純粋語唖(純粋運動失語、音声学的解体症候群、純粋発語失行)

純粋語唖(純粋運動失語、音声学的解体症候群、純粋発語失行)

純粋語唖は、一貫性のない構音の誤りを示しますが、書字障害はないか軽微で、しかも聴理解、読解が正常に保たれた病態をさします。
純粋語唖、純粋運動失語、音声学的解体症候群、純粋発語失行など様々な呼び名が歴史的に用いられ、今日、本邦でも統一をみていないのが原状です。
発話は、発症当初は無言であるか、わずかの音に限られていますが、次第に発音できる音が増え発語失行と呼ばれる特徴が明らかとなります。
wertzらは、
  1. 努力性で、試行錯誤を示す構音運動の探索と自己修正の試み
  2. プロソデイー障害
  3. 同じ発話を繰り返した時、構音が一定しないこと
  4. 発話の開始困難
を発語失行の特徴として上げている。
なお、純粋語唖では、伝導失語の音韻性錯語と異なり試行錯誤により目標の音に近づく現象は少ないと言われています。
Sugishitaらは、構音の誤りにおける二重の非一貫性、すなわち、
  1. ある音素を構音しようとするとある時は誤り、ある時は正しく構音されるということ
  2. 誤る場合にはその誤り方が一定ではなくいろいろな誤り方をすること
を重要視している。
純粋語唖は、このような発話の特徴は、自発話、呼称、復唱などすべての表出面でみられます。
多くの非流暢性失語と同様に、 自動的発話(たとえば、1、 2、 3と数える)や反応性発話(「はい」「わかりません」など)が、他の発話場面よりも明瞭な構音で行われる場合もありますが、全例にみられる現象ではないと言われています。
復唱については、自発話より困難とする場合と復唱の方が良いとする場合がありますが、純粋例では明らかな差がない可能性があります。
発話の障害はゆっくりと改善しますが、病巣が特に小さい場合を除けば障害を残すことが多いと言われています。
純粋語唖では理解障害がなく、また書字が保たれており、何と言おうとしているかがわかることから、発話に関する様々な検討が行われてきました。
聴覚的印象による分析から指摘されているなかで比較的同意が得られているものとしては、
  1. 子音の誤りが母音よりも起こりやすい
  2. 子音の置換が、脱落、歪み、付加より多い
  3. 有声子音の無声子音への置換が多い
  4. 語頭の音の誤りが、語中や語尾の音よりも多い
などがあげられます。
発語失行では構音障害と異なり、構音にかかわる筋群の麻痺、協調運動障害、 トーヌスの障害はないか、あってもそれによつて構音の異常を説明できない程度である。
一方、口・顔面失行の合併は、はっきりしている例もありますが、合併しない例や、発症初期のみで消失するが多いようです。しかし、構音器官の非言語性運動の連続動作を行わせると障害がみられると言います。
顔面の下部を含む軽い右不全片麻痺を伴うことが多ですが、上下肢の麻痺は一過性である場合が少なくないと言われています。
書字は、まったく正常とされる場合と、発話と比べれば格段に良く筆談で意思を伝えられるが、多少の障害がある場合の両方があります。
書字障害は、 ミススペリング、文字の脱落、仮名の書字障害、助詞や送り仮名の誤りのほか、失文法や失語性の誤りと記載されているものもあります。
このような書字障害については、中心前回下部の病巣が発語失行だけでなく書字障害も起こすとする考え方がある一方、中前頭回後部の機能障害による書字障害の関与を示唆する報告もあるようです。