ALSに対する運動療法





ALSに対する運動療法


ALSの特に運動療法を考える上で、重要な3つの事項があります。

①筋力および動作訓練


機能訓練の効果は正常者での効果ほど著明ではなく、またその処方は安全な範囲でなされ、disuseあるいはoverworkによる機能低下に注意しなければならないとされています。
Bello-Hass VDらによりALSの筋力トレーニングは有用性が示されていますが、そこでもMMT3以上と考察されています。しかし、運動が積極的に行えない状況下においても、運動を行っていないわけではありません。
目的が筋力強化・向上だけでなく、機能維持や心理的な効果も期待できるためです。
exerciseを低強度で行い自信や満足感を得ることも運動療法の1つとの考えもあります。

②合併症の予防


TPPV施行のALS症例の予後は大きく改善し、現在では80%以上の10年生存率が期待できるようになっています。安心した長期の療養生活を送るためには合併症の対策をしなければいけません。

人工呼吸器装着ALS患者の肺合併症として、箕田は、①気管支の閉塞・換気障害、②人工呼吸器関連肺炎(VAP)、③無気肺・胸水を挙げています。

この中でもVAPはTPPV施行ALS症例の直接死因の一位(33.3%)となっています。

肺理学療法(呼吸リハビリテーション)の目的は、

  1. 呼吸筋力の強化と維持
  2. 胸郭の柔軟性の維持・肺の弾性維持
  3. 排疾・(窒息・肺炎・無気肺などの)合併症の予防
  4. 心地よさ
  5. 代償的手段の使用による運動量の維持(ADLの維持・向上)
  6. 定期的な呼吸機能評価や呼吸理学療法によって、患者自身が呼吸状態を把握し、治療選択や、感染、誤嚥・窒息などのリスクに対して判断対処する

といった肺合併症の予防を含めた6項目が挙げられています。
記載されているTPPV管理下で行える呼吸リハビリテーション手技は大きく2つに分かれます。

1つ目に胸郭可動性・肺弾性維持のための手技と、2つ目に排疾法としての手技です。
これらを行うことで合併症を予防し安全で充実した生活を行うことが必要と考えられます。

③緩和ケア(QOLの向上を目的として)について


緩和ケアとはWHOの定義(2002年)によれば、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフ(Quality Of Life:QOL)を改善するアプローチとされています。
これでは消極的な印象を持つ方もいるかもしれませんが、WHOは1998年と2002年にそれぞれ緩和ケアの定義を出しており、2002年の新しい定義ではく予防という言葉が入り、言わば、攻めの姿勢も必要としています。 つまり、リハビリテーションであれば、人工呼吸器装着による肺合併症やROM制限また高頻度に出現するといわれる疼痛などを積極的に予防しながら、精神的・社会的に働きかけ、QOLの向上を図るというものであると考えられます。
個人別QOLの評価としては、SEIQoL-DW(SEIQoL-direct weighating)等があります。