開心術後の嚥下障害

開心術後の嚥下障害

開心術は外科手術の中で最も高侵襲の手術であり、手術時間が長くなればなるほど高侵襲となります。Harringtonらの報告によると他の外科的な手術に比べて冠動脈バイパス術は嚥下障害が多いとされており、手術侵襲の大きさが嚥下障害に関与している可能性があります。

脳梗塞既往患者においては、術前に嚥下障害を認めていなくても、高侵襲の手術をすることで、全身状態が悪化し、症状が出現した症例があります。脳血管疾患の既往は開心術後の嚥下障害のリスク因子であるという報告は多く、周術期に脳梗塞を生じた場合、誤嚥のリスクは21倍になるとの報告もあります。

胸部大動脈疾患においては東野らの研究で有意差を認めており、一般に心臓血管外科術後の反回神経麻痺の発生率は1。9~6。9%と報告されています。特に胸部大動脈手術ではその頻度は高く、Itagakiらは通常開心術の6倍のリスクがあると報告しています。これは術前からの瘤の神経圧排や手術操作が原因と考えられています。胸部大動脈手術は手術時間が長く、術後の脳血管疾患の発症率も他の術式に比べ高いため、反回神経麻痺だけでなく、これらさまざまな要因において嚥下障害を発症しやすいと考えられています。

 長期挿管においてはさまざまな研究において嚥下障害の発症率が高いとされています。Barkerらの検討によると開心術後に長期挿管を要した患者の51%に嚥下障害を生じている。その要因としては、挿管チューブによる咽頭・喉頭の廃用性変化と長期挿管が必要な呼吸・循環状態である(全身状態が悪化している)ことがあげられます。これらは、挿管時間が長くなればなるほど生じやすいとされています。
須田らは循環器疾患患者の抜管後の摂食嚥下障害は、生涯がその後長期にわたって残存するわけではなく、ある程度の期間を経過すると元の食事形態まで回復することが明らかになったと述べています。また、中村らの研究においても初回評価時の摂食嚥下機能の低下を認めた25例全例が最終評価時には経口摂取可能となっているとの報告があります。東野らは術後の全身状態の回復が遅れることで嚥下機能も低下し経口摂取自立に時間を要すが、全身状態の改善とともに元の食事形態に到達するとしています。

多くの開心術後の患者は術後早期に食事(普通食)開始となりますが、嚥下機能の低下している症例に対して食事を開始すると誤嚥性肺炎など合併症を発症しやすくなります。一方食事を開始しない場合、術後の栄養摂取が不十分になり、回復に影響を及ぼしてきます。最終的に嚥下障害が消失する症例であっても、術後早期に言語聴覚士が嚥下機能の評価を行い、適切な栄養摂取手段を検討し、段階的な嚥下訓練を行っていくことで、合併症は減少し、より早期に回復していくものと考えられているようです。

まとめ
開心術は外科手術の中で最も高侵襲の手術であり、手術時間が長くなればなるほど高侵襲となる。特に、冠動脈バイパス術は嚥下障害が多いとされており、手術侵襲の大きさが嚥下障害に関与している可能性がある。
脳梗塞既往患者においては、術前に嚥下障害を認めていなくても、高侵襲の手術をすることで、全身状態が悪化し、嚥下障害が出現する場合がある。
胸部大動脈手術は手術時間が長く、術後の脳血管疾患の発症率も他の術式に比べ高いため、反回神経麻痺だけでなく、さまざまな要因において嚥下障害を発症しやすい。
開心術後に長期挿管を要した場合嚥下障害が起こりやすい。要因としては、挿管チューブによる咽頭・喉頭の廃用性変化と長期挿管が必要な呼吸・循環状態である(全身状態が悪化している)ことがあげられる。
循環器疾患患者の抜管後の摂食嚥下障害は、生涯がその後長期にわたって残存するわけではなく、ある程度の期間を経過すると元の食事形態まで回復すると言われている。
術後早期に言語聴覚士が嚥下機能の評価を行い、適切な栄養摂取手段を検討し、段階的な嚥下訓練を行っていくことで、合併症は減少し、より早期に回復する。