人工肘関節置換術後のリハビリテーション

置換術の適応

肘関節はADLと呼ばれる日常生活動作や、IADLと呼ばれる手段的日常生活動作の中で特に多く運動する関節の1つです。例えば、高いところのものを取ったり、着替えをしたりする時などは肘関節が十分に伸展する必要がありますし、食事や家事動作を円滑に行うためには肘関節が十分に屈曲する必要があります。
このように肘関節には高い可動性が求められますが、重要なのは可動性だけではありません。肘関節の動作性はADLやIADLのみならず巧緻動作にも大きな影響を与えるため、正確な動作を行うためにも関節の高い安定性が要求されます。
また、日常的に使用される頻度の高い関節であることもあり、痛み無く動作を行うことのできる無痛性も重要な要素となっています。
このように肘関節には高い可動性、安定性、無痛性が求められます。そしてこれらの要素が侵されるとADLやIADLが障害され、日常生活を快適に送ることが困難となってしまいます。このため、可動性、安定性、無痛性が侵される疾患では人工肘関節置換術(total elbow arthroplasty:TEA)の適応となることがあります。
特にTEAの対応となる頻度が高いのは、関節リウマチです。関節リウマチでは骨や関節が破壊されてしまうため痛みを伴いますし、骨や関節の破壊や異常な癒合などにより関節は異常な可動性を持ってしまったり、不動と呼ばれる関節が全く動かない状態に陥ってしまったりします。
このように、関節リウマチは関節可動性、安定性、無痛性のすべてを侵す疾患ということになります。このためレントゲン上でも関節破壊が認められるほどに病態が進行したケースでは、TEAが適応されることが多くあるのです。

使用される人工肘関節の種類とその特徴

TEAで使用される人工肘関節は、コンポーネントと呼ばれる関節面に使用される部品の特徴により表面置換型と半拘束型の2種類に分類されます。それぞれの人工肘関節はその特徴により、適応となる疾患も大きく異なります。

①表面置換型人工肘関節

表面置換型人工肘関節は上腕骨コンポーネントと尺骨コンポーネントの間が連結しておらず、TEA後の関節は解剖学的な肘関節とほぼ同じ構成となります。表面置換型では人工関節自体の安定性が乏しいというデメリットがあり、通常の肘関節と同様、筋や靭帯をはじめとした肘関節周囲の軟部組織により安定性を得る必要があります。
このため表面置換型は骨欠損が少なく、軟部組織の機能がある程度残存している症例に適応されます。しかし関節同士の連結が無く安定性に乏しい一方、拘束性が低いため関節自体が動作により緩みにくいというメリットがあります。軟部組織の安定性が要求されるものの、手術をやり直すリスクが少ないという特徴から日本では表面置換型がTEAで多く適応されています。 
なお、表面置換型を使用する手術では後方アプローチという方法が選択されます。この術式では上腕三頭筋や内側側副靭帯が侵襲されるため、術後は関節安定性を高めるために侵襲された軟部組織の修復が重要となります。リハビリテーションにおいては関節可動域の拡大とともに、侵襲された筋の筋力強化も必要です。

②半拘束型人工肘関節

半拘束型では上腕骨コンポーネントに尺骨コンポーネントが刺し込まれるような形で結合しています。結合している蝶番部分には少し余裕が持たされており、表面置換型とは異なり関節自体が高い安定性を持つというメリットがあります。
このため、骨破壊が進んだ症例や、軟部組織による安定性の確保が困難である症例でも適応可能です。ただし関節自体の安定性ということは、肘関節の運動をするごとに関節自体にストレスがかかってしまうということです。このストレスにより半拘束型は関節に緩みが生じやすい、というデメリットを持ち合わせています。

TEAに関するリハビリテーション

①目標

まずTEA後のリハビリテーションを行うに当たり、目標を明確化し、確認する必要があります。この目標とは、解剖学的な参考可動域ではありません。なぜならADLやIADLを行うためには、必ずしも全可動域にわたって肘関節を動かせる必要が無いからです。
一般的に生活内で必要とされる肘関節の可動域は、屈曲で120~130°、伸展で-40°、回内外ではそれぞれ50°とされています。このように参考可動域全域での運動が出来なくても生活動作の遂行は可能です。このためTEA術後のリハビリテーションは基本的に、前述の通り肘関節屈曲120~130°、伸展-40°、回内外50°を目標として進められます。
ただし、生活内で必要とされる動作により目標可動域は異なります。例えば、携帯電話を耳に当てるためには肘関節屈曲130°が必要ですし、タイピングには前腕回内65°が必要です。このように必要とされる可動域は患者の生活スタイルにより大きく異なるため、目標は画一的ではなく臨機応変に変化させることが重要です。
なお、適応数の多い表面置換型ですが、術後は10~20°程度の伸展制限が生じるケースが多くなっています。このため、伸展制限があるという前提を念頭に置いた目標設定も必要となります。

②TEAの準備

 TEAでは手術前からリハビリテーションが開始されます。術前リハビリテーションでは理学療法評価を中心に進めていきます。これは手術の準備としての意義も大きくありますが、術後のリハビリテーションを円滑に進めるための情報収集という意味合いも持ち合わせています。
術前評価としてはまず問診が行われます。具体的に聴取する内容はTEAを受けることになった原因、どのような動作ができないことで日常生活に支障をきたしているのかなどです。これらの情報は病状の把握とともに、リハビリテーションの目標を立てるためにも必要となります。
次に身体機能を把握するため、ROMをはじめ筋力や疼痛、関節動揺性、日常生活動作状況などが評価されます。なお、TEAの適応となる代表疾患関節リウマチでは肩関節回旋拘縮を生じている症例があります。この拘縮は肘関節に内外旋ストレスを与えるため、肘関節はもちろんのこと肩関節の評価、動作性の改善も術前に行う必要があります。
そして肘関節周囲の疾患で注意すべきなのが尺骨神経麻痺です。肘関節の障害により尺骨神経まで損傷されているケースもあるため、筋力評価や感覚検査などにより神経症状が見られていないかを把握する必要があります。
また、リハビリテーションを始めるにあたりTEA後はどの範囲の動作まで可能となるのか、どの動作に困難さが残るのかを伝えることも重要です。

③術後のリハビリテーション

リハビリテーションは手術翌日から開始される場合が多いです。はじめは関節運動を伴わない愛護的な内容ですが、徐々に関節可動域訓練や筋力トレーニング、日常生活動作訓練が開始されます。以下では術後のリハビリテーションの内容について、時系列的にご紹介します。なお、回復過程などには個人差が大きくあるため、病期にこだわらず柔軟に対応する必要があります。

(1)手術翌日から術後2周

手術直後は安静期間であることから、外固定が施されています。この期間中は肘関節自体の動作ができないため、肘関節周囲の浮腫や周辺関節の拘縮を予防することを目的としたアプローチが行われます。
浮腫予防としては時間を明確に決めた上で上肢を高く上げておくこと、周辺関節の拘縮予防としては、主に肩関節が固定により内転・内旋位で拘縮することを避けるため日中は中間位で保持しておくなどのポジショニングが行われます。
なお、肩関節の内転・内旋拘縮は人工肘関節に内反ストレスをかける原因ともなるため、周辺関節の中でも特に拘縮予防が重要である関節となっています。また、患側肩関節に限らず患側の関節は運動する機会が減ってしまうため、浮腫や拘縮を予防するために手指の握り動作などで意識的に運動する必要があります。

(2)術後2~3週

この時期では日常生活内においては外固定が必要ですが、リハビリテーション時に限り固定装具を外すことができます。リハビリテーション開始に先立ち、皮膚異常がないかの確認を行います。また、浮腫や関節拘縮予防を目的としたリラクセーションやマッサージが必要です。これらには関節可動域訓練時の防御収縮を防止する意義もあります。
この時期から関節可動域訓練を開始しますが、初めはなるべく愛護的なアプローチにするため背臥位で、自身の上肢の重さを利用した自動介助運動が選択されます。前腕回内外運動に対しては遠位橈尺関節と骨間膜に対する関節モビライゼーションを自動介助にて行います。
このとき、関節可動域の獲得よりも重要視されるのが関節の安定性です。関節に緩みが確認された際には可動域訓練よりも、周辺組織の安定性向上を目的としたより慎重なアプローチを行う必要があります。
筋力トレーニングは手関節周囲筋から始められます。これは手関節掌背屈に作用する筋が上腕骨内外側上顆に付着することから、筋力向上が肘関節安定性向上に寄与するためです。この場合でもこれまで活動が制限されていた筋肉に過剰なストレスがかかり損傷を引き起こさないよう、低負荷で愛護的な内容から実施されます。

(3)術後3~4週

この時期では装具による固定は夜間のみとなり、日中は装具を外すことが許可されます。そして筋力トレーニングも肘関節の自動運動も重力の影響を受けない側臥位や、上肢をテーブルなどに乗せた肢位などから開始されます。関節可動域訓練も他動運動にて積極的に行われるようになりますが、可動域の獲得が順調であったり、反対に関節が緩んでしまっていたりする場合もあります。この場合は関節の運動角度を調整することのできるヒンジ付き装具という装具を用い、可動域の調整を行うこともあります。
なお、組織の修復や関節可動域の獲得の程度は症例により大きく異なります。このため、担当医師との情報交換やカンファレンスによりリハビリテーションの目標や方針を改めて決定、確認することが必要となります。

(4)術後4週~2か月

この時期からは筋力トレーニングの負荷を徐々に増やしていきます。また、運動方式も壁や机に手をついた状態で行う関節を安定させたものから、手をどこにもつかないで行う、より日常的な動作に近いものへと変化していきます。これに伴い食事や整容等の手を使うADL動作も可能となります。この時、肘関節に内反ストレスをかけないよう、前腕回内位で動作を行うよう指導することが必要です。
筋力トレーニングの負荷の増やし方ですが、例えば肘関節伸展運動では最初に重力を負荷として使います。やり方は様々ありますが、肩関節をある程度外転させ、そこで肘関節を伸展、保持することにより肘関節伸展筋の筋力トレーニングとなります。この外転角度を拡大するだけでも負荷を増やすことができます。そしてこのようなトレーニングに慣れてきたら、徐々に自動運動や抵抗を用いたトレーニングへと移行していきます。
次に肘関節屈曲運動では関節の角度を変えずに行う、等尺性収縮を行います。この収縮様式のやり方は、例えばテーブルなどに肘を付き、肘関節を屈曲させた状態を保持するなどです。この場合負荷は肘関節の角度を変えたり、手にダンベルなど重錘を持ったりすることなどで調整することができます。

(5)術後2~3か月

この時期では肘関節の安定性向上にも寄与する、肘関節伸展筋群の筋力トレーニングを積極的に行っていきます。しかし、この時期においても肘関節に内反ストレスをかけないよう注意が必要です。
日常生活内において内反ストレスを与える動作とは、例えば重い調理器具などを持ち上げることなどです。このように過剰な負荷がかかる動作についてはリハビリテーション終了後も行わないようにするよう指導し、また生活スタイルによっては自助具の使用も検討していきます。

(6)術後3か月以降

この時期以降では関節周囲の軟部組織による安定性も向上してきます。このため肘関節に過剰に負荷をかける運動でなければ、痛みの無い範囲で行うことが可能となります。過剰な負荷の目安は、物であれば4~5㎏以上、動作であれば手で体を支えることなどです。術後2~3か月では使用できなかった調理器具なども、比較的軽いものであれば使用することができるようになります。
このようにTEAで痛み無く安定した運動が行えるようになっても、実施困難となる動作があります。このためTEA後の上肢でどこまでの動作が可能なのかを指導し、またどちらの上肢でどの動作を行うかなどの役割分担も検討することが重要です。
上記はJpn J Rehabil Med 2017;54:186-190を参照にした記事です。

人工肩関節置換術後のリハビリテーション

解剖学的人工肩関節の概要

変形性肩関節症患者に対して行われる術式の1つである解剖学的人工肩関節置換術(anatomic total shoulder arthroplasty:aTSA)では、肩関節の解剖学的構造と同様、骨頭を上腕骨側に、関節窩コンポーネントという部品を肩甲骨側に設置します。この術式は腱板の機能が正常である症例であった場合、5年生存率が98%、10年生存率が96%、20年生存率が84%という非常に高い安定性を誇ります。しかし、変形性肩関節症自体が修復不能なほど重度な腱板断裂に起因して生じている場合、aTSAは禁忌となります。これは腱板の持つ働きに関係があります。
腱板とは肩関節の安定性に寄与するインナーマッスルの総称で、上腕骨頭を関節窩の方へ引き寄せる働きがあります。しかし、腱板断裂などでその働きが損なわれてしまうと、上腕骨頭を関節窩の方に引き寄せておくことができなくなってしまい、上肢を挙上した際に骨頭が頭側へ移動してしまいます。この状態で解剖学的人工肩関節を入れた場合、上腕骨は関節窩コンポーネントを木馬のようにゆらゆらと揺らす作用を持ってしまいます。
このようなストレスがかかり続けることで人工関節には早い段階で緩みが生じてしまうので、重度な腱板断裂に起因する症例ではaTSAは禁忌となっているのです。しかし、このような症例の場合は人工骨頭置換術を行っても予後はよくありません。この術式を選択した場合、関節窩を残すことに起因する疼痛が後遺症として生じてしまうのです。
このように、重度な腱板断裂に起因する変形性関節症患者に対する有効な手術が無い、という状況が日本では長年続いていました。しかし、2014年に日本でも反転型人工肩関節が導入されたことにより、状況は好転しました。

反転型人工肩関節の概要

反転型人工肩関節(reverse total shoulder prosthesis)とはフランスで開発された人工関節で、他の先進国から遅れる形で2014年に日本でも導入されました。これにより、日本でも反転型人工肩関節置換術(reverse total shoulder arthroplasty:rTSA)が行えるようになったのです。
この術式は、欧米では「奇跡の術式」とまで称されています。また、日本においてはrTSAの適応となる腱板断裂性肩関節症の症例数が多かったこともあり、導入されると2015年の1年間で変形性肩関症に対して実施されたrTSAの症例数は、aTSAのおよそ3倍にも上りました。では、欧米では奇跡と呼ばれ、日本でもこれほど歓迎、施行されたrTSAの特徴とはどのようなものなのでしょうか。
まず、rTSAが奇跡の術式と呼ばれるようになった所以は、腱板断裂性肩関節症のように骨頭を引き寄せることができず上肢挙上が困難となった症例や、三角筋の筋力不足により偽性麻痺肩を呈した症例であっても、上肢を容易に挙上できるようになるということです。これは反転型人工肩関節の特徴的な構造に起因します。
 反転型人工肩関節では通常の関節や解剖学的人工肩関節とは反対に、骨頭となる部品が関節窩側に設置されます。これにより関節窩側が凸、上腕骨側が凹となり、関節面と外転運動の回転軸が内側かつ下方に移動することになります。すると筋の作用線と支点の距離が離れるため、モーメントアームもこの場合だと約70%長くなります。
てこの原理により長くなったモーメントアームの分発揮される外転筋力も増加するため、より少ない力でも上肢の挙上が可能となるのです。また、運動側が凹となるため、運動により人工関節が早期から緩むこともありません。これがrTSAの最大の特徴であり、日本でも歓迎された要因の1つです。しかし、日本で導入されてすぐに症例数が伸びたのには他にも理由があります。
日本で反転型人工関節が早期に取り入れられたその他の要因として、日本整形外科学会が作成したガイドライン準拠すれば、治験なしでも手術に導入できたという点が挙げられます。しかし、導入当時のガイドラインではrTSAの適応は腱板断裂性肩関節症に起因する偽性麻痺肩であること、そして70歳以上の高齢者に限るとされていました。
これではrTSAでしか対応できない70歳未満の症例では手術を行うことができません。このため、現在では臨床の実情に見合うようにガイドラインの改訂作業も行われています。また、三角筋機能不全に起因している症例では、手術により自動挙上100°以上にできる場合に限り適応しても良いのではないかという議論も行われています。ただし、いずれの場合においても一時修復が可能な軽度の腱板断裂については適応外となります。
なお、変形性肩関節症に対する術式の中にはbony increased offset(BIO)というものもあります。これは骨頭から関節窩への骨移植を伴う方法です。BIOは関節窩がコンポーネントの設置が困難なほど破壊された、 特殊な症例に適応されます。この術式でも、関節窩コンポーネントの設置位置を外側へ移動させることができます。

人工肩関節術後リハビリテーション

人工肩関節術後のリハビリテーションを行う際には、まず脱臼を防止するために脱臼肢位についてしっかりと把握するようにしましょう。また、aTSAとrTSAにはそれぞれデメリットがあります。このため、リハビリテーションではそのデメリットを避けるように配慮し、さらに解消するようにアプローチしていくことになります。以下ではそれぞれの術式の特徴とアプローチ方法についてご説明します。

解剖学的人工肩関節術後のリハビリテーション

aTSAの脱臼肢位は肩関節外旋位であるため、この肢位をとることは禁忌となります。また、aTSA後は拘縮を生じやすいという特徴を持ち合わせていることから、拘縮予防と可動域向上がリハビリテーションの主な目的となります。以下では時期によって異なるアプローチの内容を、相に分けて説明します。
第1相は術後4週目までの時期で、愛護的な介入を行います。まず、三角巾で患肢の安静を保ち、修復したばかりの肩甲下筋にストレスをかけないようにするため30°以上の肩関節外旋を禁忌とします。そしてこの時期に行うことは、創部のアイシングと低負荷な関節運動です。アイシングは1回15分、1日4~5回程度行います。また、関節運動は背臥位での自動介助運動や肩甲骨内転運動、コッドマン体操(振り子体操)等、術後の肩甲上腕関節へのストレスが極力少ないものが選択されます。
肩関節の他動可動域が屈曲90°、外旋30°、内旋70°に到達すると、第2相へ移行します。この相は、術後4~6週に相当します。第1層までは他動運動をはじめとした愛護的な可動域訓練が中心でしたが、第2相からは自動での関節可動域訓練も追加で開始します。
そして、自動運動にて肩関節屈曲140°、外旋60°に到達すると第3相となります。この相は、術後6~12週に相当します。この時期からは関節可動域訓練に加えて、肩関節周囲筋群の筋力増強訓練も開始します。
最後におよそ術後12週以降、自動運動にて肩関節屈曲160°を獲得すると最終相である第4相へと移行します。この相では獲得した関節可動域を維持しつつ、さらなる筋力増強を図るためのアプローチを行います。そして、徐々にスポーツ復帰することも可能となります。
なお、完全なスポーツ復帰は4~6か月後となりますが、リハビリテーションが終了しても人工関節に過度なストレスを与えるスポーツは控えるように指導する必要があります。

反転型人工肩関節術後のリハビリテーション

rTSA後は特に脱臼に配慮しながら介入する必要があります。rTSAでは肩関節伸展・内旋位が脱臼肢位となります。このため結帯動作と呼ばれる下着やエプロンをつけたり、背中の方へ手を回したりする動作は、術後3か月まで禁忌となることを指導する必要があります。そして、主な介入目的は三角筋の機能向上となります。
まず、術後6週までは第1相と呼ばれ、この時期は愛護的な関節可動域訓練と筋力増強訓練を行います。特に術後3~4週までは軽度外転装具を使用し、三角筋の過緊張を防止します。外転装具を使用するのは手術により患肢長が伸びることから、肩関節を30°程度外転させて三角筋へのストレスを軽減させるためです。
疼痛予防にはaTSA後と同様の方法のアイシングが適用されます。三角筋と肩甲骨周囲筋群の筋力増強訓練は術後4日目から開始し、ストレスの少ない等尺性運動を行います。なお、術後3週までの目標は他動的な肩関節屈曲120°、外旋30°です。内旋運動は第2相まで禁忌となります。
次は術後6~12週に相当する第2相です。この時期から自動運動による筋力増強訓練を開始しますが、三角筋の過緊張に起因する肩峰疲労骨折を防止するため、疼痛の出ない範囲で運動することを原則とします。なお、運動姿勢は背臥位、座位、立位と徐々に変化させていきます。
術後12~16週で第3相となり、積極的に関節可動域向上を図る段階になります。なお、第3相までの筋力増強訓練は等尺性運動のみで、等張性運動は次の第4相から開始されます。]
術後16週以降は第4相となり、肩関節屈曲120°、外旋30°が目標となります。また、等張性運動による筋力増強訓練も可能となりますが、第1相と同様に肩峰疲労骨折の防止に努める必要があります。このため、動作は緩徐に行う、荷重負荷は5㎏までとする、という注意点を守ることが重要です。
以上が反転型人工肩関節術後のリハビリテーションの進め方ですが、この術式は残存している肩関節外旋筋力の程度により予後が大きく異なります。具体的には肩関節外旋可動域が自動時と他動時で40°以上の差がある場合、リハビリテーション終了後も日常生活動作に制限が残ります。このため、リハビリテーション開始前に後遺症について十分に説明する必要があります。なお、このような症例の場合は広背筋移行術などを併用して腱板機能をカバーする方法が検討されます。

人工股関節置換術を行った方に対するリハビリテーション

人工股関節置換術を行った方に対するリハビリテーション

人工股関節置換術をはじめとした外科的手術を必要とする疾患を持つ方には、術前術後のリハビリテーションが適応される場合が多くあります。その目的は立つ、座る、歩くといった基本的動作能力の維持・向上です。
これらの目的を達成するため、運動療法を中心としたリハビリテーションによる筋力、持久力の維持・向上が図られます。しかし、一口に運動療法を行うといっても、患者様の身体状況や年齢などによって内容は異なります。今回は人工股関節置換術の適応となる場合の多い、高齢者に適した運動プログラムについて説明します。

高齢者の身体的特徴と運動療法の基礎事項

高齢者は運動しても筋肉はつかないと考えられがちですが、若年者と比較してゆっくりではあっても筋力の向上や筋肥大は可能です。しかし、ただ筋力向上だけを目指した運動をすればよいわけではありません。高齢者の身体的特徴と運動療法の基礎事項について押さえた上でプログラムを立案することが重要です。

高齢者の身体的特徴

まず、高齢者は一般的に加齢による筋力低下がみられます。この傾向は下肢にて顕著にみられます。下肢筋力は30代から徐々に減少が見られ始め、80代になる頃には20代の頃のおよそ半分にまで低下してしまうとされています。
このため、運動療法による筋力維持の重要性は高いのですが、若年者と同様のプログラムを行ってしまうと過負荷となってしまい、身体構造の破綻を招いてしまう可能性があるのです。そして、関節や筋肉、骨だけではなく循環器系への影響も十分に考慮することが必要となります。
このため、体に負担をかけないよう、適切な負荷の運動をゆっくりと行うプログラムを立案し、また患者自身にも運動の注意点を把握してもらうことが重要です。

運動療法の基礎事項

運動療法の中の1つである筋力トレーニングには運動効果を上げるための原則があります。まず、過負荷の原則です。筋力トレーニングは軽い負荷では効果が上がりにくいため、少し強めの負荷が用いられます。
ここでいう負荷とは運動の強さだけでなく、運動の頻度も含まれます。筋力増強効果を望むためには、最低でも最大筋力の60~65%の強度が必要であり、通常は4回から10回反復できる程度の強度が適切であるとされています。
頻度は週2~3回が適当であるとされています。これはトレーニングによる筋の回復と成長に要する時間から算出されています。トレーニングにより、筋は損傷しますが、この筋の損傷が回復することにより筋は成長します。このため、筋の損傷から回復が完了するまでの時間、約48時間を筋力トレーニングの休止期間として設けることが推奨されています。これが、筋力トレーニングの頻度が2~3回が良いとされている理由です。
次に、特異性の原則です。これは、脚力を向上させたければ、目的に合わせた筋肉をピックアップし、そこにアプローチをする必要があるというものです。 最後にプログラムの多様化です。運動療法はただ特定の、単一の筋にアプローチするだけでは不十分です。同じ内容のトレーニングを続けるのではなく、筋力や目標とする生活動作に合わせ、臨機応変にプログラムを変更、改善する必要があります。
ここまで運動療法の基礎事項について触れましたが、同じ筋力トレーニングでも筋の使い方、収縮様式によって効果に違いが出ます。筋の収縮様式には等尺性収縮、等張性収縮、等運動性収縮の3つがあります。
このうち等尺性収縮は関節運動を伴わないため、この収縮様式を利用したトレーニングは静的トレーニングと呼ばれています。これは関節への負担を抑える必要がある疾患、例えば関節リウマチを罹患している方などに適応されます。さらに特定の筋に対する筋力増強効果が高いこと、毎日実施した方が効果的であることなどの特徴も持ち合わせています。次に等張性収縮と等運動性収縮は関節運動を伴うため、動的トレーニングと呼ばれています。この中でも等運動性収縮は全可動域において一定の筋出力が得られるため、より高い筋力増強効果が得られるとされています。
ダンベルなどを使用した複合的な運動であれば、筋の協調性を向上させる効果があるというメリットもあります。しかし、特定の筋の、厳密な意味での等運動性収縮を得ようとすると特殊なトレーニングマシーンが必要となるため、個人や臨床においては行いにくいというデメリットも持ち合わせています。このように筋力トレーニングと言っても収縮様式を変えるだけで得られる効果には違いが出ます。このため、目的に合わせた運動方法を選択することも重要です。

人工股関節置換術後に施行されるリハビリテーション

ここまではリハビリテーションにおける基礎事項について説明してきましたが、ここからは人工股関節置換術後に行われるリハビリテーションの具体的な内容についてご説明します。
まず歩行訓練についてですが、人工股関節置換術の場合、例外を除き手術直後から荷重制限はありません。全荷重可能であるため、手術翌日から杖等を使用しての歩行練習を開始することができます。
次に、筋力増強訓練についてです。ここで対象となる筋は股関節周囲筋群だけではありません。膝関節や足関節周囲筋にも同時にアプローチすることが効果的であるとされているため、できる限り総合的な下肢筋力トレーニングが行われます。その中でも大腿四頭筋の筋力訓練がメインで行われますが、拮抗筋であるハムストリングスの筋力訓練も同時に行うことで運動効果は向上するとされています。なお、収縮様式は等尺性収縮が推奨されています。これらの条件を踏まえた大腿四頭筋に対するトレーニングの中でも、代表的なもの3つを以下でご紹介します。

①セッティング

 背臥位、または膝を伸展させた状態の座位で膝の下にタオルを挟み、それを膝で押しつぶすように力を入れてもらいます。これにより膝関節伸展位が保持され、大腿四頭筋の持続的な等尺性収縮を得ることができます。

②SLR(Straight Leg Raising)

 トレーニングする側の膝関節を伸展させたまま、下肢を挙上します。この時反対側の膝を立てておくことで、挙上の目安にすることができます。この方法では大腿四頭筋の遠心性収縮(筋が伸ばされながら筋力が発揮される収縮様式)と求心性収縮(筋が縮みながら筋力が発揮される収縮様式)の両方のトレーニング効果が得られます。また、腸腰筋の筋力トレーニング効果もあります。

③座位での膝関節伸展運動

 椅子に座り、片脚の膝関節伸展位を保持します。この時両側同時に行うと腰椎への負担が増強してしまい、腰痛を誘発する危険性があります。このため、片脚ずつ動作を行う必要があります。
以上の筋力トレーニングの強度や頻度は、運動療法の基礎事項でご説明したとおり患者の年齢や術前の身体機能によって異なります。このため、患者の身体状況を正確に把握したうえで運動プログラムを立案、実施することが必要です。