人工呼吸器による身体への影響

人工呼吸器による身体への影響

 人工呼吸器が正常の呼吸と違う点は、大きく分けて次の2つになります。

①人工呼吸器を行うための人工気道が挿入されていること。
②通常の呼吸は陰圧呼吸であるのに対し、人工呼吸は陽圧呼吸であること。この陽圧呼吸が身体に様々な影響を与える。

(1)呼吸器系への影響
 上気道に気管チューブが挿入されることで、鼻腔咽頭をバイパスし、本来の加湿・加温が行われなくなります。性状呼吸での吸引ガスは、気管分岐部でほぼ相対湿度80%まで過失がなされます。そして肺胞に達した時には、温度37℃、湿度100%まで達しています。
 気管チューブはこの機能を妨げるため、起動粘膜上皮の繊毛運動が低下し、起動粘液の粘稠性が増すこととなります。そのため、痰や微生物などの排出機能が低下します。さらに、人工呼吸におけるパイピングガスは低温・乾燥状態にあるため、直接吸入すると起動粘膜の乾燥は促進され、固着、貯留して感染や起動閉塞をきたす要因となります。
 非生理的な人工呼吸(陽圧呼吸)を続けることで肺のコンプライアンスは低下します。それが進行してくると無気肺の原因にもつながります。その結果、肺内にシャント形成がなされ、酸素濃度を一定にしていてもPaO2の低下が見られることがあります。
 持続的な陽圧呼吸は、肺に機能的障害を生じるだけでなく、肺組織自体に損傷を与え、肺胞内ガスが肺実質外へ漏れ出すこともあります。(皮下気腫、気胸など)
 気管チューブの留置自体に伴う合併症は、気道損傷です。これは挿管チューブの位置や固定が適切でない場合に、先端で気管粘膜を損傷するという事です。特に体位変換や体動などによって位置がずれることは少なくありません。その為体位変換後などには、適切な位置に留置されているかどうかを常に確認することを習慣化しておくことが必要です。
 気管チューブのカフにより、起動粘膜を圧迫し、壊死を引き起こすこともあります。これは後に瘢痕化し、抜管後の軌道狭窄の原因となります。

(2)循環器系への影響
 陽圧は肺を通して胸腔に伝わり、自然呼吸時に存在していた胸腔内陰圧を消滅させます。
 心臓はもともと陰圧の環境下にあるため、静脈血は末梢から中枢の右心房に還流しやすい状態にあります。しかし、人工呼吸ではこの胸腔内圧が上昇し、むしろ陽圧となるため、静脈血は戻りにくくなります。右心房の静脈還流が減少すれば、当然、心拍出量も減少してきます。
 陽圧呼吸による静脈還流は、気道内圧に反比例します。つまり平均気道内圧が高いほど静脈還流は減少します。したがって、吸気時間が長くなる場合や、常に気道内が陽圧に保たれているような場合(たとえば、持続陽圧換気:CPPV)は著明な心拍出量の減少を起こす危険性があります。
 通常ある程度の胸腔内圧の上昇に対しては、心拍出量を一定に保とうとする代償機能が働きます。しかし、静脈血流量の減少や中枢神経系に高度な抑制がある場合は、この代償機能が働かず、著明な心拍出量の減少をきたす恐れがあります。

(3)水分代謝への影響
 静脈還流の減少により、右心房の伸展が抑制されます。生体側では、これを循環血液量の減少ととらえ、恒常性維持の為下垂体後葉から抗利尿ホルモン(ADH)分泌が促進されます。これにより尿排泄を抑制し循環血液量を維持しようとします。

(4)その他
 ストレスによる潰瘍形成や消化管出血、空気の嚥下に伴う胃の膨満を起こしやすくなります。これは腹圧を上昇させ換気障害の原因となります。さらに、全身状態の悪化に伴い、腸管の蠕動運動が抑制され、呼吸運動の障害につながります。

*参考 Expert Nurse Vo.19 No.14