骨折に関する基礎事項について

1、骨折の概要

骨折とは骨に強い外力がかかることによって完全に、または部分的に連続性が断たれた 状態のことを指します。中でも折れた骨が皮膚を突き破ってしまった状態の骨折は開放骨折、または綺麗に2つに折れてしまっている場合であっても複雑骨折と呼ばれます。骨折後は骨折部周囲の疼痛や腫脹、機能障害などといった骨折そのものに起因する症状が診られますが、そのほかにも感染や神経損傷などをはじめとした合併症を生じるケースもあるため注意が必要です。骨折後は骨折部位により異なりますが、おおむね2週間から12週間で癒合が完了するとされています。なお、横方向への骨折は治癒しやすく、縦方向への骨折やらせん骨折、粉砕骨折では治癒しにくくなっています。

2、骨折の評価

骨折後の評価は画像診断と臨床検査の両方を行い、構造的な変化や動作への影響などを評価して治療やリハビリテーションに活かす必要があります。

〇画像診断

画像診断では主にX線画像が用いられており、骨病変の診断に特に有用であるとされています。画像は一般的に前額面と呼ばれる正面から撮影されたものと、矢状面と呼ばれる側面から撮影されたものが用いられます。X線画像からは転位や脱臼の有無や骨癒合の進行具合、骨折線の所在などを診断することができます。 なお、大腿骨内側骨折の場合は転位の程度についてGarden分類という診断基準が設けられています。これはStageⅠからStageⅣまでに分類されており、StageⅠは不全骨折、StageⅡ~Ⅳでは完全骨折となっています。なお、StageⅡから順に転位なし、部分転位、完全転位とStageが進むにつれて重症ということになります。StageⅢ、Ⅳ程度までなると人工骨頭置換術が必要です。

〇臨床検査

・形態計測

形態計測ではまず、周径計測により骨折部周囲の腫脹の有無や程度を確認します。また、骨折後は固定や不動などにより筋委縮が生じることがあるため、筋委縮の程度を評価します。なお、回復後の筋肥大の程度を確認するためにも定期的に計測することも重要です。 次に長径を測定します。骨折では関節拘縮による可動域制限や骨転位などにより脚長差が生じる場合があります。脚長差は3cm以上になると跛行の原因となるため、リハビリテーションの計画立案や補装具の使用の検討、リスク管理のためにも検査項目となります。

・関節可動域検査

関節可動域制限や異常可動域、拘縮の有無について確認します。なお、固定部位を考慮して測定する必要があります。

・徒手筋力低下

骨折部周囲の関節に関連する筋では安静やギプス固定などによって廃用性筋委縮が生じやすくなっているため、筋力低下の有無や程度について確認します。

・日常生活動作に関する評価

骨折後は荷重制限や疼痛、関節可動域制限などにより行える日常生活動作の範囲に変化が生じます。このため受傷前にはどこまでの動作を行うことができたかを問診し、受傷後にその中のどのような動作が困難になっているのかを評価することが重要です。

3、骨折後の症状

骨折後にみられる症状は骨折部の周囲に生じる局所症状と、主に開放骨折に伴ってみられる全身症状の2つに分類されます。

〇局所症状

骨折後は炎症の四主徴(発赤、発熱、腫脹、疼痛)に準じた機能障害を伴うことが多くなっています。

・疼痛

骨折部では周辺組織の損傷も伴うため、炎症反応がみられます。このため激しい運動痛や圧痛、そして何もしていなくても生じる自発痛もみられるようになります。

・腫脹

骨折により骨髄や骨膜、周辺組織が損傷すると、出血や炎症症状により発熱や熱感を伴った腫脹が生じます。なお、骨折後に生じる腫脹には大量のたんぱく質が含まれており、繊維素も多くなっています。このため結合組織の増殖を招きやすく、関節拘縮を誘発する原因ともなってしまいます。

・変形による機能障害

骨折した骨がずれた状態で癒合してしまうと、骨折部周囲の変形が生じます。これにより本来の関節運動が行えなくなってしまい、関節可動域制限の誘因となります。

・異常可動性

上記の変形の場合とは逆に、骨癒合が途中で停止してしまうと偽関節という状態になり、関節が通常より大きく動く異常可動性を有してしまうこともあります。

・礫音

関節運動の際に骨折部分や変形した部分がこすれることで、ギシギシとした音を感じることがあります。なお耳で聞き取ることはできず、手で触れることでわかる程度の軽微なものがほとんどです。

〇全身症状

開放骨折では多量な出血を伴う場合があります。この場合は激しい疼痛や出血によりショック症状が生じてしまい、頻脈や頻呼吸、脈圧の減少などがみられることがあります。 なお、骨折自体が軽微な物であっても骨折の原因となった四肢への圧迫が長時間にわたった場合、急性腎不全や心不全を引き起こす挫滅症候群を発症する危険性もあるため注意が必要です。

4、骨折時の合併症

骨折後は様々な合併症が生じる場合があります。合併症は骨折直後から生じる感染や血管、神経損傷などの急性期症状と骨折の治癒段階で生じる慢性期症状の2つに分類されます。

〇急性期合併症

①皮膚軟部組織の損傷と感染、外傷性ショック

皮膚損傷を伴う開放骨折である場合、傷口から菌が軟部組織や骨内に入り込んで感染を引き起こします。なお、骨内に菌が侵入した場合には骨髄炎を生じることもあります。そして骨折時に大量の出血を伴った場合は顔面蒼白や頻脈、血圧低下、意識障害などを生じる外傷性ショックも発症するリスクがあります。

②血管損傷と神経損傷

血管損傷は重篤な症状となり、生死に関与する場合もあるため骨折に対する治療よりも優先して治療が行われます。なお、臨床的には血管損傷が生じている場合、末梢神経損傷が生じていることが多いと認識されています。神経損傷は骨折に伴って生じる橈骨神経損傷や坐骨神経損傷が多く、麻痺や感覚障害などの後遺症が残ります。

③脂肪塞栓

骨折後に骨中に含まれる脂肪の栓子が流出することで肺や心臓などに詰まり、塞栓を生じた状態です。下肢の骨折で生じることが多く、呼吸器症状や脳神経障害など重篤な症状につながります。

④内臓損傷

骨折した骨は周囲の臓器を損傷する場合があります。例えば骨盤輪骨折では膀胱などの内臓や尿道の損傷、肋骨損傷では肺を損傷し、外傷性の気胸や血胸を引き起こす可能性があります。

⑤循環障害

骨折により循環障害が生じると、関節可動性などにも障害を生じることがあります。以下では特に症状が重く、代表的な2つの疾患についてご紹介します。
・急性コンパートメント症候群
コンパートメントとは区画の事で、四肢の骨と筋膜によって構成されています。骨折などにより区画内に出血や浮腫が生じると区画内圧が上昇し、筋や神経に血流障害が生じて壊死を引き起こす重篤な合併症です。筋は壊死を起こすと自然治癒せずに最終的には瘢痕化し、拘縮の誘因となります。このためコンパートメント症候群の兆候が疑われた場合には早期に筋膜切開が必要で、また発症予防のためには受傷後すぐにはギプス固定を行わないなどの対処をする必要があります。臨床でわかりやすい症状としては冷感、蒼白、脈がとりにくくなる、痺れなどの感覚異常などをはじめとした感覚障害などがあります。
・フォルクマン拘縮
阻血性拘縮とも呼ばれる症状で、上腕骨顆上骨折に伴って生じます。循環障害によって内出血や圧迫が生じて区画内圧が上昇することで手関節掌屈、母指内転、示指から小指にかけてのMP関節(中手指節関節)伸展、全指のIP関節(指節間関節)屈曲が生じます。フォルクマン拘縮は生じてしまうと治療が容易ではないため、発症が疑われたら早期に治療を開始する必要があります。

〇慢性期合併症

 慢性期合併症としては主に骨折の異常経過が挙げられます。

①変形治癒

骨癒合の際にはある程度自己矯正力が働きますが、その自己強制力を超えた転位を生じた状態で骨癒合した状態です。なお自己矯正力は屈曲方向に対しては強いのですが、回旋方向に対してはほとんどないため、少し外旋した状態などでの変形治癒が多くみられます。

②骨治癒遷延

予測されていた平均的な癒合期間を過ぎても骨治癒が完了しない状態です。ただし治癒が遅れるだけで、骨癒合を妨げている因子を除去することができれば最終的には癒合がみられます。

③偽関節

骨折部の骨癒合機能が停止した状態です。通常の可動域よりも大きく関節運動がおこる異常可動性を持つ場合もあります。

④無腐性壊死

骨折による血管障害は急性期合併症としてもみられますが、中でも栄養血管が損傷されることで対応する骨に壊死をきたす状態です。大腿骨頚部内側骨折や距骨骨折、上腕骨頚部骨折、舟状骨(手)骨折で好発します。

5、骨折の平均癒合期間

骨折の平均癒合期間の基準として有名なものにGulrtの表があり、各部位の一般的な癒合期間の指標となっています。しかし骨折の程度や選択された治療法によって骨期間は異なり、また一般的にはこの基準よりもう少し癒合までの期間を要することが多いです。このため、骨癒合の程度について画像を確認したり、またリハビリテーションの進行について主治医に確認をしたりすることも重要です。以下では各部位の平均癒合期間をご紹介します。
・中手骨…2週間
・肋骨…3週間
・鎖骨…4週間
・前腕骨…5週間
・上腕骨骨幹部…6週間
・脛骨、上腕骨頚部…7週間
・両下腿骨…8週間
・大腿骨…骨幹部8週間、頚部12週間

6、高齢者に多い骨折

高齢者は骨粗鬆症などの罹患により、転倒や日常生活動作に伴う骨折が若年者より生じやすくなっています。また、骨折により寝たきりとなったり、それにより認知症を誘発したりするなど、若年者と比較して骨折後の生活にも大きな影響を及ぼします。以下では中でも生じやすい骨折について説明します。

①脊椎椎体圧迫骨折

特に第11腰椎から第2腰椎では脊柱後彎から前彎にかけての移行部分であるために靭帯が薄く、骨折の好発部分となっています。骨粗鬆症であれば後方へ尻もちをついただけでも生じてしまいます。

②大腿骨頚部骨折

好発する骨折ではありますが、骨癒合しにくい骨折としても有名です。骨癒合しにくい原因としては以下のような要因が挙げられます。
・血流が少ない
・高齢者、特に女性に多い
上述のとおり骨粗鬆症を罹患していることが多い為、骨折しやすく骨癒合しにくい状態となっています。
・関節内骨折である
関節内には骨癒合に必要となる骨膜が無く、骨形成することができません。さらに関節液が浸潤することも骨癒合を妨げる原因となっています。
・剪断力がかかる
大腿骨には頚体角があるため、歩行や立位などによる荷重により骨折部分が開く方向に剪断力がかかり、骨癒合の妨げとなります。

③上腕骨近位端骨折

大部分は外科頚骨折ですが、解剖頚で骨折が生じた場合には関節内骨折となってしまうため、阻血性壊死が好発します。

④橈骨遠位端骨折

手関節の骨折ですが、転倒した際に手をつくことで生じます。特に骨片が背側に転位したものはコーレス骨折、掌側に転位したものはスミス骨折と呼称されます。



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