骨折に関する基礎事項について





1、骨折の概要

骨折とは骨に強い外力がかかることによって完全に、または部分的に連続性が断たれた 状態のことを指します。中でも折れた骨が皮膚を突き破ってしまった状態の骨折は開放骨折、または綺麗に2つに折れてしまっている場合であっても複雑骨折と呼ばれます。骨折後は骨折部周囲の疼痛や腫脹、機能障害などといった骨折そのものに起因する症状が診られますが、そのほかにも感染や神経損傷などをはじめとした合併症を生じるケースもあるため注意が必要です。骨折後は骨折部位により異なりますが、おおむね2週間から12週間で癒合が完了するとされています。なお、横方向への骨折は治癒しやすく、縦方向への骨折やらせん骨折、粉砕骨折では治癒しにくくなっています。

2、骨折の評価

骨折後の評価は画像診断と臨床検査の両方を行い、構造的な変化や動作への影響などを評価して治療やリハビリテーションに活かす必要があります。

〇画像診断

画像診断では主にX線画像が用いられており、骨病変の診断に特に有用であるとされています。画像は一般的に前額面と呼ばれる正面から撮影されたものと、矢状面と呼ばれる側面から撮影されたものが用いられます。X線画像からは転位や脱臼の有無や骨癒合の進行具合、骨折線の所在などを診断することができます。 なお、大腿骨内側骨折の場合は転位の程度についてGarden分類という診断基準が設けられています。これはStageⅠからStageⅣまでに分類されており、StageⅠは不全骨折、StageⅡ~Ⅳでは完全骨折となっています。なお、StageⅡから順に転位なし、部分転位、完全転位とStageが進むにつれて重症ということになります。StageⅢ、Ⅳ程度までなると人工骨頭置換術が必要です。

〇臨床検査

・形態計測

形態計測ではまず、周径計測により骨折部周囲の腫脹の有無や程度を確認します。また、骨折後は固定や不動などにより筋委縮が生じることがあるため、筋委縮の程度を評価します。なお、回復後の筋肥大の程度を確認するためにも定期的に計測することも重要です。 次に長径を測定します。骨折では関節拘縮による可動域制限や骨転位などにより脚長差が生じる場合があります。脚長差は3cm以上になると跛行の原因となるため、リハビリテーションの計画立案や補装具の使用の検討、リスク管理のためにも検査項目となります。

・関節可動域検査

関節可動域制限や異常可動域、拘縮の有無について確認します。なお、固定部位を考慮して測定する必要があります。

・徒手筋力低下

骨折部周囲の関節に関連する筋では安静やギプス固定などによって廃用性筋委縮が生じやすくなっているため、筋力低下の有無や程度について確認します。

・日常生活動作に関する評価

骨折後は荷重制限や疼痛、関節可動域制限などにより行える日常生活動作の範囲に変化が生じます。このため受傷前にはどこまでの動作を行うことができたかを問診し、受傷後にその中のどのような動作が困難になっているのかを評価することが重要です。

3、骨折後の症状

骨折後にみられる症状は骨折部の周囲に生じる局所症状と、主に開放骨折に伴ってみられる全身症状の2つに分類されます。

〇局所症状

骨折後は炎症の四主徴(発赤、発熱、腫脹、疼痛)に準じた機能障害を伴うことが多くなっています。

・疼痛

骨折部では周辺組織の損傷も伴うため、炎症反応がみられます。このため激しい運動痛や圧痛、そして何もしていなくても生じる自発痛もみられるようになります。

・腫脹

骨折により骨髄や骨膜、周辺組織が損傷すると、出血や炎症症状により発熱や熱感を伴った腫脹が生じます。なお、骨折後に生じる腫脹には大量のたんぱく質が含まれており、繊維素も多くなっています。このため結合組織の増殖を招きやすく、関節拘縮を誘発する原因ともなってしまいます。

・変形による機能障害

骨折した骨がずれた状態で癒合してしまうと、骨折部周囲の変形が生じます。これにより本来の関節運動が行えなくなってしまい、関節可動域制限の誘因となります。

・異常可動性

上記の変形の場合とは逆に、骨癒合が途中で停止してしまうと偽関節という状態になり、関節が通常より大きく動く異常可動性を有してしまうこともあります。

・礫音

関節運動の際に骨折部分や変形した部分がこすれることで、ギシギシとした音を感じることがあります。なお耳で聞き取ることはできず、手で触れることでわかる程度の軽微なものがほとんどです。

〇全身症状

開放骨折では多量な出血を伴う場合があります。この場合は激しい疼痛や出血によりショック症状が生じてしまい、頻脈や頻呼吸、脈圧の減少などがみられることがあります。 なお、骨折自体が軽微な物であっても骨折の原因となった四肢への圧迫が長時間にわたった場合、急性腎不全や心不全を引き起こす挫滅症候群を発症する危険性もあるため注意が必要です。

4、骨折時の合併症

骨折後は様々な合併症が生じる場合があります。合併症は骨折直後から生じる感染や血管、神経損傷などの急性期症状と骨折の治癒段階で生じる慢性期症状の2つに分類されます。

〇急性期合併症

①皮膚軟部組織の損傷と感染、外傷性ショック

皮膚損傷を伴う開放骨折である場合、傷口から菌が軟部組織や骨内に入り込んで感染を引き起こします。なお、骨内に菌が侵入した場合には骨髄炎を生じることもあります。そして骨折時に大量の出血を伴った場合は顔面蒼白や頻脈、血圧低下、意識障害などを生じる外傷性ショックも発症するリスクがあります。

②血管損傷と神経損傷

血管損傷は重篤な症状となり、生死に関与する場合もあるため骨折に対する治療よりも優先して治療が行われます。なお、臨床的には血管損傷が生じている場合、末梢神経損傷が生じていることが多いと認識されています。神経損傷は骨折に伴って生じる橈骨神経損傷や坐骨神経損傷が多く、麻痺や感覚障害などの後遺症が残ります。

③脂肪塞栓

骨折後に骨中に含まれる脂肪の栓子が流出することで肺や心臓などに詰まり、塞栓を生じた状態です。下肢の骨折で生じることが多く、呼吸器症状や脳神経障害など重篤な症状につながります。

④内臓損傷

骨折した骨は周囲の臓器を損傷する場合があります。例えば骨盤輪骨折では膀胱などの内臓や尿道の損傷、肋骨損傷では肺を損傷し、外傷性の気胸や血胸を引き起こす可能性があります。

⑤循環障害

骨折により循環障害が生じると、関節可動性などにも障害を生じることがあります。以下では特に症状が重く、代表的な2つの疾患についてご紹介します。
・急性コンパートメント症候群
コンパートメントとは区画の事で、四肢の骨と筋膜によって構成されています。骨折などにより区画内に出血や浮腫が生じると区画内圧が上昇し、筋や神経に血流障害が生じて壊死を引き起こす重篤な合併症です。筋は壊死を起こすと自然治癒せずに最終的には瘢痕化し、拘縮の誘因となります。このためコンパートメント症候群の兆候が疑われた場合には早期に筋膜切開が必要で、また発症予防のためには受傷後すぐにはギプス固定を行わないなどの対処をする必要があります。臨床でわかりやすい症状としては冷感、蒼白、脈がとりにくくなる、痺れなどの感覚異常などをはじめとした感覚障害などがあります。
・フォルクマン拘縮
阻血性拘縮とも呼ばれる症状で、上腕骨顆上骨折に伴って生じます。循環障害によって内出血や圧迫が生じて区画内圧が上昇することで手関節掌屈、母指内転、示指から小指にかけてのMP関節(中手指節関節)伸展、全指のIP関節(指節間関節)屈曲が生じます。フォルクマン拘縮は生じてしまうと治療が容易ではないため、発症が疑われたら早期に治療を開始する必要があります。

〇慢性期合併症

 慢性期合併症としては主に骨折の異常経過が挙げられます。

①変形治癒

骨癒合の際にはある程度自己矯正力が働きますが、その自己強制力を超えた転位を生じた状態で骨癒合した状態です。なお自己矯正力は屈曲方向に対しては強いのですが、回旋方向に対してはほとんどないため、少し外旋した状態などでの変形治癒が多くみられます。

②骨治癒遷延

予測されていた平均的な癒合期間を過ぎても骨治癒が完了しない状態です。ただし治癒が遅れるだけで、骨癒合を妨げている因子を除去することができれば最終的には癒合がみられます。

③偽関節

骨折部の骨癒合機能が停止した状態です。通常の可動域よりも大きく関節運動がおこる異常可動性を持つ場合もあります。

④無腐性壊死

骨折による血管障害は急性期合併症としてもみられますが、中でも栄養血管が損傷されることで対応する骨に壊死をきたす状態です。大腿骨頚部内側骨折や距骨骨折、上腕骨頚部骨折、舟状骨(手)骨折で好発します。

5、骨折の平均癒合期間

骨折の平均癒合期間の基準として有名なものにGulrtの表があり、各部位の一般的な癒合期間の指標となっています。しかし骨折の程度や選択された治療法によって骨期間は異なり、また一般的にはこの基準よりもう少し癒合までの期間を要することが多いです。このため、骨癒合の程度について画像を確認したり、またリハビリテーションの進行について主治医に確認をしたりすることも重要です。以下では各部位の平均癒合期間をご紹介します。
・中手骨…2週間
・肋骨…3週間
・鎖骨…4週間
・前腕骨…5週間
・上腕骨骨幹部…6週間
・脛骨、上腕骨頚部…7週間
・両下腿骨…8週間
・大腿骨…骨幹部8週間、頚部12週間

6、高齢者に多い骨折

高齢者は骨粗鬆症などの罹患により、転倒や日常生活動作に伴う骨折が若年者より生じやすくなっています。また、骨折により寝たきりとなったり、それにより認知症を誘発したりするなど、若年者と比較して骨折後の生活にも大きな影響を及ぼします。以下では中でも生じやすい骨折について説明します。

①脊椎椎体圧迫骨折

特に第11腰椎から第2腰椎では脊柱後彎から前彎にかけての移行部分であるために靭帯が薄く、骨折の好発部分となっています。骨粗鬆症であれば後方へ尻もちをついただけでも生じてしまいます。

②大腿骨頚部骨折

好発する骨折ではありますが、骨癒合しにくい骨折としても有名です。骨癒合しにくい原因としては以下のような要因が挙げられます。
・血流が少ない
・高齢者、特に女性に多い
上述のとおり骨粗鬆症を罹患していることが多い為、骨折しやすく骨癒合しにくい状態となっています。
・関節内骨折である
関節内には骨癒合に必要となる骨膜が無く、骨形成することができません。さらに関節液が浸潤することも骨癒合を妨げる原因となっています。
・剪断力がかかる
大腿骨には頚体角があるため、歩行や立位などによる荷重により骨折部分が開く方向に剪断力がかかり、骨癒合の妨げとなります。

③上腕骨近位端骨折

大部分は外科頚骨折ですが、解剖頚で骨折が生じた場合には関節内骨折となってしまうため、阻血性壊死が好発します。

④橈骨遠位端骨折

手関節の骨折ですが、転倒した際に手をつくことで生じます。特に骨片が背側に転位したものはコーレス骨折、掌側に転位したものはスミス骨折と呼称されます。



変形性関節症の原因や分類、評価方法を解説します!





1、変形性関節症とは

①変形性関節症の概要

変形性関節症とは関節の変性が生じる疾患であり、関節を構成する骨や関節軟骨が摩耗したり、増殖したりすることで動作困難や疼痛が生じます。
具体的には荷重のかかりやすい部分では組織がすり減ってしまい、またかかりにくい部分では組織の増殖が起こり、骨棘が形成されてしまいます。
組織の変性や疼痛は生じますが、炎症は伴わない非炎症性疾患です。また進行性疾患であるため、適切な治療が行われなければ関節裂隙の狭小化や骨の摩耗などといった症状は重症化していってしまいます。
なお、関節裂隙の狭小化や消失により動作性の低下や疼痛は見られますが、骨癒合はしないため可動性は確保されます。好発年齢は50代で、特に女性に多い傾向にあります。
変形性関節症はすべての関節で生じうる疾患ではありますが、そのほとんどは荷重のかかりやすい膝関節と股関節で発症しています。
その中でも特に症例数が多いのは変形膝関節症ですが、変形性股関節症では発症すると重症となる傾向があります。

②変形性関節症の原因

変形性関節症はその原因によって一次性関節症と二次性関節に分類されます。
一次性関節症とは原因疾患が明らかとなっておらず、関節自体の加齢現象などにより生じるものです。変形性膝関節症であれば全体の90%以上がこの一次性関節症に該当します。
なお手指に生じる一次性関節症は発症部位により呼称が異なり、DIP(遠位指節間)関節に生じればヘバーデン結節、PIP(近位指節間)関節に生じればブシャール結節となります。
二次性関節症とは原因疾患が明らかとなっているものです。変形性股関節症であれば全体の80%程度がこの二次性関節症に該当します。

変形性膝関節症

  • 外傷(半月板損傷、靭帯損傷、関節内骨折など)
  • 炎症性疾患(関節リウマチ、化膿性関節炎など)
  • 代謝性疾患(痛風など)
  • 関節運動の異常(前十字靭帯損傷など)

変形性股関節症

  • 先天性疾患や幼少期に生じた疾患の後遺症(先天性股関節形成不全、臼蓋形成不全、ペルテス症など)
  • その他(骨頭壊死、外傷など)

③X線像での病期分類

X線像では骨棘の形成や骨嚢胞の有無や程度、そして関節裂隙の状態について確認し、疾患の進行度を判断します。
嚢胞とは骨の中に空間ができ、骨ではないゼリー状の組織と置き換わってしまっている状態です。中身はトロッとしているために体重がかかるとつぶれてしまい、平坦化の原因となります。

変形性膝関節症

Grade1:骨硬化像または骨棘のみ(ほぼ正常)
Grade2:関節裂隙の狭小化が認められる(3㎜以下)
Grade3:関節裂隙の消失(閉鎖)または亜脱臼
Grade4:荷重面の摩耗または欠損(5㎜未満)
Grade5:荷重面の摩耗または欠損(5㎜以上)
なお、Grade3、4は中期、Grade4、5は末期とされています。

変形性股関節症

前股関節症
臼蓋形成不全や亜脱臼、骨頭変形、頚部前捻増強、頚体角の異常など先天的、後天的にかかわらず変形がみられます。
関節軟骨は残存しており、また骨硬化や嚢胞形成もみられないため、関節裂隙の狭小化はありません。
初期股関節症
関節軟骨の摩耗などによる関節裂隙のわずかな狭小化が見られ始められますが、骨棘形成はあっても軽度です。他に関節面の不整合や、臼蓋縁や骨頭に骨硬化像もみられます。
進行期股関節症
関節裂隙の明らかな狭小化がみられ、一部が消失します。また、関節面の不整合、骨頭や臼蓋縁部分の骨棘形成、骨硬化、嚢胞形成も認められます。
末期股関節症
関節裂隙は消失し、著明な骨棘や嚢胞の増大がみられます。他にも広範な骨硬化や臼底二重像も認められます。

2、機能障害の評価方法

①身体計測

棘果長(SMD)、転子果長(TMD)

変形膝関節症では伸展制限や内反変形(O脚)、変形性股関節症では骨頭の平坦化による脚長差が認められます。これらの評価のために棘果長(SMD)や転子果長(TMD)を測定し、2つの測定値の差があるかどうかを確認します。

下肢周径

特に膝関節において関節内液の貯留があると関節運動の妨げとなるため、下肢周径に異常な増大が内果を確認します。

BMI

体重が多ければその分関節への負担が大きくなります。このため身長と体重からBMIを算出し、肥満の有無などを確認します。 BMI=体重㎏/(身長m)2

②整形外科的検査

股関節

X線像より、構造的な異常を確認します。股関節であれば頚体角や前捻角、そして臼蓋不全の有無や寛骨臼と大腿骨頭の適合性を確認するためのCE角やSharp角の測定を行います。
CE角とは大腿骨頭の中心を通る垂線と、大腿骨頭と臼蓋上縁を結んだ線から構成される角度の事です。小さいほど臼蓋のかぶっている部分が浅く、適合性が低いということになります。
また、Sharp角は寛骨にある左右の涙痕を結んだ線と、臼蓋上縁と同側の涙痕を結んだ線から構成される角度の事です。
こちらは大きいほど適合性は低いということになります。
関節可動域制限などのために筋短縮が起こる場合があります。このため、筋短縮の有無や程度を確認するためのテストを行います。
特に股関節屈曲、内転、外旋位での拘縮が生じることが多いため、股関節屈曲筋群に対する検査が中心となります。
トーマステスト
腸腰筋の短縮について確認するために用いられます。被検者は背臥位となり、検査下肢とは反対側の下肢を抱きかかえるようにして股関節と膝関節を屈曲させます。このとき検査下肢の股関節が屈曲し、大腿が台から離れれば陽性となります。
オーバーテスト
大腿筋膜張筋の短縮について確認するために用いられます。被検者は検査下肢を上にした状態で側臥位となります。検査者は膝関節を90°に屈曲させた状態で股関節を伸展させ、外転位で保持します。ここで手を離しても下肢が落下せず、外転位で保持されれば陽性です。変形性関節症では関節の構造的な変化がみられることから、動作への影響について確認するためにアライメントに対する検査を行います。
アリステスト
股関節脱臼などの有無を確認するために用いられます。背臥位にて両下肢を揃えて膝関節を屈曲させると、陽性であれば脱臼側の膝関節が正常下肢より低くなります。ただし内反股などにより脚長差がある場合でも同様の結果が得られるので注意が必要です。
ローザーネラトン線
股関節のアライメント自体を確認するために用いられます。ローザーネラトン線とは、上前腸骨棘と坐骨結節を結んだ線のことです。背臥位にて股関節を45°屈曲させ、ローザーネラトン線上に大転子が位置すれば正常ということになります。

膝関節

X線像より膝関節の正確なアライメントを確認します。様々な検査法の中でも特に重要視されるのはFTA(膝外側角、大腿脛骨角)です。
FTAは大腿骨長軸と脛骨長軸がなす角の事で、片脚立位で正面から撮影したX線像を用います。
正常は175°で5°程度外反していますが、変形性膝関節症にて多くみられる内反変形(O脚)では180°以上になります。
関節可動域制限により筋短縮が生じる場合があります。変形性膝関節症では伸展制限と屈曲制限の両方がみられるため、大腿前面筋と後面筋の両方に短縮が生じえます。
エリーテスト(尻上がり現象)
大腿直筋の短縮について確認するために用いられます。被検者は腹臥位となり、膝関節を屈曲させていきます。この時股関節が屈曲することで殿部が持ち上がってくると陽性です。
SLR
ハムストリングスの短縮について確認するために用いられます。被検者は背臥位となり、膝関節を伸展させておきます。この状態のまま検査者は股関節を屈曲させていき、膝関節を屈曲させてハムストリングスを緩めて行った角度との比較を行います。 変形性膝関節症ではスラストと呼ばれる側方動揺が生じる場合があります。このため、膝関節の動揺性を確認するためのストレステストを行います。スラストは内反膝(O脚)を呈する症例では外側方向に、外反膝(X脚)であれば内側方向にみられます。
外反ストレステスト
膝関節を軽く屈曲させ、内側の関節裂隙が開くように下腿に外反ストレスを加えます。
内反ストレステスト
膝関節を軽く屈曲させ、外側の関節裂隙が開くように下腿に内反ストレスを加えます。
関節内液が貯留して関節水腫が生じることで関節運動の妨げとなり、関節拘縮の原因となります。このため、膝蓋跳動の有無を確認する必要があります。検査は関節部分に組織液をためるように膝関節を把持し、膝蓋骨を押し込みます。この時膝蓋骨に上下運動が見られれば陽性です。

③疼痛検査

変形性関節症では疼痛が生じることが特徴であるため、その痛みの特徴や質、程度、生じるタイミングについて確認します。痛みの程度についてはVASやNRSなどを用いて行います。 疼痛の生じるタイミングについては、変形性膝関節であればStarting painという歩き出しに疼痛が生じ、歩行するにつれて緩和していくという特徴があります。反対に変形性股関節症であれば歩行をはじめとした運動後に疼痛が生じるという特徴があります。

④関節可動域検査

膝関節:完全伸展や完全屈曲が困難となり、歩行や正座などのADLが障害されやすくなります。このため膝関節屈曲、伸展ともに測定が必要です。 股関節:屈曲、内転、外旋位での拘縮が多くみられます。特に手術療法を選択する場合、内転拘縮があると術後も内転拘縮が起こりやすく、また脱臼のリスクもあります。このため内転角度の測定は特に重要です。

⑤筋力検査

患部だけでなく、周辺関節の筋に対しても徒手筋力検査を行います。基本的には運動の全可動域にわたって抵抗を加えるfree motion test(運動範囲テスト)を行いますが、運動時痛が強い場合には運動範囲の終わりに抵抗を加えるbreak test(制動テスト、抑止テスト)を行います。

⑥跛行の有無の確認

変形性膝関節症では荷重時に膝関節が側方に動揺するスラスト歩行となります。これは内反変形が生じていれば外側に、外反変形が生じていれば内側にみられます。
変形性股関節症では疼痛が原因となって、トレンデレンブルグ性の跛行がみられます。中殿筋の筋力低下が生じている際と同様の跛行がみられやすく、患側下肢の立脚相で上体と骨盤が遊脚側に傾くトレンデレンブルグ歩行と、患側下肢の立脚相で上体が立脚側に傾くデュシェンヌ歩行がみられます。
なお、デュシェンヌ歩行では上体の重心移動により、骨盤は水平位で保持されます。
また、股関節屈曲拘縮が生じている症例では患側下肢の立脚相の最後、股関節伸展の際に動作が制限されるため、腰椎前彎の代償的な増強がみられます。



人工足関節置換術と術後のリハビリテーション





人工足関節置換術の概要

①人工足関節置換術の実際

人工関節置換術は関節軟骨のすり減りや関節の構造的な破たんにより痛みが生じていたり、運動に障害が生じていたりする症例に適応され、破壊された関節と人工関節を入れ替えることで痛みや運動障害を改善させることを目的とした術式です。
この術式はほとんど股関節や膝関節において適応されるのですが、実は症例数は比較的少ないものの足関節にも適応があります。
人工足関節置換術の適応となる主な疾患は変形性足関節症や進行した関節リウマチです。しかし前述のとおり、実際に行われている人工足関節置換術の症例数は股関節や膝関節と比較すると大幅に少なくなっています。この理由は足関節の構造にあります。
一般的に足関節と呼ばれる距腿関節は、腓骨と脛骨からなる関節窩に距骨の関節頭が入り込むようにして構成されています。これらは「ほぞ」と「ほぞ穴」という比喩をされることが多いように骨同士がパズルのようにぴったりとはまっているため、骨性の安定性が非常に高い関節です。
さらに、距腿関節の周辺には距骨下関節や距踵関節、ショパール関節(横足根関節)といった関節が多く分布しています。この構造により衝撃や自重をはじめとした外力はそれぞれの関節に分散されるため、他の関節と比べると変形性関節症が生じにくいのです。
以上の理由により人工足関節置換術の適応となる症例数は少数となっています。

②特に適応となるケースが多い症例

人工足関節置換術の適応となる症例は主に変形性足関節症や関節リウマチですが、その中でも両下肢ともに罹患している症例や、距腿関節の周辺に位置する関節にも罹患がある症例により優先して人工足関節置換術が選択されます。
また対象者が50歳以上の高齢である場合、足関節内外反変形が15°以下と軽度である場合もより高い優先順位で選択されます。
なお、変形性足関節症には他にも関節固定術などの選択肢があるのですが、前述のような罹患の仕方である場合に実施してしまうと極端に足関節の動作性が低下してしまいます。
このため、術式を選択する際の優先順位としては低くなります。

③手術の方法

人工足関節置換術では脛骨と距骨のそれぞれにコンポーネントと呼ばれる人工関節の部品が装着されます。
手術では障害の生じている元の骨を切り取り、骨セメントやスクリューを用いてコンポーネントを固定します。
足関節の前方からアプローチするため、どの組織が侵襲されたのかを事前に把握しておくことが必要です。

人工足関節置換術に関連するリハビリテーション

人工足関節置換術に関連するリハビリテーションは術後の機能回復を速めるため、術前から行われます。
また術後はギプスや装具による固定期間があるため、術後の動作制限だけでなく固定による合併症にも考慮して介入することも重要です。
以下では時期を追ってリハビリテーションの内容や治療目標などをご説明します。

①手術前

術前は術後の機能回復を速めるためのリハビリテーションが行われます。主に行われる内容は関節可動域訓練と足関節周囲筋群の筋力トレーニングです。
特に術後は固定や手術の侵襲による筋力低下がみられるため、足関節底背屈、内がえし、外がえしの各運動方向について筋力トレーニングを行い、事前に筋力向上を図ることが必要となります。
特に腓骨筋群は強化することにより外側への安定性が向上するため、重要視されています。

②手術直後(術後10日間~2週間、抜糸まで)

術後は固定による関節拘縮予防を目標として、なるべく早期からリハビリテーションが開始されます。この時期はギプスにより足関節が固定されているため、足関節周囲関節である足趾の屈曲伸展を中心に行います。
また免荷状態ではありますが、離床が可能な症例であれば日常生活動作の機能維持を目標とした介入も開始されます。例えば車椅子への移乗動作練習や平行棒内での歩行練習などで、非術側下肢のみでの動作方法を練習します。
なおギプス固定をしている期間であることから、ギプス障害について配慮する必要があります。ギプスにより患部が固定されていると循環障害やしびれをはじめとした神経障害が生じるリスクがあるため、足趾の色や温度、痛みやしびれの有無、動作性などを確認することが重要です。
また、術創部の回復や関節可動域の改善の妨げとなる浮腫の予防も行われます。ギプス固定中は下腿三頭筋の収縮によるポンプ作用が得られない期間であるため、リンパ液などの水分が足にたまらないように臥位では下肢を挙上する、椅子に座る際は下肢を台に乗せておくなどの生活指導を行います。なお、関節可動域訓練として行う足趾の運動も浮腫予防には効果的です。
以上のリハビリテーション内容は抜糸が行われる術後10日から2週間程度行われます。

③術後早期(術後2~3週、ギプス除去まで)

抜糸後はギプスがヒール付きの短下肢ギプスに変更されて部分荷重も許可される時期で、歩行練習も荷重下で開始されます。また、抗重力筋や立位バランス能力に寄与する殿筋群をはじめとした股関節周囲筋群や、大腿四頭筋やハムストリングスをはじめとした下肢筋群などの筋力強化を行うことも、歩行の安定性を向上させるために重要です。歩行練習は荷重量の調整が容易な平行棒や歩行器、松葉杖を用いて開始されます。荷重量は10~15㎏程度から開始し、疼痛の程度を見ながら増減の調整を行います。 この期間は術後3週でギプス固定が終了するまで継続されます。

④ギプス除去後(術後3~4週)

術後3週からはギプスが除去され、足関節の可動域訓練が開始されます。長期間の固定期間が設けられていたためギプス除去直後は関節が硬くなっており、また下腿三頭筋の伸張性は低下しています。
このため急激な他動運動を行うと疼痛が生じてしまうので、はじめは自動での足関節底背屈運動や、下腿三頭筋のストレッチなど愛護的な内容から開始されます。このようにこの時期は自動的な運動が中心となるため、自主トレーニングを行うことも重要です。
自主トレーニングでも十分なトレーニング効果を得ることができるよう、ゴルフボールなどを用いた足底のリラクセーションとストレッチや、タオルやセラバンドなどを用いた筋力トレーニングなど、必要に応じて道具を利用した方法を指導します。

⑤術後4週以降

術後4週からは疼痛も軽減してくるため荷重の許容量が増加し、全荷重まで可能となります。この時期以降は運動を中心としたリハビリテーションが行われるようになり、より日常生活への復帰に直結した内容へ移行していきます。
術後4週では歩行補助具による上肢支持を徐々に減少させていくため、歩行器や松葉杖から、T字杖を使用した歩行へと移行していきます。全荷重は可能ですが、術側下肢への負担を軽減させるために杖は健側に把持するよう指導します。
健側に杖を持つことで、歩行中に術側下肢単脚での支持期をなくすことができ、術側の足関節への負担を軽減させることが可能です。また全荷重が許可されているため、疼痛が治まればカーフレイズによる下腿三頭筋の筋力トレーニングや、独歩練習も開始することが可能となります。
術後2か月以降は基礎的な歩行練習だけでなく長距離歩行練習も開始し、社会復帰を目標としたより具体的なリハビリテーションが行われるようになります。
また足関節の動作方向も拡大させることが可能となるため、底背屈以外にも内がえしや外がえしも運動に取り入れられます。ただし、開始直後は自動運動による愛護的なアプローチを選択することが必要です。
このように術後2か月程度で最低限の日常生活を送るために必要なリハビリテーションを、おおむね行うことができるようになります。さらに術後3か月からは通常の歩行だけではなく、小走りや足関節への負担が軽度であればスポーツへの復帰も可能となるため、より高いレベルの日常生活を送ることが可能となります。