シャキア・エクササイズ(頭部挙上訓練 シャキア訓練)

シャキア・エクササイズ(頭部挙上訓練 シャキア訓練)



目的


舌骨上筋群など喉頭挙上にかかわる筋の筋力強化を行い、喉頭の前上方運動を改善して食道入口部の開大を図る目的で行います。
食道入口部の食塊通過を促進し、咽頭残留(特に下咽頭残留)を少なくする効果がありまう。


主な対象者


喉頭の前方や上方への運動が低下し、その結果食道入口部の開大が減少している患者。
球麻痺。一般高齢者


具体的方法


原法

➀挙上位の保持(等尺性運動):仰臥位で肩を床につけたまま、頭だけをつま先が見えるまで高く上げる。「1分間挙上位を保持した後、1分間休む」これを3回繰り返す。
➁反復挙上運動:同じく仰臥位で頭部の上げ下げ(upanddown)を30回連続して繰り返す。➀➁を1日3回、6週間続ける。以上は原法ですが、本邦の患者では負荷が大きすぎるため以下の方法が提案されています。


◉頭部挙上テストで負荷量を決める方法


①安静臥位でバイタルサインを測定する。

②持続法について頭部を持続的に挙上してもらい可能な持続時間を測定する→本人の最大持続時間の50%を持続挙上の負荷時間とする。50%負荷で運動をしてもらい直後にバイタルサインを測定し、収縮期血圧が安静時より20mmHg以上上昇しない、ないし180mmHgを超えない、脈拍が安静時より20/分以上増加しない、ないし120回/分とならないことを確認します。
バイタルの変動が大きい場合は安全な範囲で行えるようにさらに負荷量を減らします。

③反復法についてやはり反復可能な回数をあらかじめチェックし、最大反復回数の50%(端数は切り上げ)で負荷回数を設定する。バイタルについては同上。

④適宜(1~2週ごとなど)頭部挙上テストを繰り返す負荷量を増加させるかどうか検討します。ただし、原法の1分間持続、30回反復を上限とします。


◉喉頭挙上筋群を徒手的に鍛える方法


岩田らは頸部等尺性収縮手技を報告しています。これは抵抗に逆らって下額を胸の方向に強く牽引する方法です。介助者が行っても自分自身が自主訓練として実施しても効果があります。注目すべきは訓練直後に即時効果として舌骨、甲状軟骨の位置が上昇し、自覚的に嚥下が改善します。

また、2~4週継続するとRSSTの回数増加、頤―舌骨間距離短縮、頤―甲状軟骨間距離短縮があるとのことです。このことにより誤嚥防止効果が期待できるとしています。機序としてはシャキアー訓練と同じ喉頭挙上筋群に対するアプローチであるが、即時効果があるという点で興味深いです。


杉浦らは頭頸部腫瘍術後の喉頭挙上不良を伴う嚥下障害例に対して徒手的頸部筋力増強訓練を報告しています。これは、等張性および等尺性の抵抗運動3パターンを組み合わせたものです。等張性運動としては椅子座位姿勢で、治療者が患者の額に両掌を当て、後方へ引く力に拮抗しながら頸部前屈運動を行わせる。等尺性運動では、患者に頸部前屈姿勢をとらせ、治療者が額を後方に引く力もしくは下顎を上方へ押し上げる力に拮抗して頸部前屈姿勢を5~10秒間保持させます。
頭頸部腫瘍術後の筋力低下などによってShaker法など自動的な頭部挙上訓練が実施困難な喉頭挙上不良嚥下障害例に対しては、他動的な徒手的抵抗負荷をかけた筋力増強訓練が有効であるとしています。


注意点


症例によっては負荷が大きいので適宜、強度や頻度を調節する必要があります。

頸椎症や高血圧患者には注意が必要です。

舌抵抗訓練(Tonguestrengtheningexercises)

舌抵抗訓練(Tonguestrengtheningexercises)とは


等尺性筋収縮を要求する抵抗運動により舌の筋力を増強し、舌の容積も増大させることで、舌による食塊の送り込みや口腔、咽頭内圧を高めることを目指す訓練です。

舌の口蓋への押し付け訓練による舌骨上筋群の筋力増強効果も期待されており、喉頭挙上、食道入口部開大を目指した訓練としての適応も考えられています。

比較的簡便で安全に実施できるため、廃用等により舌の筋力の低下した患者をはじめ多くの摂食嚥下障害患者の間接訓練として用いられています。

具体的な方法


具体的方法としては、舌を口蓋に対して押し付けたり、舌圧子を用いて舌に負荷をかけるような抵抗運動を行ったりします。
どのような障害に対してどのような方法でどの程度の力で行うかといった診断法や訓練法が確立されているわけではなく、患者の耐久性等を考慮しながらそれぞれの臨床現場で行われているのが現状です。

最近では、舌圧測定装置を用いた方法も検討されています。
科学的根拠としては、若年健常者や健常高齢者で舌抵抗訓練により舌の筋力が増強したという結果が得られています。
脳卒中後の嚥下障害患者に本訓練を適用することで舌筋力の増加と嚥下能力の改善があったことも示されています。
口腔腫瘍術後の患者や慢性期の患者での症例報告も見受けられています。

唾液腺のアイスマッサージ

唾液腺のアイスマッサージ

目的

唾液腺上の皮膚をアイスマッサージすることにより、唾液を減少させる目的で行います。
主に流涎の多い患者様や絶えず唾液でむせている患者に対して行います。

方法

方法としては、寒冷刺激器(アイスクリッカー®)に氷、水を入れます。(寒冷刺激器がない場合はビニール袋に氷を入れて代用することが可能。)
唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)上の皮膚に寒冷刺激器を当て、回すようにしてマッサージをします。
唾液腺

一箇所につき10~15秒間マッサージし、1クール5~10分、皮膚が軽く発赤するくらいまで行い、1日3クール行います。
皮膚が濡れた場合は乾いた布でよく拭き取ります。
冷たすぎて患者が耐えられない場合は時間を短くして行います。
効果が出るまで2~3週かかることが多く根気よく続ける必要があります。その後効果を必ず確認します。

注意点

注意点としては、長時間同じところに当て続けないようにします(一時間以上同じところに当てていて凍傷につながった例があります)。終了後皮膚の状態を観察するようにします。
また、患者が嫌がる場合は無理に行わないようにします。
急に流涎が増えた場合は、脳卒中再発や口腔内疾患などの原因がないか確認する必要があります。

嚥下おでこ体操

嚥下おでこ体操

シャキア訓練(頭部挙上訓練)と同じ効果があります。
実際に頭部挙上訓練を指導してみると、円背の高齢者患者には臥位が取れずこの訓練自体が困難であること、臥床することの面倒さで実施率が下がることの経験から、岩田、杉浦らの方法を参考に自分自身でできる訓練法として藤島が考案した体操です。

方法

額に手を当てて抵抗を加え、おへそをのぞきこむように強く下を向くようにします。
下記の2つの方法で実施します。
①持続訓練:ゆっくり5つ数えながら持続して行う。
②反復訓練:1から5まで数を唱えながら、それに合わせて下を向くように力を入れる。
あごの下を指で触れると筋収縮がわかります。

即時効果もあるため、食前に実施すると良いです。
この訓練は手軽にできる上大変有効です。

注意点

症例によっては負荷が大きいので適宜、強度や頻度を調節する必要があります。頸椎症や高血圧患者には注意が必要です。

射絞扼反 嘔吐反射 咽頭反射 口蓋反射

射絞扼反 嘔吐反射 咽頭反射 口蓋反射



射絞扼反(gagreflex、催吐反射)


射絞扼反(gagreflex、催吐反射)は、舌根部や咽頭粘膜刺激で咽頭収縮による咽頭の閉鎖(絞扼)、軟口蓋挙上、舌の後退などがおこる反射であり、求心路は舌咽神経、遠心路は迷走神経運動枝や舌下神経である。絞扼反射は、刺激の結果としておこる運動効果に基づいた呼称である。gagとは、『(話せないように)口を詰まらせる』『むかむかする』という意味であり、嘔気を催すことが語源であることから、催吐反射とも呼ばれる。しかし実際の嘔吐がおこっていないことから嘔吐反射とは異なる。正常の嚥下時には発現しない。


嘔吐反射(emeticreflex)


嘔吐反射(emeticreflex)は、延髄の嘔吐中枢(最後野Areapostrema)の興奮によって起こる現象であり、脳圧亢進などの直接刺激、催吐剤による効果、または咽頭をはじめとする消化管からのかなり強い求心性刺激に基づき主として舌咽神経を介して嘔吐中枢を興奮させ、横隔膜・腹壁が収縮して腹腔内圧の上昇と同時に胃噴門や食道の弛緩と声門閉鎖をきたして胃内容物を吐出する一連の協調運動である。必ずしも咽頭への刺激を伴わずに生じる反射であり、刺激の結果として起こる運動効果に基づいた呼称である。繰り返しになるが催吐反射とは異なる。



咽頭反射(pharyngealreflex)


咽頭反射(pharyngealreflex)は本来の定義としては、綿棒で咽頭後壁を軽くこすったときに軟口蓋が挙上する反射であり、求心路は舌咽神経、遠心路は咽頭神経叢経由の迷走神経運動枝刺激による口蓋帆挙筋の収縮によって起こる。咽頭反射は、刺激を加える部位に基づいた呼称である。しかし多くの臨床書では前述の絞扼反射と同義に使用されることも多いのが現状である。

口蓋反射(softpalatereflex)

口蓋反射(softpalatereflex)は、綿棒で左右の前口蓋弓を軽くこすったときに、その側の軟口蓋が挙上する反射である。求心路は舌咽神経、遠心路は咽頭神経叢経由の迷走神経運動枝刺激による口蓋帆挙筋の収縮によって起こる。この反射は刺激を加える部位に基づいた呼称である。偽性球麻痺では低下している。

口唇閉鎖訓練 口唇訓練

口唇閉鎖訓練 口唇訓練

口唇周囲の筋(主に口輪筋)の緊張や運動能を向上させることにより、口唇閉鎖機能を獲得、再獲得することを目的として行います。

対象者は、口唇閉鎖機能が低下している患者(発達障害患者や脳血管疾患、口腔癌術後患者、高齢者などで流涎、取りこぼ し、食べこぼしなどを認める患者)です。

具体的方法としては、指示に従えない患者に対して行う受動的訓練(他動運動)と指示に従える患者が行う自主訓練(自動運動)とに大別されます。

受動的訓練は手指で口唇周囲をつかんだり押し上げたり(下げたり)などして、口輪筋の走行に対し垂直・ 水平方向へ筋肉を他動的に伸展・収縮させます。

直接訓練としての受動的口唇閉鎖訓練には、食事介助時に手指を用い て口唇閉鎖を介助して捕食運動を促す方法があります。

 自主訓練では、口唇運動能によって ① 自動介助運動、② 自動運動(口唇伸展、口唇突出、口角引き)、③ 抵抗(負 荷)運動を行います。

抵抗(負荷)運動は舌圧子・木べら・ストロー・定規などを口唇で挟んで保持する他に、ボタンプル(前歯と口唇の間に紐をつけたボタンを挿入し、紐を引っ張ってボタンが口腔外へ飛び出さないよう口唇に力を込 める訓練)など、様々な口唇閉鎖訓練器具(パタカラ、リフトアップなど)を用いた訓練法が考案されています。

注意点としては、麻痺を認める患者では非麻痺側の筋肉が活動し,麻痺側の筋肉は活動ません。そのため、訓練を 行うと非麻痺側の筋力がさらに強化されるだけで、麻痺側の筋力は改善されないことになります。
自主訓練を行う際は、健側の運動を抑制して患側の運動を集中的に行う方法(CIセラピー)が有効です。

脳卒中上肢機能検査 Manual function test(MFT)

脳卒中上肢機能検査 Manual function test(MFT)


脳卒中上肢機能検査とは

脳卒中上肢機能検査 Manual function test(MFT)は、脳卒中片麻痺 患者の神経学的回復時期における上肢運動機能の 経時的変化を測定・記録することを目的として、 東北大学医学部附属リハビリテーション医学研究施設・鳴子分院において中村隆一らにより開発されました。その後MFTは、一部改良されてMFT-2となっています。

MFTは8つの項目からなる上肢機能検査です。
「上肢の前方挙上」「上肢の側方挙上」「手掌 を後頭部へ」「手掌を背部へ」「握る」「つまむ」 の遂行可否、「立方体運び」「ペグボード」の規定時間内の達成数から得点化します。
32のサブテス トがあり、テストごとに不可0点、可1点が与えられ、サブテストの合計は32点満点です。
これを3.125倍して100点満点にしたものをMFS (manual function score)と呼びます。

実施時の注意点

「握る」「つまむ」は、手指の機能を評価しているので、健側上肢で患側上肢の手首を支えてもよいです。
その一方、「立方体運び」 「ペグボード」は、上肢と手指の複合機能を評価 しているので,健側上肢で支えてはいけません。
また、「両側上肢とも検査する」「テストの指示 は言葉による説明と実演を併用する」「患者が指 示を十分理解するように、各テストは原則として 健側から行う」などの注意点も記されています。
MFSと脳卒中発症からの期間とには、双曲線関数によって表される関係があり、上肢機能レベ ルの予後予測にも利用が可能とされています。
森山らは、発症6カ月未満の脳卒中141例の 麻痺側上肢機能を、MFTを用いて12週以上にわ たり4週ごとに評価したところ、MFSの経時的変 化は84例(60%)で双曲線回帰に近似可能であり、回帰成立の決定因は、初回MFS(26~75点)、発症からの期間(発症後8週以内に一部随意運動が認められた症例)であったと報告しています。

マニュアルはこちら↓

人工呼吸器の種類と長所と短所

人工呼吸器の種類と長所と短所

侵襲的陽圧呼吸(IPPV) : チューブなど人工気道を介して陽圧呼吸を行う方法です。
非侵襲的陽圧呼吸(NPPV) :マスクを介して陽圧呼吸を行う方法です。

侵襲的陽圧呼吸(IPPV)の長所と短所
長所:確実な気道確保、気管内吸引が容易。誤嚥の可能性が少ない。呼吸・循環管理がしやすい。etc
短所:苦痛を伴う(気管内チューブ・吸引により)ときに鎮静剤などの薬剤が必要。感染の可能性がある。気道・口腔粘膜損傷の可能性。コミュニケーション・活動の制限。etc


非侵襲的陽圧呼吸(NPPV)の長所と短所
長所

・気管内挿管や気管切開をしなくても良い
・食事・会話が可能である
・感染(人工呼吸関連肺炎VAP)の軽減できる
・装着・中断・離脱が容易である
・鎮静剤を軽減できる
・咳反射の温存:気道クリアランスの保持・血行動態・頻脈が改善できる
・酸素化が改善できる(PaO2/FiO2の上昇):PEEPによる平均気道内圧上昇
・換気の補助が可能である:PS・PCVなど換気圧(⊿P)による効果 ・死亡率が改善できる
・入院期間が短縮できる
短所
・気管と食道を同時に送気してしまうことのよる呑気・誤嚥:マーゲンチューブの必要性
・患者の協力が必要である:不穏だと難しい
・意思の疎通ができる患者のみ使用可能
・自発呼吸がある患者のみ使用可能
・高気道内圧がかけられない:不快感・リークの増大
・マスクの顔面圧迫による皮膚障害が形成され易い:前頭部・鼻根部の褥瘡の形成
・血圧低下、尿量減少