内反変形(O脚)では180°以上になります。
関節可動域制限により筋短縮が生じる場合があります。変形性膝関節症では伸展制限と屈曲制限の両方がみられるため、大腿前面筋と後面筋の両方に短縮が生じえます。
エリーテスト(尻上がり現象)
大腿直筋の短縮について確認するために用いられます。被検者は腹臥位となり、膝関節を屈曲させていきます。この時股関節が屈曲することで殿部が持ち上がってくると陽性です。
SLR
ハムストリングスの短縮について確認するために用いられます。被検者は背臥位となり、膝関節を伸展させておきます。この状態のまま検査者は股関節を屈曲させていき、膝関節を屈曲させてハムストリングスを緩めて行った角度との比較を行います。 変形性膝関節症ではスラストと呼ばれる側方動揺が生じる場合があります。このため、膝関節の動揺性を確認するためのストレステストを行います。スラストは内反膝(O脚)を呈する症例では外側方向に、外反膝(X脚)であれば内側方向にみられます。
外反ストレステスト
膝関節を軽く屈曲させ、内側の関節裂隙が開くように下腿に外反ストレスを加えます。
内反ストレステスト
膝関節を軽く屈曲させ、外側の関節裂隙が開くように下腿に内反ストレスを加えます。
関節内液が貯留して関節水腫が生じることで関節運動の妨げとなり、関節拘縮の原因となります。このため、膝蓋跳動の有無を確認する必要があります。検査は関節部分に組織液をためるように膝関節を把持し、膝蓋骨を押し込みます。この時膝蓋骨に上下運動が見られれば陽性です。

③疼痛検査

変形性関節症では疼痛が生じることが特徴であるため、その痛みの特徴や質、程度、生じるタイミングについて確認します。痛みの程度についてはVASやNRSなどを用いて行います。 疼痛の生じるタイミングについては、変形性膝関節であればStarting painという歩き出しに疼痛が生じ、歩行するにつれて緩和していくという特徴があります。反対に変形性股関節症であれば歩行をはじめとした運動後に疼痛が生じるという特徴があります。

④関節可動域検査

膝関節:完全伸展や完全屈曲が困難となり、歩行や正座などのADLが障害されやすくなります。このため膝関節屈曲、伸展ともに測定が必要です。 股関節:屈曲、内転、外旋位での拘縮が多くみられます。特に手術療法を選択する場合、内転拘縮があると術後も内転拘縮が起こりやすく、また脱臼のリスクもあります。このため内転角度の測定は特に重要です。

⑤筋力検査

患部だけでなく、周辺関節の筋に対しても徒手筋力検査を行います。基本的には運動の全可動域にわたって抵抗を加えるfree motion test(運動範囲テスト)を行いますが、運動時痛が強い場合には運動範囲の終わりに抵抗を加えるbreak test(制動テスト、抑止テスト)を行います。

⑥跛行の有無の確認

変形性膝関節症では荷重時に膝関節が側方に動揺するスラスト歩行となります。これは内反変形が生じていれば外側に、外反変形が生じていれば内側にみられます。
変形性股関節症では疼痛が原因となって、トレンデレンブルグ性の跛行がみられます。中殿筋の筋力低下が生じている際と同様の跛行がみられやすく、患側下肢の立脚相で上体と骨盤が遊脚側に傾くトレンデレンブルグ歩行と、患側下肢の立脚相で上体が立脚側に傾くデュシェンヌ歩行がみられます。
なお、デュシェンヌ歩行では上体の重心移動により、骨盤は水平位で保持されます。
また、股関節屈曲拘縮が生じている症例では患側下肢の立脚相の最後、股関節伸展の際に動作が制限されるため、腰椎前彎の代償的な増強がみられます。

人工足関節置換術と術後のリハビリテーション

人工足関節置換術の概要

①人工足関節置換術の実際

人工関節置換術は関節軟骨のすり減りや関節の構造的な破たんにより痛みが生じていたり、運動に障害が生じていたりする症例に適応され、破壊された関節と人工関節を入れ替えることで痛みや運動障害を改善させることを目的とした術式です。
この術式はほとんど股関節や膝関節において適応されるのですが、実は症例数は比較的少ないものの足関節にも適応があります。
人工足関節置換術の適応となる主な疾患は変形性足関節症や進行した関節リウマチです。しかし前述のとおり、実際に行われている人工足関節置換術の症例数は股関節や膝関節と比較すると大幅に少なくなっています。この理由は足関節の構造にあります。
一般的に足関節と呼ばれる距腿関節は、腓骨と脛骨からなる関節窩に距骨の関節頭が入り込むようにして構成されています。これらは「ほぞ」と「ほぞ穴」という比喩をされることが多いように骨同士がパズルのようにぴったりとはまっているため、骨性の安定性が非常に高い関節です。
さらに、距腿関節の周辺には距骨下関節や距踵関節、ショパール関節(横足根関節)といった関節が多く分布しています。この構造により衝撃や自重をはじめとした外力はそれぞれの関節に分散されるため、他の関節と比べると変形性関節症が生じにくいのです。
以上の理由により人工足関節置換術の適応となる症例数は少数となっています。

②特に適応となるケースが多い症例

人工足関節置換術の適応となる症例は主に変形性足関節症や関節リウマチですが、その中でも両下肢ともに罹患している症例や、距腿関節の周辺に位置する関節にも罹患がある症例により優先して人工足関節置換術が選択されます。
また対象者が50歳以上の高齢である場合、足関節内外反変形が15°以下と軽度である場合もより高い優先順位で選択されます。
なお、変形性足関節症には他にも関節固定術などの選択肢があるのですが、前述のような罹患の仕方である場合に実施してしまうと極端に足関節の動作性が低下してしまいます。
このため、術式を選択する際の優先順位としては低くなります。

③手術の方法

人工足関節置換術では脛骨と距骨のそれぞれにコンポーネントと呼ばれる人工関節の部品が装着されます。
手術では障害の生じている元の骨を切り取り、骨セメントやスクリューを用いてコンポーネントを固定します。
足関節の前方からアプローチするため、どの組織が侵襲されたのかを事前に把握しておくことが必要です。

人工足関節置換術に関連するリハビリテーション

人工足関節置換術に関連するリハビリテーションは術後の機能回復を速めるため、術前から行われます。
また術後はギプスや装具による固定期間があるため、術後の動作制限だけでなく固定による合併症にも考慮して介入することも重要です。
以下では時期を追ってリハビリテーションの内容や治療目標などをご説明します。

①手術前

術前は術後の機能回復を速めるためのリハビリテーションが行われます。主に行われる内容は関節可動域訓練と足関節周囲筋群の筋力トレーニングです。
特に術後は固定や手術の侵襲による筋力低下がみられるため、足関節底背屈、内がえし、外がえしの各運動方向について筋力トレーニングを行い、事前に筋力向上を図ることが必要となります。
特に腓骨筋群は強化することにより外側への安定性が向上するため、重要視されています。

②手術直後(術後10日間~2週間、抜糸まで)

術後は固定による関節拘縮予防を目標として、なるべく早期からリハビリテーションが開始されます。この時期はギプスにより足関節が固定されているため、足関節周囲関節である足趾の屈曲伸展を中心に行います。
また免荷状態ではありますが、離床が可能な症例であれば日常生活動作の機能維持を目標とした介入も開始されます。例えば車椅子への移乗動作練習や平行棒内での歩行練習などで、非術側下肢のみでの動作方法を練習します。
なおギプス固定をしている期間であることから、ギプス障害について配慮する必要があります。ギプスにより患部が固定されていると循環障害やしびれをはじめとした神経障害が生じるリスクがあるため、足趾の色や温度、痛みやしびれの有無、動作性などを確認することが重要です。
また、術創部の回復や関節可動域の改善の妨げとなる浮腫の予防も行われます。ギプス固定中は下腿三頭筋の収縮によるポンプ作用が得られない期間であるため、リンパ液などの水分が足にたまらないように臥位では下肢を挙上する、椅子に座る際は下肢を台に乗せておくなどの生活指導を行います。なお、関節可動域訓練として行う足趾の運動も浮腫予防には効果的です。
以上のリハビリテーション内容は抜糸が行われる術後10日から2週間程度行われます。

③術後早期(術後2~3週、ギプス除去まで)

抜糸後はギプスがヒール付きの短下肢ギプスに変更されて部分荷重も許可される時期で、歩行練習も荷重下で開始されます。また、抗重力筋や立位バランス能力に寄与する殿筋群をはじめとした股関節周囲筋群や、大腿四頭筋やハムストリングスをはじめとした下肢筋群などの筋力強化を行うことも、歩行の安定性を向上させるために重要です。歩行練習は荷重量の調整が容易な平行棒や歩行器、松葉杖を用いて開始されます。荷重量は10~15㎏程度から開始し、疼痛の程度を見ながら増減の調整を行います。 この期間は術後3週でギプス固定が終了するまで継続されます。

④ギプス除去後(術後3~4週)

術後3週からはギプスが除去され、足関節の可動域訓練が開始されます。長期間の固定期間が設けられていたためギプス除去直後は関節が硬くなっており、また下腿三頭筋の伸張性は低下しています。
このため急激な他動運動を行うと疼痛が生じてしまうので、はじめは自動での足関節底背屈運動や、下腿三頭筋のストレッチなど愛護的な内容から開始されます。このようにこの時期は自動的な運動が中心となるため、自主トレーニングを行うことも重要です。
自主トレーニングでも十分なトレーニング効果を得ることができるよう、ゴルフボールなどを用いた足底のリラクセーションとストレッチや、タオルやセラバンドなどを用いた筋力トレーニングなど、必要に応じて道具を利用した方法を指導します。

⑤術後4週以降

術後4週からは疼痛も軽減してくるため荷重の許容量が増加し、全荷重まで可能となります。この時期以降は運動を中心としたリハビリテーションが行われるようになり、より日常生活への復帰に直結した内容へ移行していきます。
術後4週では歩行補助具による上肢支持を徐々に減少させていくため、歩行器や松葉杖から、T字杖を使用した歩行へと移行していきます。全荷重は可能ですが、術側下肢への負担を軽減させるために杖は健側に把持するよう指導します。
健側に杖を持つことで、歩行中に術側下肢単脚での支持期をなくすことができ、術側の足関節への負担を軽減させることが可能です。また全荷重が許可されているため、疼痛が治まればカーフレイズによる下腿三頭筋の筋力トレーニングや、独歩練習も開始することが可能となります。
術後2か月以降は基礎的な歩行練習だけでなく長距離歩行練習も開始し、社会復帰を目標としたより具体的なリハビリテーションが行われるようになります。
また足関節の動作方向も拡大させることが可能となるため、底背屈以外にも内がえしや外がえしも運動に取り入れられます。ただし、開始直後は自動運動による愛護的なアプローチを選択することが必要です。
このように術後2か月程度で最低限の日常生活を送るために必要なリハビリテーションを、おおむね行うことができるようになります。さらに術後3か月からは通常の歩行だけではなく、小走りや足関節への負担が軽度であればスポーツへの復帰も可能となるため、より高いレベルの日常生活を送ることが可能となります。

人工指関節置換術と術後のリハビリテーション

人工指関節置換術とは

①人工指関節置換術の適応

各関節に対する人工関節置換術は、骨や軟骨、関節周囲の軟部組織が破壊されているために関節を温存したまま治療を進めても痛みが残ってしまったり、日常生活の中で必要とされる動作(ADL)が困難となってしまったりする症例に適応されます。
破壊された組織と人工関節を置き換えることで除痛やADLの向上が図られるのです。中でも特に人工関節置換術の対象となることが多い関節は、動作中体重を支える役割を果たす膝関節や股関節です。
しかし、症例数はこの2つの関節より大幅に減ってはしまいますが、末端に近い関節である指関節でも人工関節置換術が適応となるケースがあります。特に手術の対象となることの多い疾患は、関節リウマチです。
関節リウマチでは骨や軟骨が破壊されてしまうことで関節に痛みが生じたり、変形により正常の動作が困難になってしまったりします。この症状は特に小さな関節である指関節に多くみられるため、強い痛みや関節の変形によって巧緻動作が困難となり、人工指関節置換術が適応となるケースが多くなるというわけです。
しかし、すべての関節リウマチの方に人工指関節置換術が行われるわけではありません。多くの方には強力な治療薬を使った薬物療法が適応されます。そのような中でも手術が選択される症例があるのは、手術に対してある目標の達成が期待されているためです。
人工指関節置換術を行う際に掲げられる目標とは、関節の見た目と機能を正常関節により近くなるように治すというものです。冒頭で説明したとおり、人工関節置換術では破壊された組織と人工関節が置き換えられます。
このため関節を温存したときとは異なり、見た目は正常関節に近くなること、機能面は痛み無くADLを行うということが可能となります。指関節の場合は特に人目に付くことが多い関節ですし、ADLやIADLにおいて巧緻動作を行うという大きな役割を果たす関節です。このため、これらの目標を達成する意義は大きくなると言えます。

②人工指関節置換術の実施

人工指関節置換術を行う際には、解剖学的知識や人工関節自体に対する深い知識が要求されます。例えば、関節リウマチで生じるのは骨や軟骨の破壊だけではありません。関節周囲の軟部組織が破壊されることによる影響も把握し、考慮した上で手術を行う必要があります。しかし、これらの知識が必要なのは医師だけではありません。
リハビリテーションを行う上では理学療法士や作業療法士をはじめとしたコメディカルスタッフも、これらの知識を医師などと共有しておくことが重要となるのです。
関節リウマチにおいて特に障害されることが多い関節は中手指節関節ですが、この関節で典型的な変形は尺側変位と掌側脱臼です。このような変形に至ると、尺側にある組織は短縮し、橈側にある組織は弛緩します。また脱臼により関節掌側にある関節包が瘢痕化したり、癒着したりするケースもあります。
以上のように軟部組織同士にアンバランスが生じていた場合、弛緩した組織は縫合により短縮させる、短縮した組織は切離する、瘢痕化や癒着した組織は剥離するなどの対処が行われます。
また、関節の修復のために骨切り術が施行されているケースもあります。このように、指関節の障害に対する対処は症例によって幅広くあります。このため、リハビリテーションを行う際には目標やアプローチの方法を決定するためにも、手術中どの組織がどのように侵襲されたのかを事前に確認しておくことが重要となるのです。
また、どのような人工関節が使用されたのかを把握しておくことも、リハビリテーションを行う上では必要となります。これは、使用された人工指関節の型によって脱臼のリスクや屈曲可動域などが大きく異なるためです。人工指関節にはヒンジ型、表面置換型、シリコンスペンサー型の3つがありますが、同じ型でもメーカーによって特徴が異なる場合もあります。どのメーカーのどの型が使用されたのか、またその特徴は何かを事前に確認しておくことが必要です。

人工指関節置換術後のリハビリテーション

人工指関節置換術後は、手術直後から関節自体の機能回復やADL向上を目的としたリハビリテーションが開始されます。そしてリハビリテーションの内容は術後の経過により、目的やアプローチの方法が大きく異なります。なお、機能の回復は時期によって程度は異なりますが、術後半年頃まで続くとされています。以下では時期を追ってリハビリテーションの目的や内容についてご説明します。

①手術直後

手術直後は組織の侵襲や装具による固定により、浮腫や癒着が生じるリスクの高い時期です。また、手指の動作が阻害されるために手内在筋の短縮や滑走性の低下も生じてしまいます。
このため、手術直後は早期から浮腫や組織の癒着を防止しつつ、関節可動域の維持・拡大を目的としたリハビリテーションが行われます。手内在筋に対しても早期から筋活動を促し、筋委縮の予防をすることが必要です。このような内容は抜糸するまで、1~2週間程度続けられます。
なお、術後の屈曲拘縮が強くみられた場合、一時的に装具による伸展位固定が適応されるケースがあります。このような場合においても毎日必ず装具を外し、関節可動域訓練や浮腫防止を目的としたマッサージが必要となります。

②術後早期

抜糸が終わるころには、リハビリテーションの目的は癒着防止や関節機能の維持・向上から、関節可動域や筋力、ADLの向上へと移行します。この時期に入ると浮腫は手術直後と比較すると軽減しており、また固定も装具固定からテープ固定へと変化することから、より自由な関節運動が可能となるためです。
まず、関節可動域訓練では早期から自動運動と他動運動の両方が行われます。積極的に関節可動域の確保は図られますが、事前に使用された人工関節の特徴や手術により侵襲された組織などを把握しておく必要があります。
これは目標とする関節可動域の決定や、禁忌動作の把握のためにも重要です。例えば、手術中靭帯などの軟部組織の縫合が行われていた場合、その組織にストレスをかける関節可動域訓練は避ける必要があります。
また対象となる関節によっては、手術により伸展角度は改善されるものの、反対に屈曲動作は制限されるなどという場合もあります。このようなケースの場合は周辺関節の代償動作についても訓練を行い、見かけ上の可動域の向上やADL向上を図ることも検討されます。
なお、人工指関節置換術の適応となる症例の多くは中手指節関節の掌側脱臼を有しています。このため、関節可動域訓練の一環として掌側軟部組織のストレッチを行うことも重要です。
次にADL訓練ですが、主に失われた動作の再獲得と人工関節や軟部組織に負担をかける動作の修正が行われます。人工指関節置換術では術後手指の運動が阻害されることから、ADLとしては特にピンチ動作や巧緻動作が障害されます。このため、退院後の生活で要求される動作の練習が必要となるのです。
そしてもう一つの重要な目的が動作の修正です。対象者が術前から習慣的に行っている動作の中には、人工関節や侵襲された軟部組織にストレスのかかるものが含まれている可能性があります。
例えば重いマグカップに指をかけて片手で持つ、立ち上る際に拳で体重を支持するなどです。このような動作は退院後も無意識に行い、組織や人工関節の破損につながることも考えられます。このため関節にとってストレスの少ない動作を指導し、無意識下に行えるよう再学習を促すことが重要です。
なお、術後早期と呼ばれる期間は一般的には退院まで、術後2~3週に該当します。

③退院後のリハビリテーション

退院後は自宅退院であれば自主的なリハビリテーションが、また整形外科をはじめとした専門施設に通院する場合は、引き続き専門家のもとで定期的なリハビリテーションが行われます。
なお、自宅退院であればゴムの力を利用したダイナミックスプリントなどを用いて、積極的なリハビリテーションを継続することが重要です。ダイナミックスプリントを用いたリハビリテーションとしては、筋力増強訓練や関節の矯正を目的とした牽引などが行われます。
通院してのリハビリテーションが適応される期間はおよそ術後1か月~3か月ですが、この期間中である術後2か月前後では浮腫や瘢痕が消失し、また侵襲された組織のリモデリングが完了します。このため、術後早期のリハビリテーションと比較して大きな機能回復がみられるという特徴があります。

④リハビリテーションプログラム終了後

上述のリハビリテーションは術後3か月ごろまで積極的に行われますが、それ以降では関節可動域は安定します。
しかし、3か月以降はリハビリテーションが完全に終了するということではありません。関節可動域こそ改善は見られにくいのですが、手指筋力や巧緻動作などといった機能は術後半年程度まではゆっくりとでも向上する傾向にあります。
このため、リハビリテーション終了後も自主トレーニングを行ったり、また日常生活内でも積極的に手指の運動を行ったりすることが推奨されています。
この記事は、Jpn J Rehabil Med 2017;54:191-194の記事を参考にして理学療法士が執筆しています。

人工肘関節置換術後のリハビリテーション

置換術の適応

肘関節はADLと呼ばれる日常生活動作や、IADLと呼ばれる手段的日常生活動作の中で特に多く運動する関節の1つです。例えば、高いところのものを取ったり、着替えをしたりする時などは肘関節が十分に伸展する必要がありますし、食事や家事動作を円滑に行うためには肘関節が十分に屈曲する必要があります。
このように肘関節には高い可動性が求められますが、重要なのは可動性だけではありません。肘関節の動作性はADLやIADLのみならず巧緻動作にも大きな影響を与えるため、正確な動作を行うためにも関節の高い安定性が要求されます。
また、日常的に使用される頻度の高い関節であることもあり、痛み無く動作を行うことのできる無痛性も重要な要素となっています。
このように肘関節には高い可動性、安定性、無痛性が求められます。そしてこれらの要素が侵されるとADLやIADLが障害され、日常生活を快適に送ることが困難となってしまいます。このため、可動性、安定性、無痛性が侵される疾患では人工肘関節置換術(total elbow arthroplasty:TEA)の適応となることがあります。
特にTEAの対応となる頻度が高いのは、関節リウマチです。関節リウマチでは骨や関節が破壊されてしまうため痛みを伴いますし、骨や関節の破壊や異常な癒合などにより関節は異常な可動性を持ってしまったり、不動と呼ばれる関節が全く動かない状態に陥ってしまったりします。
このように、関節リウマチは関節可動性、安定性、無痛性のすべてを侵す疾患ということになります。このためレントゲン上でも関節破壊が認められるほどに病態が進行したケースでは、TEAが適応されることが多くあるのです。

使用される人工肘関節の種類とその特徴

TEAで使用される人工肘関節は、コンポーネントと呼ばれる関節面に使用される部品の特徴により表面置換型と半拘束型の2種類に分類されます。それぞれの人工肘関節はその特徴により、適応となる疾患も大きく異なります。

①表面置換型人工肘関節

表面置換型人工肘関節は上腕骨コンポーネントと尺骨コンポーネントの間が連結しておらず、TEA後の関節は解剖学的な肘関節とほぼ同じ構成となります。表面置換型では人工関節自体の安定性が乏しいというデメリットがあり、通常の肘関節と同様、筋や靭帯をはじめとした肘関節周囲の軟部組織により安定性を得る必要があります。
このため表面置換型は骨欠損が少なく、軟部組織の機能がある程度残存している症例に適応されます。しかし関節同士の連結が無く安定性に乏しい一方、拘束性が低いため関節自体が動作により緩みにくいというメリットがあります。軟部組織の安定性が要求されるものの、手術をやり直すリスクが少ないという特徴から日本では表面置換型がTEAで多く適応されています。 
なお、表面置換型を使用する手術では後方アプローチという方法が選択されます。この術式では上腕三頭筋や内側側副靭帯が侵襲されるため、術後は関節安定性を高めるために侵襲された軟部組織の修復が重要となります。リハビリテーションにおいては関節可動域の拡大とともに、侵襲された筋の筋力強化も必要です。

②半拘束型人工肘関節

半拘束型では上腕骨コンポーネントに尺骨コンポーネントが刺し込まれるような形で結合しています。結合している蝶番部分には少し余裕が持たされており、表面置換型とは異なり関節自体が高い安定性を持つというメリットがあります。
このため、骨破壊が進んだ症例や、軟部組織による安定性の確保が困難である症例でも適応可能です。ただし関節自体の安定性ということは、肘関節の運動をするごとに関節自体にストレスがかかってしまうということです。このストレスにより半拘束型は関節に緩みが生じやすい、というデメリットを持ち合わせています。

TEAに関するリハビリテーション

①目標

まずTEA後のリハビリテーションを行うに当たり、目標を明確化し、確認する必要があります。この目標とは、解剖学的な参考可動域ではありません。なぜならADLやIADLを行うためには、必ずしも全可動域にわたって肘関節を動かせる必要が無いからです。
一般的に生活内で必要とされる肘関節の可動域は、屈曲で120~130°、伸展で-40°、回内外ではそれぞれ50°とされています。このように参考可動域全域での運動が出来なくても生活動作の遂行は可能です。このためTEA術後のリハビリテーションは基本的に、前述の通り肘関節屈曲120~130°、伸展-40°、回内外50°を目標として進められます。
ただし、生活内で必要とされる動作により目標可動域は異なります。例えば、携帯電話を耳に当てるためには肘関節屈曲130°が必要ですし、タイピングには前腕回内65°が必要です。このように必要とされる可動域は患者の生活スタイルにより大きく異なるため、目標は画一的ではなく臨機応変に変化させることが重要です。
なお、適応数の多い表面置換型ですが、術後は10~20°程度の伸展制限が生じるケースが多くなっています。このため、伸展制限があるという前提を念頭に置いた目標設定も必要となります。

②TEAの準備

 TEAでは手術前からリハビリテーションが開始されます。術前リハビリテーションでは理学療法評価を中心に進めていきます。これは手術の準備としての意義も大きくありますが、術後のリハビリテーションを円滑に進めるための情報収集という意味合いも持ち合わせています。
術前評価としてはまず問診が行われます。具体的に聴取する内容はTEAを受けることになった原因、どのような動作ができないことで日常生活に支障をきたしているのかなどです。これらの情報は病状の把握とともに、リハビリテーションの目標を立てるためにも必要となります。
次に身体機能を把握するため、ROMをはじめ筋力や疼痛、関節動揺性、日常生活動作状況などが評価されます。なお、TEAの適応となる代表疾患関節リウマチでは肩関節回旋拘縮を生じている症例があります。この拘縮は肘関節に内外旋ストレスを与えるため、肘関節はもちろんのこと肩関節の評価、動作性の改善も術前に行う必要があります。
そして肘関節周囲の疾患で注意すべきなのが尺骨神経麻痺です。肘関節の障害により尺骨神経まで損傷されているケースもあるため、筋力評価や感覚検査などにより神経症状が見られていないかを把握する必要があります。
また、リハビリテーションを始めるにあたりTEA後はどの範囲の動作まで可能となるのか、どの動作に困難さが残るのかを伝えることも重要です。

③術後のリハビリテーション

リハビリテーションは手術翌日から開始される場合が多いです。はじめは関節運動を伴わない愛護的な内容ですが、徐々に関節可動域訓練や筋力トレーニング、日常生活動作訓練が開始されます。以下では術後のリハビリテーションの内容について、時系列的にご紹介します。なお、回復過程などには個人差が大きくあるため、病期にこだわらず柔軟に対応する必要があります。

(1)手術翌日から術後2周

手術直後は安静期間であることから、外固定が施されています。この期間中は肘関節自体の動作ができないため、肘関節周囲の浮腫や周辺関節の拘縮を予防することを目的としたアプローチが行われます。
浮腫予防としては時間を明確に決めた上で上肢を高く上げておくこと、周辺関節の拘縮予防としては、主に肩関節が固定により内転・内旋位で拘縮することを避けるため日中は中間位で保持しておくなどのポジショニングが行われます。
なお、肩関節の内転・内旋拘縮は人工肘関節に内反ストレスをかける原因ともなるため、周辺関節の中でも特に拘縮予防が重要である関節となっています。また、患側肩関節に限らず患側の関節は運動する機会が減ってしまうため、浮腫や拘縮を予防するために手指の握り動作などで意識的に運動する必要があります。

(2)術後2~3週

この時期では日常生活内においては外固定が必要ですが、リハビリテーション時に限り固定装具を外すことができます。リハビリテーション開始に先立ち、皮膚異常がないかの確認を行います。また、浮腫や関節拘縮予防を目的としたリラクセーションやマッサージが必要です。これらには関節可動域訓練時の防御収縮を防止する意義もあります。
この時期から関節可動域訓練を開始しますが、初めはなるべく愛護的なアプローチにするため背臥位で、自身の上肢の重さを利用した自動介助運動が選択されます。前腕回内外運動に対しては遠位橈尺関節と骨間膜に対する関節モビライゼーションを自動介助にて行います。
このとき、関節可動域の獲得よりも重要視されるのが関節の安定性です。関節に緩みが確認された際には可動域訓練よりも、周辺組織の安定性向上を目的としたより慎重なアプローチを行う必要があります。
筋力トレーニングは手関節周囲筋から始められます。これは手関節掌背屈に作用する筋が上腕骨内外側上顆に付着することから、筋力向上が肘関節安定性向上に寄与するためです。この場合でもこれまで活動が制限されていた筋肉に過剰なストレスがかかり損傷を引き起こさないよう、低負荷で愛護的な内容から実施されます。

(3)術後3~4週

この時期では装具による固定は夜間のみとなり、日中は装具を外すことが許可されます。そして筋力トレーニングも肘関節の自動運動も重力の影響を受けない側臥位や、上肢をテーブルなどに乗せた肢位などから開始されます。関節可動域訓練も他動運動にて積極的に行われるようになりますが、可動域の獲得が順調であったり、反対に関節が緩んでしまっていたりする場合もあります。この場合は関節の運動角度を調整することのできるヒンジ付き装具という装具を用い、可動域の調整を行うこともあります。
なお、組織の修復や関節可動域の獲得の程度は症例により大きく異なります。このため、担当医師との情報交換やカンファレンスによりリハビリテーションの目標や方針を改めて決定、確認することが必要となります。

(4)術後4週~2か月

この時期からは筋力トレーニングの負荷を徐々に増やしていきます。また、運動方式も壁や机に手をついた状態で行う関節を安定させたものから、手をどこにもつかないで行う、より日常的な動作に近いものへと変化していきます。これに伴い食事や整容等の手を使うADL動作も可能となります。この時、肘関節に内反ストレスをかけないよう、前腕回内位で動作を行うよう指導することが必要です。
筋力トレーニングの負荷の増やし方ですが、例えば肘関節伸展運動では最初に重力を負荷として使います。やり方は様々ありますが、肩関節をある程度外転させ、そこで肘関節を伸展、保持することにより肘関節伸展筋の筋力トレーニングとなります。この外転角度を拡大するだけでも負荷を増やすことができます。そしてこのようなトレーニングに慣れてきたら、徐々に自動運動や抵抗を用いたトレーニングへと移行していきます。
次に肘関節屈曲運動では関節の角度を変えずに行う、等尺性収縮を行います。この収縮様式のやり方は、例えばテーブルなどに肘を付き、肘関節を屈曲させた状態を保持するなどです。この場合負荷は肘関節の角度を変えたり、手にダンベルなど重錘を持ったりすることなどで調整することができます。

(5)術後2~3か月

この時期では肘関節の安定性向上にも寄与する、肘関節伸展筋群の筋力トレーニングを積極的に行っていきます。しかし、この時期においても肘関節に内反ストレスをかけないよう注意が必要です。
日常生活内において内反ストレスを与える動作とは、例えば重い調理器具などを持ち上げることなどです。このように過剰な負荷がかかる動作についてはリハビリテーション終了後も行わないようにするよう指導し、また生活スタイルによっては自助具の使用も検討していきます。

(6)術後3か月以降

この時期以降では関節周囲の軟部組織による安定性も向上してきます。このため肘関節に過剰に負荷をかける運動でなければ、痛みの無い範囲で行うことが可能となります。過剰な負荷の目安は、物であれば4~5㎏以上、動作であれば手で体を支えることなどです。術後2~3か月では使用できなかった調理器具なども、比較的軽いものであれば使用することができるようになります。
このようにTEAで痛み無く安定した運動が行えるようになっても、実施困難となる動作があります。このためTEA後の上肢でどこまでの動作が可能なのかを指導し、またどちらの上肢でどの動作を行うかなどの役割分担も検討することが重要です。
上記はJpn J Rehabil Med 2017;54:186-190を参照にした記事です。

人工肩関節置換術後のリハビリテーション

解剖学的人工肩関節の概要

変形性肩関節症患者に対して行われる術式の1つである解剖学的人工肩関節置換術(anatomic total shoulder arthroplasty:aTSA)では、肩関節の解剖学的構造と同様、骨頭を上腕骨側に、関節窩コンポーネントという部品を肩甲骨側に設置します。この術式は腱板の機能が正常である症例であった場合、5年生存率が98%、10年生存率が96%、20年生存率が84%という非常に高い安定性を誇ります。しかし、変形性肩関節症自体が修復不能なほど重度な腱板断裂に起因して生じている場合、aTSAは禁忌となります。これは腱板の持つ働きに関係があります。
腱板とは肩関節の安定性に寄与するインナーマッスルの総称で、上腕骨頭を関節窩の方へ引き寄せる働きがあります。しかし、腱板断裂などでその働きが損なわれてしまうと、上腕骨頭を関節窩の方に引き寄せておくことができなくなってしまい、上肢を挙上した際に骨頭が頭側へ移動してしまいます。この状態で解剖学的人工肩関節を入れた場合、上腕骨は関節窩コンポーネントを木馬のようにゆらゆらと揺らす作用を持ってしまいます。
このようなストレスがかかり続けることで人工関節には早い段階で緩みが生じてしまうので、重度な腱板断裂に起因する症例ではaTSAは禁忌となっているのです。しかし、このような症例の場合は人工骨頭置換術を行っても予後はよくありません。この術式を選択した場合、関節窩を残すことに起因する疼痛が後遺症として生じてしまうのです。
このように、重度な腱板断裂に起因する変形性関節症患者に対する有効な手術が無い、という状況が日本では長年続いていました。しかし、2014年に日本でも反転型人工肩関節が導入されたことにより、状況は好転しました。

反転型人工肩関節の概要

反転型人工肩関節(reverse total shoulder prosthesis)とはフランスで開発された人工関節で、他の先進国から遅れる形で2014年に日本でも導入されました。これにより、日本でも反転型人工肩関節置換術(reverse total shoulder arthroplasty:rTSA)が行えるようになったのです。
この術式は、欧米では「奇跡の術式」とまで称されています。また、日本においてはrTSAの適応となる腱板断裂性肩関節症の症例数が多かったこともあり、導入されると2015年の1年間で変形性肩関症に対して実施されたrTSAの症例数は、aTSAのおよそ3倍にも上りました。では、欧米では奇跡と呼ばれ、日本でもこれほど歓迎、施行されたrTSAの特徴とはどのようなものなのでしょうか。
まず、rTSAが奇跡の術式と呼ばれるようになった所以は、腱板断裂性肩関節症のように骨頭を引き寄せることができず上肢挙上が困難となった症例や、三角筋の筋力不足により偽性麻痺肩を呈した症例であっても、上肢を容易に挙上できるようになるということです。これは反転型人工肩関節の特徴的な構造に起因します。
 反転型人工肩関節では通常の関節や解剖学的人工肩関節とは反対に、骨頭となる部品が関節窩側に設置されます。これにより関節窩側が凸、上腕骨側が凹となり、関節面と外転運動の回転軸が内側かつ下方に移動することになります。すると筋の作用線と支点の距離が離れるため、モーメントアームもこの場合だと約70%長くなります。
てこの原理により長くなったモーメントアームの分発揮される外転筋力も増加するため、より少ない力でも上肢の挙上が可能となるのです。また、運動側が凹となるため、運動により人工関節が早期から緩むこともありません。これがrTSAの最大の特徴であり、日本でも歓迎された要因の1つです。しかし、日本で導入されてすぐに症例数が伸びたのには他にも理由があります。
日本で反転型人工関節が早期に取り入れられたその他の要因として、日本整形外科学会が作成したガイドライン準拠すれば、治験なしでも手術に導入できたという点が挙げられます。しかし、導入当時のガイドラインではrTSAの適応は腱板断裂性肩関節症に起因する偽性麻痺肩であること、そして70歳以上の高齢者に限るとされていました。
これではrTSAでしか対応できない70歳未満の症例では手術を行うことができません。このため、現在では臨床の実情に見合うようにガイドラインの改訂作業も行われています。また、三角筋機能不全に起因している症例では、手術により自動挙上100°以上にできる場合に限り適応しても良いのではないかという議論も行われています。ただし、いずれの場合においても一時修復が可能な軽度の腱板断裂については適応外となります。
なお、変形性肩関節症に対する術式の中にはbony increased offset(BIO)というものもあります。これは骨頭から関節窩への骨移植を伴う方法です。BIOは関節窩がコンポーネントの設置が困難なほど破壊された、 特殊な症例に適応されます。この術式でも、関節窩コンポーネントの設置位置を外側へ移動させることができます。

人工肩関節術後リハビリテーション

人工肩関節術後のリハビリテーションを行う際には、まず脱臼を防止するために脱臼肢位についてしっかりと把握するようにしましょう。また、aTSAとrTSAにはそれぞれデメリットがあります。このため、リハビリテーションではそのデメリットを避けるように配慮し、さらに解消するようにアプローチしていくことになります。以下ではそれぞれの術式の特徴とアプローチ方法についてご説明します。

解剖学的人工肩関節術後のリハビリテーション

aTSAの脱臼肢位は肩関節外旋位であるため、この肢位をとることは禁忌となります。また、aTSA後は拘縮を生じやすいという特徴を持ち合わせていることから、拘縮予防と可動域向上がリハビリテーションの主な目的となります。以下では時期によって異なるアプローチの内容を、相に分けて説明します。
第1相は術後4週目までの時期で、愛護的な介入を行います。まず、三角巾で患肢の安静を保ち、修復したばかりの肩甲下筋にストレスをかけないようにするため30°以上の肩関節外旋を禁忌とします。そしてこの時期に行うことは、創部のアイシングと低負荷な関節運動です。アイシングは1回15分、1日4~5回程度行います。また、関節運動は背臥位での自動介助運動や肩甲骨内転運動、コッドマン体操(振り子体操)等、術後の肩甲上腕関節へのストレスが極力少ないものが選択されます。
肩関節の他動可動域が屈曲90°、外旋30°、内旋70°に到達すると、第2相へ移行します。この相は、術後4~6週に相当します。第1層までは他動運動をはじめとした愛護的な可動域訓練が中心でしたが、第2相からは自動での関節可動域訓練も追加で開始します。
そして、自動運動にて肩関節屈曲140°、外旋60°に到達すると第3相となります。この相は、術後6~12週に相当します。この時期からは関節可動域訓練に加えて、肩関節周囲筋群の筋力増強訓練も開始します。
最後におよそ術後12週以降、自動運動にて肩関節屈曲160°を獲得すると最終相である第4相へと移行します。この相では獲得した関節可動域を維持しつつ、さらなる筋力増強を図るためのアプローチを行います。そして、徐々にスポーツ復帰することも可能となります。
なお、完全なスポーツ復帰は4~6か月後となりますが、リハビリテーションが終了しても人工関節に過度なストレスを与えるスポーツは控えるように指導する必要があります。

反転型人工肩関節術後のリハビリテーション

rTSA後は特に脱臼に配慮しながら介入する必要があります。rTSAでは肩関節伸展・内旋位が脱臼肢位となります。このため結帯動作と呼ばれる下着やエプロンをつけたり、背中の方へ手を回したりする動作は、術後3か月まで禁忌となることを指導する必要があります。そして、主な介入目的は三角筋の機能向上となります。
まず、術後6週までは第1相と呼ばれ、この時期は愛護的な関節可動域訓練と筋力増強訓練を行います。特に術後3~4週までは軽度外転装具を使用し、三角筋の過緊張を防止します。外転装具を使用するのは手術により患肢長が伸びることから、肩関節を30°程度外転させて三角筋へのストレスを軽減させるためです。
疼痛予防にはaTSA後と同様の方法のアイシングが適用されます。三角筋と肩甲骨周囲筋群の筋力増強訓練は術後4日目から開始し、ストレスの少ない等尺性運動を行います。なお、術後3週までの目標は他動的な肩関節屈曲120°、外旋30°です。内旋運動は第2相まで禁忌となります。
次は術後6~12週に相当する第2相です。この時期から自動運動による筋力増強訓練を開始しますが、三角筋の過緊張に起因する肩峰疲労骨折を防止するため、疼痛の出ない範囲で運動することを原則とします。なお、運動姿勢は背臥位、座位、立位と徐々に変化させていきます。
術後12~16週で第3相となり、積極的に関節可動域向上を図る段階になります。なお、第3相までの筋力増強訓練は等尺性運動のみで、等張性運動は次の第4相から開始されます。]
術後16週以降は第4相となり、肩関節屈曲120°、外旋30°が目標となります。また、等張性運動による筋力増強訓練も可能となりますが、第1相と同様に肩峰疲労骨折の防止に努める必要があります。このため、動作は緩徐に行う、荷重負荷は5㎏までとする、という注意点を守ることが重要です。
以上が反転型人工肩関節術後のリハビリテーションの進め方ですが、この術式は残存している肩関節外旋筋力の程度により予後が大きく異なります。具体的には肩関節外旋可動域が自動時と他動時で40°以上の差がある場合、リハビリテーション終了後も日常生活動作に制限が残ります。このため、リハビリテーション開始前に後遺症について十分に説明する必要があります。なお、このような症例の場合は広背筋移行術などを併用して腱板機能をカバーする方法が検討されます。

人工股関節置換術を行った方に対するリハビリテーション

人工股関節置換術を行った方に対するリハビリテーション

人工股関節置換術をはじめとした外科的手術を必要とする疾患を持つ方には、術前術後のリハビリテーションが適応される場合が多くあります。その目的は立つ、座る、歩くといった基本的動作能力の維持・向上です。
これらの目的を達成するため、運動療法を中心としたリハビリテーションによる筋力、持久力の維持・向上が図られます。しかし、一口に運動療法を行うといっても、患者様の身体状況や年齢などによって内容は異なります。今回は人工股関節置換術の適応となる場合の多い、高齢者に適した運動プログラムについて説明します。

高齢者の身体的特徴と運動療法の基礎事項

高齢者は運動しても筋肉はつかないと考えられがちですが、若年者と比較してゆっくりではあっても筋力の向上や筋肥大は可能です。しかし、ただ筋力向上だけを目指した運動をすればよいわけではありません。高齢者の身体的特徴と運動療法の基礎事項について押さえた上でプログラムを立案することが重要です。

高齢者の身体的特徴

まず、高齢者は一般的に加齢による筋力低下がみられます。この傾向は下肢にて顕著にみられます。下肢筋力は30代から徐々に減少が見られ始め、80代になる頃には20代の頃のおよそ半分にまで低下してしまうとされています。
このため、運動療法による筋力維持の重要性は高いのですが、若年者と同様のプログラムを行ってしまうと過負荷となってしまい、身体構造の破綻を招いてしまう可能性があるのです。そして、関節や筋肉、骨だけではなく循環器系への影響も十分に考慮することが必要となります。
このため、体に負担をかけないよう、適切な負荷の運動をゆっくりと行うプログラムを立案し、また患者自身にも運動の注意点を把握してもらうことが重要です。

運動療法の基礎事項

運動療法の中の1つである筋力トレーニングには運動効果を上げるための原則があります。まず、過負荷の原則です。筋力トレーニングは軽い負荷では効果が上がりにくいため、少し強めの負荷が用いられます。
ここでいう負荷とは運動の強さだけでなく、運動の頻度も含まれます。筋力増強効果を望むためには、最低でも最大筋力の60~65%の強度が必要であり、通常は4回から10回反復できる程度の強度が適切であるとされています。
頻度は週2~3回が適当であるとされています。これはトレーニングによる筋の回復と成長に要する時間から算出されています。トレーニングにより、筋は損傷しますが、この筋の損傷が回復することにより筋は成長します。このため、筋の損傷から回復が完了するまでの時間、約48時間を筋力トレーニングの休止期間として設けることが推奨されています。これが、筋力トレーニングの頻度が2~3回が良いとされている理由です。
次に、特異性の原則です。これは、脚力を向上させたければ、目的に合わせた筋肉をピックアップし、そこにアプローチをする必要があるというものです。 最後にプログラムの多様化です。運動療法はただ特定の、単一の筋にアプローチするだけでは不十分です。同じ内容のトレーニングを続けるのではなく、筋力や目標とする生活動作に合わせ、臨機応変にプログラムを変更、改善する必要があります。
ここまで運動療法の基礎事項について触れましたが、同じ筋力トレーニングでも筋の使い方、収縮様式によって効果に違いが出ます。筋の収縮様式には等尺性収縮、等張性収縮、等運動性収縮の3つがあります。
このうち等尺性収縮は関節運動を伴わないため、この収縮様式を利用したトレーニングは静的トレーニングと呼ばれています。これは関節への負担を抑える必要がある疾患、例えば関節リウマチを罹患している方などに適応されます。さらに特定の筋に対する筋力増強効果が高いこと、毎日実施した方が効果的であることなどの特徴も持ち合わせています。次に等張性収縮と等運動性収縮は関節運動を伴うため、動的トレーニングと呼ばれています。この中でも等運動性収縮は全可動域において一定の筋出力が得られるため、より高い筋力増強効果が得られるとされています。
ダンベルなどを使用した複合的な運動であれば、筋の協調性を向上させる効果があるというメリットもあります。しかし、特定の筋の、厳密な意味での等運動性収縮を得ようとすると特殊なトレーニングマシーンが必要となるため、個人や臨床においては行いにくいというデメリットも持ち合わせています。このように筋力トレーニングと言っても収縮様式を変えるだけで得られる効果には違いが出ます。このため、目的に合わせた運動方法を選択することも重要です。

人工股関節置換術後に施行されるリハビリテーション

ここまではリハビリテーションにおける基礎事項について説明してきましたが、ここからは人工股関節置換術後に行われるリハビリテーションの具体的な内容についてご説明します。
まず歩行訓練についてですが、人工股関節置換術の場合、例外を除き手術直後から荷重制限はありません。全荷重可能であるため、手術翌日から杖等を使用しての歩行練習を開始することができます。
次に、筋力増強訓練についてです。ここで対象となる筋は股関節周囲筋群だけではありません。膝関節や足関節周囲筋にも同時にアプローチすることが効果的であるとされているため、できる限り総合的な下肢筋力トレーニングが行われます。その中でも大腿四頭筋の筋力訓練がメインで行われますが、拮抗筋であるハムストリングスの筋力訓練も同時に行うことで運動効果は向上するとされています。なお、収縮様式は等尺性収縮が推奨されています。これらの条件を踏まえた大腿四頭筋に対するトレーニングの中でも、代表的なもの3つを以下でご紹介します。

①セッティング

 背臥位、または膝を伸展させた状態の座位で膝の下にタオルを挟み、それを膝で押しつぶすように力を入れてもらいます。これにより膝関節伸展位が保持され、大腿四頭筋の持続的な等尺性収縮を得ることができます。

②SLR(Straight Leg Raising)

 トレーニングする側の膝関節を伸展させたまま、下肢を挙上します。この時反対側の膝を立てておくことで、挙上の目安にすることができます。この方法では大腿四頭筋の遠心性収縮(筋が伸ばされながら筋力が発揮される収縮様式)と求心性収縮(筋が縮みながら筋力が発揮される収縮様式)の両方のトレーニング効果が得られます。また、腸腰筋の筋力トレーニング効果もあります。

③座位での膝関節伸展運動

 椅子に座り、片脚の膝関節伸展位を保持します。この時両側同時に行うと腰椎への負担が増強してしまい、腰痛を誘発する危険性があります。このため、片脚ずつ動作を行う必要があります。
以上の筋力トレーニングの強度や頻度は、運動療法の基礎事項でご説明したとおり患者の年齢や術前の身体機能によって異なります。このため、患者の身体状況を正確に把握したうえで運動プログラムを立案、実施することが必要です。

易疲労性(いひろうせい)とは

易疲労性(いひろうせい)とは

脳梗塞や脳出血などで脳が損傷されると、疲れやすくなる方が多いです。
その症状のことを易疲労性(いひろうせい)と言います。
なぜ脳が損傷される疲れやすくなかというと、脳の神経は、新しい行動を学習するときは活発に働きますが、いったん学習して、脳の中で神経回路ができてしまえば、最初のように活発でなくても省エネモードで行動を起こすことができるようになります。
脳梗塞や脳出血などで脳が損傷されてしまうと、その作り上げた回路が寸断されて、使えなくなってしまうのです。
そのため、以前は余力を残し8割の力でできたことが、全力以上の力を出さなくては、同じことができなくなってしまいます。
常に全力で頑張っていては、やはり疲れやすくなるのは当然のことです。
対応としては、疲労しすぎてしまう前に、早めに疲労のサインに気づいて、こまめに休憩をとったり、本人の好きなことを行いリフレッシュできるようにする等、工夫すると良いでしょう。

錯語(失語症の症状)

錯語(失語症の症状)

喚語障害の一つで、目標とする語が推定出来る程度の音の誤り、あるいは語の誤りの総称です。

音韻性錯語

例えば、「りんご」と言おうとしたのにもかかわらず「にんご」と音の一部を誤った場合を音韻性錯語あるいは、字性錯語と言います。

語性錯語

例えば、「ねこ」と言おうとしたのにもかかわらず「いぬ」や「とけい」など別に実在する日本語に誤った場合を語性錯語と言います。 「ねこ」を「いぬ」と意味関連性のある言葉と誤った語性錯語を[意味性錯語]といいます。 また、「ねこ」を「とけい」と全く違ったカテゴリーと誤ったものを[無関連錯語]といいます。

注意したい点

ここで注意したいのが、音韻性錯語です。音韻性錯語の名称からは、その誤りの性質が音韻の選択にあることを示唆していますが、実際は発話された結果から判断せざるを得ないため、音韻選択の時点では正しく選択できたものの、構音プログラムの段階での音の置換や付加、省略など発語失行による音の誤りが生じても区別することが難しいことです。
音韻性錯語と発語失行の特徴は下記を参考下さい。

失読失書 alexia with agraphia

失読失書 alexia with agraphia

失読と失書が1つの病巣(主に左角回病巣)によって同時に生じたものをいいます。
失読失書での、読みは、音読と理解の両方が障害されます。
日本語では、仮名、漢字ともに読みが障害されます。
漢字の読みが比較的良好な症例も報告されていますが、多数例でみると仮名と漢字の読みに差がないという批判があります。
なぞり読みの効果はありません。
書字障害の程度は、失読と平行するとも言われていますが、症例によっていずれかが強く現れる場合や、回復の程度が異なる場合があります。
失書は、左右の手に現れます。 日本語では、漢字では、想起困難と錯書がみられ、仮名では、個々の文字が書けない場合と、仮名を多用するが文字選択の誤り(錯書)が明らかな場合の両者が起こります。
また、経過とともに仮名書字が可能となる傾向がみられます。
字形態の崩れは少ないといわれています。 写字能力については、今日では写字能力は保存されている点がむしろ特徴と考えられています。 患者は文字を認知した上で、自分の字体による書き下しが可能であり、正しい筆順で流暢に書き写すことができます。
失読失書は、多少なりとも呼称障害あるいは喚語困難を伴います。
また、流暢性失語を伴う場合や、流暢性失語が改善して失読失書が明らかとなる場合があります。
病巣が前方へ伸展すると失語性要因が加わりますが、縁上回方向では伝導失語、側頭葉上部方向ではウェルニッケ失語が加わる傾向があります。
そのほかに、失書に失算、手指失認、左右失認が加わって、いわゆるゲルストマン症候群を構成する場合がありますが、失読はこの症候群には含まれていません。
病巣は、左半球の角回付近と考えられ、中大脳動脈の分枝である角回動脈領域の梗塞で起こることが多いといわれています。
角回の損傷であっても失読失書が必発とは限りません。なお、側頭葉後部ないしは後下部病巣による失読失書も報告されています。